第9話
クーデターの様子は秘密結社自身によってネットで中継されていた。リーダーが、ラーメンの自由を取り戻せと何度も呼びかける。
忘れかけていたラーメン愛に火が付き、都内に残っていた住民は国会前に殺到した。クーデターのリーダーたちは速やかに国会を制圧。落ちのびた首相を追って官邸に手を伸ばす。
この頃になると機動隊が出動して銃撃戦に発展した。
クーデター側の用意は十分。爆薬による発破、重機や装甲車まで投入し、首相官邸の門や石垣を取り除けた。ドローンを飛ばし、情報収集にあたらせている。
守備側は残った官邸本体の建物の守りを固めた。膠着状態。
地元に帰っていた人々もクーデターを知り続々かけつけ、荒廃した街に言葉を失いつつもなんとなく首相官邸を取り囲んだ。
日が沈む。
クーデターの指揮をとっているテントに知らせがはいる。
「ラーメン屋台のおやじが通せって言ってきてます。官邸に用があるって。どうしましょう」
リーダーのふたりは顔を見合わせる。真面目な顔にだらしない顔。
「ラーメン屋台のおやじ? おやっさんか」
「あのおやっさん生きてたんだな」
「おい、官邸まで通さねえわけにいかねえぞ」
だらしなかった顔に気合が入る。
「そうだよな。よおし、一点突破だ。おやっさんに道を作るぞ。おやっさんにも伝えてくれ。これから道をつくるってな」
クーデター側はにわかに動き出す。官邸の玄関ホール部分、ガラス張りの壁に向け戦力を集中。守備をこじ開ける。
クーデター側の陣形が変わり、中央に道ができる。そこを屋台のトラックが疾駆する。
ガラス壁に激突。
ガラスが割れ、上部のガラスが落下、地面ではじけた。
物凄い破壊音が響き渡り、全員が硬直し見守ることしかできなかった。
トラックのドアが開き、運転席から真楼が官邸の床に降り立った。
「これは、あれだ。経費で落としてくれや」
クーデターのリーダーふたりがガラスの破片を恐る恐る踏みしめながら玄関ホールへはいってきた。
「おやっさん!」
「おう、お前らか。元気だったみてえだな」
「おやっさんこそ」
真楼は吹き抜けの天井を見上げて大きく息を吐いてから、顔をもどした。
「アベと筧を連れてきてくれねえかな」
「え? 筧? アベは、あ、はい」
クーデターの部隊の一部を連れ、捜索がはじまった。逃げ出そうとしていた佐藤を取り押さえ、案内させることにより簡単に捜索は終了した。
アベと筧が引き立てられてきた。
「俺は、ただの蕎麦屋だぞ。関係ない」
「久しぶりじゃねえか、アベに筧」
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