一ステージのその先へ。

海月 蛍

01

 小さな瓶が揺れる。その中に入っている水が零れそうだったので、僕は風の当たらないところに移動させた。そして本のページをめくる。友人を待ってかれこれ一時間経つけれどまだ来ないのかとため息をこぼす。来るときは早いというのに。そしてまたページを一枚めくった。小説のその世界観に潜ろうとゆっくり瞬きをすると、ドアの開く音が聞こえた。

「お、ようやく来たか和泉。」

「まーたお前潜ろうとしただろ。そうすると本読み終わるまで帰ってこないんだから、待ち合わせの時はやめろよな。」

「来るのが遅いのが悪いんじゃん。」

「すまんすまん。」

和泉と呼ばれた長髪の男は俺の目の前に座り、じっと僕の持つ本を見つめる。その本を渡すと、いいのか?と不思議そうにこちらを見た。いいから渡しているんじゃないのか。受け取った本をぱらぱらとめくって軽く読んだ後、机の上において店員を呼んではアイスティーを頼む。

「浅川がこんなの読むなんて珍しいな。」

「親戚の仲いい人に勧められて。」

「だろうな。」

 くすくす笑うそいつを見るに、僕がいま読んでいるジャンルには手をつけないのは知っているのだろう。苦手ではないが、好みはしないので手をつけていないだけだ。ミステリーは頭を使うので時間があるとき以外はあまり読みたくない。

 和泉の注文していたアイスティーが届いて、目の前のヤツはストローを刺して美味しそうに飲む。ここのアイスティーが好きだと前に言っていた気がした。そういえば何の用事で僕をここに読んだのだろうか。ふと気になって尋ねると、秘密だと隠された。

「行くところ見ればわかるって。」

「そうかなぁ?」

「そうだそうだ。」

 和泉がアイスティーを飲み乾したところで、店を出た。それなりに重量のあるキャリーケースを引くと、そんな重たいのかと聞かれた。お前がもってこいと言ったんだからキャリーケースに入れてきたんだろうと答える。中にはノートパソコンをその他もろもろ入っており、先ほど読んでいた本も中に入れた。

 先ほどいたカフェの目の前にある駅で、ICカードに幾らかチャージをして電車に乗った。数十分電車に揺られ、言われるがままに降りた駅はまさに電気街で有名なところだった。だからパソコンを持って来いと言ったのか。そして、駅の裏側にある大きい家電量販店に連れてかれる。和泉にゲームやるからと言われて、僕もその同じものを買わされた。和泉の誘うゲームはいいものばかりだし、金銭的に余裕もあるし買うのはいいんだよな。

 購入後、和泉の家に行きパソコンを起動して買ったものをインストールする。帰り道の途中で買った昼飯であるサンドウィッチを頬張りながら、片手でパソコンを弄る。和泉と相談しながら、プレイするキャラクターの容姿やジョブの設定をした。ペットボトルに入っている残り少ないお茶を一気に飲んで、ウェットティッシュで手を綺麗にしてから細かい容姿の設定をする。設定が終わると、名前を決める画面に進みよく使う名前を入れた。和泉がまだ終わらないと言っているので、終わるのを待つ。

 和泉のキャラクター名が決まって、僕たちは一緒にログインした。ログイン画面が見えた後、薄い灰色の文字で何か書いてあるような気がした。

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