第十三回

 ーー四年後。


『スーパー戦隊シリーズ三十五周年 新しい試み! 初の女性レッド! ……だって。スゲーじゃん』


 電話越しに海人が読み上げたのは新聞記事で、インタビュー雑誌、ニュースでもその話題が取り上げられていた。


「ありがとう」

『夢、叶えたんだな』

「うん」

『なんだよ、あんまり嬉しくなさそうだな』

「嬉しいよ! ……嬉しいんだけど、なんか本当にこれって自分のことなのかなって実感が湧かないっていうか……」

『そうだよな。予想してたよりも大きく載ってるしな』

「そうなの! まさかこんなにドーンと話題になると思ってなくて!」

『いいんじゃねえの。女優として名前が知られるのはいいことだろ』

「そうだけど……エゴサしてみて賛否両論なんだよね。女がレッドは変とか」

『賛否両論なのはどの作品だってあるだろ? それに、ある意味そういうのも狙いなんじゃねぇの?』


 三十五周年のスーパー戦隊シリーズは、七色戦隊ニジレンジャーというタイトルに決定している。コンセプトは『自分の【好き】を他人に決めつけられたくない。自分の色【個性】は自分で決める。マジョリティの圧に負けるな、【個性】で打ち勝て!』というものだ。


「かもね。世の中には色んな人がいる。文句や否定が怖くて本音で話せなかったり、隠したり、嘘を吐かないといけなかったり。そういう人たちに少しでも勇気をあげられたらいいな」

『じゃあ頑張らないとだな』

「うん! あっ、それより百瀬さんの次のドラマ予告観た!?」

『それよりって……ホント百瀬 白椏のこと好きだよな』

「それはそうだよ! だって百瀬さんだよ!?」

『はいはい』


 百瀬さんは俳優業に復帰。その際に実は桃色が好きだということを公表すると、桃色=可愛いものが好きというイメージが付いた。ダンディな男性が可愛いものが好きというギャップで話題を呼び、人形や動物などの可愛いものとを掛け合わせたドキュメンタリーやドラマに出演している。


「次のドラマはペット絡みでさ、絶対に感動するやつだよ! 絶対ボロ泣きする〜!」

『感動系じゃなくても、カッコいいアクション見たって泣くだろ』

「百瀬さんのカッコよさ満点過ぎて泣ける」

『ははは、そういうところお前は変わらないな』

「海人はなにか変わった?」

『オレはまだまだ勉強中だからさほど変わらないな。親父からも色々学ばせてもらってるよ』


 いつも名前で呼んでいてすっかり忘れていたけど、海人の名字は青木。百瀬さんの元マネージャーの青木 颯太さんは海人の父親だった。どうやら海人から、あたしが女優を目指してるとかレッドに憧れてるって聞いてたみたい。


 海人は大学で勉強しながら、父親に話を聞いたり直接仕事を見て学んでいる。テレビ業界に興味があるらしい。


「そっか。海人も頑張ってね」

『未来の大物女優に負けないようにな』

「あはは、まずはその一歩を踏み出さないと」


 ニジレンジャーが放送されると、スーパー戦隊シリーズは男児向けだが、男児だけでなく、女性がレッドということで女児も、コンセプトのお蔭か大人も視聴するようになった。多様性を謳う今の世の中のニーズに合っていたようで、スーパー戦隊シリーズでは異例の高視聴率を記録した。

 そして、スーパー戦隊シリーズが好きで特にシュゴレンジャーが好きというあたしの名前は一躍有名となる。シュゴレンジャーはトレンドワード三位になる程の快挙を達成し再放送された。

 シュゴレンジャーの再放送をきっかけに百瀬さんの名前も更に世の中へ知れ渡ることとなる。

 シュゴレンジャーを広めた立役者としてあたしが、功労者として百瀬さんがトークバラエティ番組にゲストとして一緒に出るという夢のような時間も。


 ーーたくさん努力して、運も味方してくれて、色んな人の協力があったからあたしはこうしてレッドになる夢を叶えることが出来た。一度は諦めた夢だったけど、また夢を追いかけて本当に良かった……。


「スーパー戦隊最高!!」



 END

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初恋はレッド 月嶺コロナ @tukimine960

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