第10話

「とりあえずラーメンでも食え」

 真楼は屋台でラーメンを作りはじめる。

 ロビーはガラスが片付けられ、照明がたかれ、テーブルと椅子を出してきて両陣営が対峙する。

 とりあえず二人分といって、アベと筧の目の前にラーメンが置かれた。

 割り箸をとり、音を立てて割る。ずずずずず。

 ぷはぁ。

「たまにはラーメンもいいもんだな」

 アベは下まぶたの垂れた目で睨む。筧はうっかり口をすべらせたといった顔。鰹節に汗が浮く。

「いや、何十年に一度くらいって意味で」

「筧、アベは最初に俺たちを裏切った男だ。忘れたわけじゃねえだろ」

 真楼は屋台で鍋を世話しながら見下ろす。

「い、いやあ。でも、蕎麦屋はうまくいってるし」

「バカだろ、お前。ラーメンの次はうどん蕎麦に決まってる。そんなアホだから大将に放逐されたんだ。結局、俺だけ残って、ひでえ目に遭ったんだぞ」

「そんなわけない。理由がない。うどんも蕎麦もヘルシーだ」

「そいつ、アメリカの手先だろ。うどんにも蕎麦にも義理はねえ。うどんと蕎麦潰してハンバーガーとピザにするに決まってんだ」

「まさか」

 筧はアベの方に顔を向けるが、アベの方は顔をそむけた。

『首相、いいんですか。あんな約束して』

『だって、断れないもん』

『でも、多額の献金もらってるのに、あのカネはいってこなくなったら困りますよ』

『ハンバーガーとピザからとればいいよ。もうね、そんな時代じゃないんだ。うどんも蕎麦も流行らないんだよ。今以上にカネがはいってきたらどうしようね、困っちゃうよ』

 テーブルの上のスピーカーから流れてきた声はアベと秘書だった。クーデター側が盗聴していたらしい。

 ホールにいる人間全員シラケて、アベを冷たい目で眺める。

「アベ! お前、裏切るつもりだったのか」

「アベは昔から汚い奴だったじゃねえか。筧が学習しなさすぎるんだよ。ほい、次。じゃんじゃん作るから、みんな食ってけ」

 おやっさんのラーメン、久しぶりだなと言ってクーデターのリーダーふたりが一番に屋台にとりついてドンブリを手にした。

 ラーメン完食。


 各地のクーデターも成功し、地方自治体庁舎を制圧した。

「じゃあ、クーデター成功ってことで。新しい憲法案を提示します」

 ずっとネット中継していたカメラに向かって公務員ぽい方のリーダーが話し出す。

「第一条 日本国の中心はラーメンである。」

 ラーメン、日本で一番偉くなっちゃったよ!


 こうして、宇宙の平和とラーメンの自由は取り戻されたのであった。

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ラーメンを中心にして 九乃カナ @kyuno-kana

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