ドスエルボの街1
途中、神狼が仲間に加わるとイベントがあったものの、それ以降は特に問題もなく1つ目の街、ドスエルボへと到着した。
元々、要塞であっただけあって、頑強な造りになっている。街を囲う高い塀は二重になっており、外塀は魔獣やかつての侵略の名残か上部や下部の一部が崩れかけていた。しかし、誰かが運んできたのか様々な蔦科の植物が塀全体を覆い、完全な崩落を防いでいた。そして、門を通り、中に入れば、外塀と内塀の間には水堀で二分されており、内塀側には田畑や物置だろうか小さな建物も見える。
「さっき、門にいた人たちは竜人?」
「あぁ、よくわかったな」
「なんていうか、ミンシュエンやズールイみたいに目張りっていうのかな、目の端に紅をさしてたからさ」
「なるほどな、よく見てる。ここドスエルボは龍国に近いだけあって、竜人が多い。ちなみに次に行く予定のレイフェゴは獣人が多く、最後の街グランオベハは人族が多いな」
「それぞれ近いところの方が逃げても来やすいから納得かな」
門の詰め所にいた大柄の男たちは皆、目の端に紅を入れていた。それをカテリーナがズールイに確認すれば、街の人口の割合まで説明する。
「それにしても、畑とかもあるんだね。いや、近所に村などもないから、ここで育てるしかないのか。物資の調達など、ここだと難しそうだしな」
「そうですねぇ。もうちょい昔はあの畑なんかも荒れ放題だったんですよぉ」
「私どもが来た時よりはだいぶ良くなってきてるんですよ」
そうララやエリゼウはそう説明する。そんな説明を聞きながら、カテリーナはココの状況を知ってるという事はララはいつからメイドをやっていたんだろうと思うが、メイドをやりつつも護衛とかもやってそうだなと考え直し、一人で納得した。
しかし、どうにも荒れ放題だったのは畑だけではなく、街全体も当時は凄まじいものだったようだ。
ズールイ達曰く、雨風をしのげるだけいいというような状態というのだが、それならば魔獣の危険性も十分にあったのでは疑問が浮かんだ。ところがそこは運が良かったらしく、外塀に絡む蔦の中に魔除けの類も含まれていたため魔獣たちからの襲撃はなかった。そのため、現在においても蔦はそのまま自由にさせているというわけである。
「蔦の特定は出来てる?」
「いや、してねぇよ」
「そっか」
「特定したところで、どうもしないだろうしな」
「それはどうかな」
現在、魔除けと言えば、そういう術式を組み込んだお守りか、野営の時にも使用できる魔除けの火ぐらいだ。もし、魔除けに使用できる蔦が本当にあるのであれば、それを上手く利用できないか考えるべきだとカテリーナは言う。例えば、液体にして撒いても効果があるんじゃないだろうか。それか、街道に蔦を這わせて魔獣との遭遇を減らすことも出来るのではないだろうかとポンと浮かんだ考えを口にする。
「ただでさえ、二国に挟まれた辺境だよ? 活用できるもは活用したらいいと思うんだよ。もし、液体として使えるのなら、金稼ぎにも丁度いいしね」
「そうなると、旅も楽になりますねぇ。あ、街道を整備できれば、いい商品とかも入ってくる可能性が!!」
「まぁ、その商品とかに関しては需要の問題もあるだろうね」
そんな言葉を交わしながら、内門も過ぎ、街の中を進む。街中では全員、馬から下り、歩く。リカルドはきっちりカテリーナの隣を陣取り、嬉しそうに尻尾を振りながらついてきている。
「で、どこにこれは向かってる感じ?」
「あぁ、基本的に街は大将がいない間、まとめてくれている主長がいるんだが、そいつの所だ」
「主長」
「あぁ、タイランって奴だ。元々は龍国の小さな村に住んでたらしいんだがな」
色々あってココに流れ着き、真面目な性格もあって主長として選ばれたそうだ。最初こそは上手くまとめられなかったらしいが、今では自分の仕事もしつつ、周りを使って情報を集めることができる程になっているらしい。
そんな話を聞きながら、カテリーナは街を観察する。要塞時から道や区画がきちんと整備されていたようで今の場所からでも真っ直ぐ中央広場が見える。所々、空き家もあるのかボロボロの建物もあるが、人が住んでいるところはきちんと補修もしくは建て直されており、人の生活が見られる。
