2.




 ブーンと音を立てて、目の真の壁が真っ暗になったのを見た時に、私は思わず両手を上げて叫んでいた。


「やったー!」


 やっと、五回目のシミュレーションで、私はよっくんから、恋愛対象として意識してもらえる結果が出た。

 ちゃんと外で花火を見て、その中で告白したのが上手く言った要因かなと、再びコンピュータ演算結果を映し出した白い壁を眺めながら、確認する。


 出てきたデータを、私用の端末に移動させた。

 これで、いつでもイメージトレーニングできると、それを見ながらにやついてしまう。


『お嬢様、お食事のお時間です』

「あ、スティーブンス、ちょっと待って」


 スティーブンスの声が、天井のスピーカーから聞こえてきたのでそれに返事をする。

 私がシミュレーションを終えた時点で話しかけてきたのは分かっているのだが、もう少しこの余韻に浸っていたかった。


『……思いを伝える前にこちらのシミュレーターを使ったのは、父親譲りですね』

「えっ! お父さんも使ったことあったの!」

『はい。奥様をデートに誘う時やプロポーズの時などに』


 お父さんのそういう話を聞くと、こちらもこそばゆくなってしまう。

 スティーブンスが私たちのことを似たもの親子だと言いたいのはよく分かるのだが、私だってちょっとは反論したい。


「でも、おとうさんが若い時よりも、シミュレーターの精度は上がっているんでしょ? こっちを駆使した方が、確実じゃん」

『上がったと言いましても、五十三パーセントですが』

「半数は超えているからいいの!」


 思わず声を荒げて言い返してしまって、はっとした。

 いけない、こんな子供っぽい所をよっくんに見られたら、変わっていないなーと笑われるかも。


「七日後の花火大会、楽しみだね」

『はい。天気予測も晴れだと言っています』


 私がそう言いながら椅子から立ち上がった時、スティーブンスがそう背中を押してくれた。

 あと七回寝れば花火大会。そう思ったら、勝手に顔が笑い出しそうになるのを、必死に抑えながら自分の部屋を出た。







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夏思いが咲く 夢月七海 @yumetuki-773

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