旅は道連れ
夜が明け、日の光が木々の間を抜け、朝を告げる。朝だ、起きろと言う光に眩しいと眉を顰める者、顔を振って拒否を示す者、手で影を作って拒絶する者とがいたが、ぴたりと空気が固まった。
「「「……」」」
バッと飛び起き、周囲を確認。ただ単に自分が寝すぎただけなのかとも考えたが、他の2人も自分と同じことを考えた顔。つまり、その可能性は0。残る1人はと目を向ければ、焚き火で朝食のつもりかスープを煮込んでいる。
「あ、おはよう。よく寝れた?」
「あ、あぁ」
カテリーナの言葉にそうズールイが返すがズールイの視線の先はカテリーナの後ろに釘付けになっている。勿論、ララやエリゼウもだ。ただ、エリゼウに関しては少々違い目を見開いて驚いている様子だ。
「はい、リカルドのも出来だぞ」
「わふっ」
熊ほどの大きさの狼――リカルドはさも最初からいましたとばかりにカテリーナから朝食を貰っている。はい、皆にもと出すカテリーナだが、ズールイ達は大人しく流されるわけにはいかない。
「若」
ガシッとカテリーナの頭を掴む。同時にぴぇっと悲鳴のようなものが聞こえた気がするが、そんなはずはないだろう。
「一から全部話せ、いいな」
「……あい」
ズールイの金色の目には自白させる力でもあるのではないだろうかとそんなことを考えながらも、カテリーナは正直にリカルドとの出会いを語った。
「俺らが朝まで起きなかったのは、そいつらのせいか」
「うん、リカルドたちの仕業。僕は魔法耐性が高いみたいで効かなかったみたい」
食事をとりながら、時折、確認のように言葉を飛ばしてくるズールイに無心で食事を口に運ぶエリゼウ、リカルドの様子を眺めながら何かを窺っているララ。語りながらも。あの空間の時間の流れが現実と一緒でよかったと心の中で零す。そう思うのもカテリーナはリカルドたちの傍で寝てしまい、飛び起きたのは朝日が昇りだす少し前だった。
『起きたようだね』
白狼ことアリアナは名前持ちだったらしく、起きたカテリーナに名前を告げてきた。そして、そんなアリアナに自身も名乗り、アリアナの傷の具合を確認する。そして、包帯に魔力を圧縮させて重ねる。今、巻いている包帯自体カテリーナから離れれば次第に魔力が尽き、消えてしまう。そのため、少しでも長く具現化させておくための処置にすぎない。無論、アリアナは必要ないとしたが、カテリーナに押し切られた。
「あ、時間って」
『この空間は変わらないよ。もうじき、朝日が昇るだろうさ』
「うわ、それ、ヤバい。僕、戻るよ。一応、大丈夫だと思うけど、無理はしないようにね」
『余計なお世話だよ。あぁ、でも、そうだね、あんたには傷を治してもらったからね。そいつを連れて行きな、案内するだろうし、番犬にもなるだろうさ』
尻尾をぶんぶんと振る狼を顔で示せば、カテリーナはいいの? と尋ねる。
『そいつは勝手にあたしについてきたんだ。構うもんかい。それにあんたについていきたいってよ』
アリアナはそう言って笑い、狼はカテリーナの周りをくるくると回っている。
『あと、そうそう、呼びづらいだろうから名前をつけてやりな』
あたしもそういう理由でアリアナってつけられたからさと言ったアリアナ。そして、狼というイメージから言葉に出たのが「リカルド」だった。
そして、アリアナは獣国に向かうという。戦った敵の縄張りに行くというのにリカルドはと問えば、足手纏いだと一蹴された。
「じゃ、僕は行くね」
『勝手にしな』
リカルドの背に乗せてもらい、カテリーナはズールイ達のいる場所へと戻り、現在へと至る。
「てかさ、エリゼウ、震えてるんだけど、大丈夫? 寒いの?」
「いえ、あの、その、まさか、生きてお目にかかるとは思っても見なかったので。それにまさか、若に従われているという事にも頭がついていけてないだけです」
「もしかして、リカルドが何なのか知ってるの? 魔獣事典とかに載ってなかったと思うし、分かんなくてさ」
「えぇ、まぁ、というか、その、魔獣というのはとんでもないです。神獣にあらせられまして、獣国において、王の象徴としても奉られている神狼様です。少し違うところがありますが、大まかなところは伝承などでの特徴がそうですし、その、『アリアナ』様という方は恐らく獣国創建から関わっているのではないかと思われます」
なにしろ、王祖ともいわれる白獅子は神狼アリアナと共に国を興したと獣国の歴史書に記載されているんですと拳を握ってつらつらと語る。その目がキラキラと輝いているのは目の前にリカルドがいるためなのか、創建伝説が好きなのか、はたまた、彼の性分が犬であるためなのかはズールイとカテリーナにはわからない。
ちなみに話に興味のなかったララはリカルドをもふもふしようとしてリカルドに吠えられた上に警戒までされた。
「いいじゃないですかぁ! 減るもんじゃないですよぉ」
「いえ、減ります。減るのでご遠慮ください。そもそも、神狼様はペットではありません。獣人にとって貴いものなのです。わかります? こうして目の前にいらっしゃること自体奇跡でして――」
ララの言葉に即反応したのは目をキラキラさせて語っていたエリゼウ。ただ、ララの方を向いたエリゼウはキラキラした目からハイライトが失せ、無表情でララに詰め寄っている。
カテリーナはズールイにお仕置きとばかりに頭をギュッと絞められ、痛みに悶えていたが目の前の光景には苦笑いを浮かべた。
「エリゼウって、あんなんだっけ」
「しらねぇ。それよりお前は反省しろ」
「いっでぇ! してるよ! 悪かったって思ってるから」
力を抜いていた手にグッと改めて力を入れれば、叫び声をあげて、慌てるカテリーナ。それからほどなくして、カテリーナも解放され、滔々と語られていたララはげっそりとしていた。
「で、リカルドの同行は」
「許可はする。面倒はお前が見る、いいな」
「うん! やったね、リカルド」
「ウォン」
元の場所に戻してこいとも言えず、リカルドの同行許可が下り、カテリーナはわしゃわしゃとリカルドを撫でるのだった。
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