Humanity of spear.

葵流星

Humanity of spear.

2015年以降、アメリカは世界から軍を撤退させる一方で武器を販売することで経済をよくしようと計画していた。しかし、中国を中心に紛争地帯への武器輸出を行った結果、アメリカの目論み通り世界各地への紛争、テロリズムの激化を招いた。アメリカの撤退の影響を受けた日本はE.Uと共に中国、ロシア、アメリカに対抗する軍事同盟を結んだ。その一方で、アメリカは中国との武器輸出に負け形骸化した国連での決議を無視する形で中国との戦争を開始した。しばらくして、アメリカ軍の侵攻を食い止めるべく中国軍は国内で核を使用、停戦へと向かった。


けれど、これはそれとは別の話。

私が見た、もう一つの戦争だ。


今日も日差しがよくて、個人的には嫌な天気だった。

乾燥しているために、時折思い出したように水筒の水を飲まなければならなかったからだ。


私がいるのは、エジプトとスーダンの国境付近。

欧州への入り口と言っても過言ではない場所だ。

今は、欧州が共同で作った軍事基地に私は居る。

設備も新しく滑走路も持つ大型の基地だ。

私の所属する統合陸軍欧州方面軍もここを拠点している。


私の任務は、ここで欧州へと向かう武装難民を食い止めることだ。


武装難民とは、テロリストとも意味としてとれる。が、実際はというと武器を使って国境を超える難民のことである。では、難民と武装難民では何が違うのか?っと、欧州への派遣が決定したとき論争になったのは言うまでもなく大量虐殺だと元凶のアメリカと中国に非難されたりもしていた。難民と武装難民も明確な違いは入国審査の違いである。この基地は、アフリカ大陸を横断する形で作られている言わば万里の長城である。常に、レーダー周囲を観測しており赤外線カメラを搭載した半自動の複合型セントリーガンを主とする無人兵器もいくつか運用されている。欧州へと繋がる陸の要所であり、絶対防衛線である。基地の南側にはコンクリートでできたトーチカ、テトラポッド、鉄条網、対車両地雷、アイアンドームおよび対空兵器群が置かれている。欧州連合は、この基地に併設というのは語弊があるがこの基地そのものが入国管理局でもある。ここから、ヨーロッパへ行くにはこの基地に5つある門から審査を受けて条件を満たせば難民として認められるのだ。


私は、昼食を食べ終わると武器庫に向かいM4A1と弾を貰い任務につく。

まあ、こんな所だ。

同じ地区を共に見張ることにクロエもやって来た。


「こんにちは、愛衣(あい)。調子はどう?」

「悪くないわ、あなたは?」

「また、日焼け止めを買わなきゃいけないわよ。」

「サングラスもでしょ?」

「ええ、でも届くのはしばらく先になりそうだからもしかしたら届いたときにはもうここには居ないかも。」

「なるほどね。」


E.Uは、イギリスの離脱後も公用語として英語を使用していてNATOコードなどもほとんど受け継いだ形になっている。また、部隊編成も加盟国の混合になっている。シエル・コレットはフランス陸軍の兵士だ。年も私くらいの女性で日本語も上手だった。


そんな私達は今日もなにも起こらないようにと願いながら警備にあたった。


基地とは異なるコンクリートで出来ただけの建物に入り監視を始めた。


たいていは、機関銃を搭載したセントリーガンに付けられた赤外線カメラのデータを基地にいるオペレーターが交代で常時監視し、基地からのレーダーによって目標を補足しいるためスコープ越しに地平線を見つめるのが私たちの仕事だった。

難民は、ここまで歩いやって来る。守衛のいる門を幾つか超えてようやくヨーロッパへと入るのだ。ただでさえ、治安維持の為に南アフリカには軍を派遣しているにも関わらずやって来るのである。


