02

 誰かの自分を呼ぶ声が聞こえた気がして、僕は重たい瞼を開けた。いつも話している人のうめき声が聞こえて、慌てて起き上がりそいつを起こした。僕らの目の前には、ホームページで描かれていた女性がいる。

「よかった。目を覚ましてくれて!」

「貴方は……。」

「私は案内人(ナビゲーター)です。今からギルドに案内するので着いて来てくださいね!」

 手乗りサイズの小さな身体を持つ女性は、ふわふわと宙を漂う。元気のあるナビゲーターで、この世界が初めてで不安の多い僕にはとても嬉しかった。

その案内人の後を追いかけて、着いた先は酒場のような場所だった。これがギルドなのだろうか。案内人がその建物の扉に触れて、自動でその扉が開く。扉に触れたときに浮き出てきた白い紋に、ゲームらしさ(ファンタジーっぽさ)を感じた。

「おーい。受付嬢!」

「はーい!登録する冒険者様方ですね。では、奥の部屋でお待ちください。」

 カウンターの奥にある扉から中に入って、ソファに座った。受付嬢と呼ばれた女性が石盤を持ってきた。その石盤に手をかざして浮き出てきた文字を読む。

 先ほど決めたキャラクターの容姿やジョブ、ステータスの細かい値まで書かれていた。出身地はネオス(この街)に設定されている。他にもチームなど空欄のあるとことはあるが、そのうち埋まるのだろう。

 受付嬢が小さなカードを受け取る。石盤から浮き出てきた文字が、カードに書いてあるものだった。和泉も同じようにしてカードを受け取る。

「これが身分証になりますので、大切にお持ちくださいね。ギルドにある石盤にカードをかざすとステータスの更新ができるので小まめにしてください。」

「ありがとうございます。」

 時間もあるので、そのカードの説明とギルドの仕組みについて話を聞いた。出身地は登録したギルドのある街の名前になっていること。別のゲームだと、ギルドのようなものがここではチームであること。ギルド内にあるこれとは別においてある石盤から、ステータスの更新ができるらしい。キャラクターのレベル次第では入れない街もあるらしい。身分証が通行証代わりになると言っていた。

「装備はそろっていますか?ギルドが経営している装備店で、新規プレイヤーに無料プレゼントしています。是非お立ち寄りください。」

「ありがとうございます。」

 礼を言って個室を出た。ギルド内には石盤が何個か設置してあるのが見えた。左側にある受付で依頼をこなすのだろうか。奥には掲示板があるのが見える。ギルドに行く前にも同じような掲示板があった気がした。それとは違うのだろうか。装備店は右側のカウンターで経営しているらしいので行ってみることにした。

「おっ!こりゃあ見ねぇ顔だな。新規さんか?これやるよ。」

 机の下から出したのは僕らのジョブにあった装備で、装備の仕方も丁寧に教えてくれた。武器も初期装備より良いモノをくれた。武器特有のスキルもついていて、詳細を確認するとほかにも付属効果がついていた。スキル獲得率を上げるものだった。

「ちょっとぉ!あたしの店から勝手に武器取らないでよ!」

「わりぃわりぃ。」

「せっかくの新規さんなんだから、手渡ししたかったのに!」

 装備店の隣から聞こえたのは、 女性の声だった。武器店の人なのだろうか。視線が合うとウインクして、愛想よく挨拶してきた。少し困っていると、また目の前で喧嘩が始まる。仲がいいんだなと勝手に思うことにする。

「お前が勝手に割り込むから新規さんが困ってんじゃねぇか。」

「そんな言い方しなくたっていいでしょ!」

 どうやってその場から離れようかと考えていると、案内人が僕たちを呼んでくれた。掲示板に貼ってあるものから、戦闘の練習になるものを見つけたらしい。どうかと聞かれて、試しにやってみようと受付嬢にそのことを伝えた。


 ギルドから出て、最初にいたところとは反対側――――フィールドにきた。草原が広がっている。モンスターが等間隔にいるのがわかる。マップをみて、どこにどんなレベルのモンスターがいるのかを確認した。手前から奥にかけて強くなっていって、レベル差は五個ぐらいだった。奥には小道みたいなのがあって、その先にはまだ進めないらしい。