主張の屋敷やルシエンテス家保有の別宅について尋ねれば、二つの屋敷は連絡が取りやすいように隣接した形で街の中央区に構えられていると答えが返ってくる。特に別宅に関しては街を概観できるようにと鐘塔が敷地内に併設されている。そのため、本来であれば教会に設けられる鐘塔はないのだという。
「え、なんで魔獣が街に」
「ん、ズールイさんも一緒にいるぞ」
「あー、ズールイさんが一緒なら大丈夫か」
「ズールイさん、久しぶりに見るな」
「あぁ、ズールイさん、お元気そうで何よりです」
ズールイさん、ズールイさんと歩いているとそんな声が度々カテリーナの耳に届く。丁度、見回していたこともあって、ズールイの名前を口にする人達の姿も目に入っていた。その人達は老若男女問わず紅で目張りをしていた。
「……ズールイ、大人気? それとも、実はお偉いさま?」
「そんなんじゃなぇよ。ただ、大将と始めの頃、よく顔を出してたからだろ。なんだかんだ、同じ人種がいるだけでも落ち着くもんだ」
そう呆れたように言うズールイだったが、こそこそと呟く人たちを見るとそんなんじゃないと思うけどと喉まで出かかる。しかし、ミンシュエンはがっつり殴っていたが、ズールイにとっては触れられたくない所なのかもしれないと改め、そっかの一言で話を終わらせた。
そうやって歩き、中央広場に到着すれば、そこには眼鏡をかけた優しそうな男性が従者か護衛らしき人を携え、待っていた。恐らく、アレハンドロあたりが到着予定日などを連絡していたようだ。
「ズールイさん、お待ちしておりました」
「……あのなぁ、俺はただの騎士団の副団長だ。挨拶するならコイツの方が先だぞ」
「え、あ、これは失礼いたしました。えっと、お嬢様でよろしいのでしょうか」
真っ直ぐ迷うことなくズールイの許に挨拶に向かったタイランにカテリーナはまぁ、自分が公爵令嬢には思えないよなと苦笑いを零す。しかし、ズールイに注意され、カテリーナに気づいたようで困惑しつつも言葉をかけてきた。
「申し遅れました。僕はカテリーナ・デ・ルシエンテスと申します。お嬢様などと呼ばれるのは少々、苦手ですので若、もしくはカテリーナとお呼びください」
「これはルシエンテス公爵様のご令嬢とは大変失礼いたしました。私は主長を務めておりますウー・タイランと申します。えーと、その」
丁寧に名乗れば、タイランはやってしまったとばかりに青ざめる。ただ、呼び方に関してはどうしたものかと困惑が窺え、ズールイは俺らは若と呼んでいると手助けをしてやる。それで選択肢は決まったようで若様と呼ぶようになった。
その後、タイランの案内で少し中央広場の近辺にある建物を紹介してもらい、別宅へと向かった。
「手紙で若様の訪問も書かれていたのに、やってしまいました。あの、気分を害されましたよね」
「いや、それはないな。多分、向こうもなんとなくわかってんだろうよ。気にすんな」
昼食をいただき、カテリーナはララとエリゼウを連れて、街探索に出かけていて、別宅の書斎ではタイランとズールイが向き合っていた。
「そうですか。それならいいのですが。それで、ご予定の方はどのような」
「あぁ、2泊ぐらいしたら、レイフェゴに向かう予定だ」
「随分と短いですね。公爵様でももう少し滞在されますよ」
「まぁ、若に街を見させるだけの過密日程だからな。それに若があまり向こうにいないとちょっとした問題があるんでな」
しかたないことだと言えば、そうなのですねと深くまで尋ねてはこなかった。
「して、あの、大変聞きにくいのですが、あそこの狼らしき魔獣は一体」
「ん、あぁ、アイツはまだ小さいが神狼らしい」
「なっ!! それは何か特別なものなどをご用意したほうがよろしいのでしょうか」
カテリーナにお留守番と言われ、ズールイの傍で退屈そうにしているリカルドについて問われる。その答えが神獣と聞き、驚くタイランは慌てて準備をしなければと席を立つが、ズールイは必要ないと手を振る。
「若に侍らせておけ」
大のお気に入りみたいだし、若が面倒を見るから不要だと言えば、落ち着いたように椅子に座り直し、近況報告へとなった。
暫くしてから満足そうに帰ってきたカテリーナだったが、そこにはおかしなお土産も一緒で、ズールイは同行していたララとエリゼウを睨んでからお前らがいながらとばかりに手で顔を覆った。
元社畜は自由を謳歌する 東川善通 @yosiyuki_ktn130
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