そして、一番厄介なのが武装難民と傭兵、トランスポーターだ。


中でも、トランスポーターはヒューマンシールドを使いヨーロッパへの侵入を果たそうとする。中には、悪質な業者もいてSUV爆弾…車両にリモコン爆弾を設置して乗客と共に守衛を殺し門を突破するのだ。私達の武器としてジャベリンなどの対車両ミサイルの他に重機関銃、アフリカに入る前に鹵獲した武器もここにはある。たいていは、ロシア、中国、アメリカのものでイギリス、南米、東南アジアからの物もあった。


しばらくしてから、本部から連絡が入った。

監視カメラの反応をロストしたのだという。

コブラとEF2000が、すぐに現場向かうと連絡が入った。


立て続けに連絡が入り、緊張が走った。

私は、M2を準備し地平線を睨む。

空爆を開始したのだろうか、それとも敵の攻撃か、ただ音がするだけで虚しいだけだった。


そして、私はおぞましいものを見た。

車がここに突っ込んで来るのだ。

フロントガラスが割れ、銃痕が生々しく朱が溢れる車両が、後ろにはぐったりと人が横たわっていた。

怖かった。対空機関銃も、トーチカも、門も、航空攻撃も、地雷も、無人戦闘兵器も全て通り抜けて亡霊のように群れをなしていた。


車両は、ピックアップが多かった。

私達は、その群れに攻撃を開始する。

敵が肉薄するたび兵器を変えて応戦しなければならない。

どれが、本当の難民なのかもうわからなかった。


EF2000による、航空攻撃が終わる。

しかし、まだ車両は残っていた。


私は、泣いていたのだろうか?


敵なのか味方なのか判断の難しい状況だが、引き金に手をかけた。

…シルエットが色づいていく。


(…来ないで。)


そう、心の中でつぶやくが止まらない。

アイアンサイト越しに車両が見える。


(…怖い。)


すると後ろから、応援にやって来たヘリコプターの羽音が聞こえる。

飛翔体は弧を描くように身体を揺らし自爆する。

彼らと同じような方法で…。

さらに、身をひるがえすように銃身が回り弾を放った。


(…助かった。)


ヘリコプターには、欧州連合のマークが描かれていた。


私は、壊れて止まっている車両にさらに攻撃を加えた。

残っているであろう爆薬を爆発させるためだ。


私達は、友軍に救われた。

しかし、私達より前に居た部隊は負傷者がいて、鉄条網も切れてしまい防衛線の再構築には時間がかかると説明された。後からわかったことだが、ロシアの民間軍事会社がこの件に絡んでいてどうやら集団でのヨーロッパへの移動を頼まれていたそうだった。今も、その民間軍事会社は存在している。彼らは、戦闘に参加しておらずアドバイザーとして参加していたのだ。中国製のドローンを改造してカメラを破壊し、アメリカ、日本企業製の車両に爆弾を積み、支援攻撃用にロケット弾を搭載した車両を用意していた。そして、電波妨害を行っていることを知っていてわざわざタイマーによる行動をプログラムしていた。当たり前のことだが、欧州軍の攻撃による影響を考慮していたようだが勿論、破壊されていた物もあった。乗客は自分の乗っている車両に爆弾が積まれていたのを知らなかったことを、車から身を投げ一時保護された人から聞いた。


なぜ、非合法的な方法でヨーロッパを目指すのか?


誰もがそう思う。でも、ヨーロッパへ行けるのは一握りの人だけだ。

そして、私達はその人達を食い止め権利のある人達を向かい入れる。

権利は、その人物が悪人であるか善人であるかは語らない。

だからこそ、そこに不条理を感じ彼らは行動するのだ。


では、私がやったことは何だったのか?

この壁は、何も語らない。


時間が経つにつれて血に染まっていくこの壁は何なのだろうか?


畏怖の対象として存在することで彼らにとっての最善策を教えようとしているのだろうか?


その答えは私にはまだ、わからないままだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Humanity of spear. 葵流星 @AoiRyusei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