第45話 当日———朝

「行きたくねぇ……。」


そう、今日は文化祭。そして俺は行きたくないのである。

朝ベッドの上で20分ほどモゾモゾしていると時間が迫っていることに気づき急いで朝食をとる。


なんだろうな、この現象。

散々行きたくないと言っておきながら、いざ遅刻しそうになると必死になって間に合わせようとする。

朝食を食べ終わり、歯を磨き終わった後制服に着替えると、昨日のうちに準備しておいた荷物を担ぐと家のチャイムが鳴った。


「はーい。」


こんな朝から誰だろうか?

うちは両親は共働きで朝早くから仕事なので俺などにかまってる時間はない。


「今日は晴れてよかったわね。」


バタンという大きな音とともにおもいきり扉を閉まった。

その後俺は急いで家のロックをかけた。

あれ?見間違いかな……いやそんなはずは……。

先ほど目に映ったのはこのクラスにいる病弱の斎藤優香さんのはずだ。なぜこの家の目の前にいるのだろうか?

そんなことを考えているうちに、ガチャリという音が聞こえた。何かと思い鍵を見てみると見事に開けられていた。


「おはよう、ポンコツ執事さん。」

「何しにきやがった自称病弱姫。」


「忠告をしに来てあげたのに?その態度でいいのかしら?」


何やら得意げに胸を張る彼女、ないものは張っても意味がない「なにかろくでもないことを考えたかしら?」

「イイエナニモ。」


「で、忠告ってなんだ。」


俺が聞くと彼女は親指を立てて後ろに振った。指先の延長線上にはリムジンが止まっているのが見えた。

あぁ、だから病弱な優香こいつでも来れたのか。確かに車使えば来れるけどさ……閑静なこの住宅街でリムジンは浮くぞ?


渋々俺は彼女のリムジンに乗車をした。





「で、話ってなんだ?」

「あなた今回の文化祭何もなく大成功、なんてことあると思う?」

「お前に前聞いた時の近代兵器、とかだっけか?」

「この世界にいるジェマ、日本では実質6人とされている。あなたは隠れた人間、つまりイレギュラーな存在なの。そんな人間に国が本気を出すことがあると思う?」


心当たりを探った、俺が能力を使いだしてから他国に漏れるような戦い……。

真っ先に思い付いたのはイギリスのジェマとの戦闘、しかしこれに置いて俺は素顔を見られたことは一度としてなかったので除外しても良いだろう。


「一つ……あるな。昔の話だが。」





俺は生まれついてのジェマだった。

その当時は世界で初めての例としてすべての研究機関にたらいまわしにされる毎日だった。もちろん、すべては守秘義務があったので俺の個人情報は一度として触れられることなく、ただ能力の研究だけが行われていた。

そんな中で一人の人間と出会った。


「お前はなんでこの研究所にいるんだ?」


話しかけてみるとその少女は恐る恐る声を出した。


「パパの……お仕事の手伝いで……。」


話によるとその娘も同じく、俺と同じジェマだったようだ。生まれた時はレプリカだったが能力の成長において才能を見せた希有な例だ。

遊び相手もいなかった俺はその娘と毎日、休憩時間に遊んだ。

トランプをやったり、研究所内で鬼ごっこをして怒られたりだとかだった。


「お名前はなんていうの?」


唐突であった、とはいってもそれは子供の質問としておかしなところは一つもなかった。友達の名前が知りたい、これは研究所の内容が分からない子供からしてみればいたって普通なのである。

5秒ほど悩んだ挙句俺は口にした。


「椎名………有紀……。」

「よろしく!有紀!私は紗枝、『新庄しんじょう紗枝さえ』!」


これが俺が漏らした平穏における不安の種であった。

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英雄を作るための英雄譚 カル @karu4umu

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