「えーと……。」

「敵にカーソルを合わせて、コイツで通常攻撃……だな。」

「スキルは、このキーか?」

「そうらしいな。」

 周りに誰もいないのを確認してから試し打ちをしてみると、火の塊が綺麗に真っ直ぐ飛んで行った。和泉も何回か剣を振るう。楽しくて、杖を振って何度か火球を出してそれをコントロールしていた。思った以上の距離を飛んでいて、前方にいたモンスターに当たる。何発か当たったところで倒れた。最初からパーティを組んでいた和泉にも経験値が入ったようで、和泉も驚いていた。

 二人で手分けして別々のところで敵を倒していく。数分でレベルが上がった。少し奥の方にでもいくかと話し合って進んでいく。レベルが少し高いモンスターを倒していたら、数人がかりで取って掛かっている中ボスがいた。後ろから支援して少し経験値をもらう。回復スキルを使いながら戦っていたので、いつの間にか全体回復のスキルも使えるようになっていた。スキルの試しもかねて、負傷者も混ぜて発動させた。飛んでくるお礼のチャットに返信を入れて一息ついた。

「そろそろギルドに戻るか?」

「いや、もう少しでキリのいいレベルになるからそこまで行ったらでもいいか?」

「了解。」


 あれから十数分後、ギルドに戻ってステータスの更新をした。受付嬢にドロップ品をどうすればいいか聞いた。掲示板に貼ってある依頼の中にアイテムがあれば渡すのもいいし、売るのもいい。売るときに高額買取品の一覧を見てどうするか悩むプレイヤーもいると言っていた。採取物だったりレアものだったりすると依頼として貼ってあるけれど、特にそういうものもなく普通に売った。

「高額買取品の物がありましたので――――。」

 小さな袋に入っていたお金と、依頼達成報酬品を受け取った。依頼達成で経験値も入った。お礼をいってその場を後にし、石盤のあるところへ向かう。石盤に手をかざしてステータスの更新をする。自分でもスキルがどれくらいあるのか、どのぐらいレベルが上がったのかを確認した。石盤の上に浮かび上がっていた文字を、もう一度手をかざして消した。和泉が更新したのを確認して、どうだったか問いかけた。

「スキルどんな感じだった?」

「二刀流のスキルが追加されていた。スキル習得に時間がかかると聞いていたけれど、案外早かったわ。浅川は?」

「全体回復のスキルが途中で使えるようになったからレベル上げていたわ。」

「そうか。」

 この後どうするかを話し合う。確かあのフィールドマップにあった奥の方の小道が通れるレベルになっていた。そのことを伝えると、行ってみたいと思ってたらしく乗り気だった。


 小道の先には集落があった。プレイヤーが休むことのできる宿屋があり、利用している人が多くいるらしい。商店があり、必需品は粗方そこで揃えることができる。泊まる場所は有っても、服などはないため購入が必要らしい。現実味を感じる。そんな集落は今、獣の群れに襲われそうになっているらしい。一部の建物が壊されていて、修復作業に結構時間がかかっているように見える。あちこちに瓦礫があるのが見えて、子どもが近づいたら危なさそうだった。夜中に襲われていたりするのだろうか。獣の群れが一体どんなものかわからない。実際、冒険者が何人か張り込みで泊って調査をしているらしい。その辺も含めて、宿屋に行ったときにこの集落の話を聞いた。

 次の街に行く条件が、ここの集落を助けることだった。ボス戦は、一人用のクエストで宿に泊まった際に挑戦することができるようになっている。ボス戦に挑む前に少し装備を整えたほうがいいのかと、考える。


 ふとパソコンから視線を上げると、辺りは薄暗かった。時間的にもそろそろ帰って夕飯の支度をし始めるにはいい時間で、帰るためにパソコンを閉じる。

「案外、楽しいだろ?」

「そうだな。」

休めるように目を閉じて上を向いた。またやろうかと僕から言うと和泉は笑いながらオッケーサインを出した。よほど珍しかったのか、数分経った今でも笑っている。

行くのは時間かかるから、次は通話かチャットにしてくれよ。行くまでの時間が少し惜しいと感じる。操作にも慣れてきて、教えて貰うことなくできるようになったので提案した。

「次はボス戦だよな。」

「そうそう。倒したら次のステージに行けるんだよ。」

「次は、海の見える街だったか?楽しみだな。」

 一ステージのその先へ、先に進めるのはどっちだろうな。


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一ステージのその先へ。 海月 蛍 @Kryo_9SnSt

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