10.清河の崔氏の女。黄粱の粥はとっくに煮えた


 ――ハイハイハイ。お待ちしてまス。




 ナー、ソレじゃ、甥御サンもイマ会社から向かっていますカラネ。

 ナー、おイシャが来る前に……ン、ケアマネサンにも電話した方がいいのかナ。






 ナー、そうだ、ワタシ、ツゥイでス。ヨロシクお願いしまス。

 喋るのマダ少し怪レい。聞くの大体わかりまス。



 このシゴト、初めたばかリ。

 今日は先輩来れナイ代打。

 オ宅来テ部屋入ったら死にかけでビックリしタ、オッ失礼。




 ダイジョブ?

 苦しイ?

 スイマセン、もうできるコトなイ。




 ナー、モウシオクリモウシオクリ。

 ……ゼリーとオハナシが好キ。



 オジイサン、オハナシ好きなんでスカ。

 ソ言えば先輩言ってタ。

 もうピクリともシナイけどケアの合間に世間話するとニコニコする利用者サンいるっテ、オッ失礼。




 それじゃ、ヒトツ。

 アナタ夢で死んだコトありますカ?



 ワタシの旦那、シャンドンの人。

 南の方。三十まで畑耕してタ。

 デモ本当はビッグになりたイ。

 羽振りイイ親戚の党員頼っテ、ベイチン行ク。

 途中、ハンダンの街でボロ宿泊まっタ。




 そこでジジイ会ウ。

 ジジイ、臭め、服ボロボロ、金無さソウ。

 ウチの人と同ジ。ハナシ合ウ。




 一緒に飯食ウ。ヤッスいキビの粥注文。

 来るの待ツ。ウチの人、自分の夢話しタ。

 金、権力、ファミリー。

 ジジイ、それ笑ウ。




 笑っテ、コッソリ渡してクル。

 『コレ使えばソノ夢、思い通リ』

 ソレ、ポリ袋に入っタ白い粉。




 ウチの人、鼻からソレ吸っテ、視界一面ケミカルなマンダラ模様。

 次の瞬間には鼻の穴大きくなっテ、穴の先光ってルの見えタ。

 鼻の穴に潜っテ探検スル。

 光の先、自分の家。




 家帰っテからウチの人、ワタシと結婚したヨ。

 一目惚レ、コレ仕方ナイネ。




 ワタシん家金有っタ。

 ウチの人、贅沢させテ、党の役職にも就けタ。

 政治も軍事も得意、出世出世。




 デモある日失脚。上司に有るコト無いコト吹き込まれタ。無念。

 ある日復活、疑い晴れタ。

 また出世。




 また失脚。

 今度は処刑寸前。

 もう死ヌ死ヌ騒いだケド、張ッ倒しタ。子どもいたからネ。

 逃げテまた復活。

 出世出世出世。




 国務院総理なっタ。

 何十年も偉ぶっテ、いい暮らシ、一族皆いい職就けタ。




 八十過ぎ、病気。仕事辞めタ。

 最期、家族に囲まれテ大往生。

 目の前暗くなル。














 デ、目が覚メルと汚い食堂。

 粥まだ来てなイ。

 ウチの人机に突っ伏してタ。


 ジジイ笑ってル。

 『得るモ失うモ、生きるモ死ぬモ、いつか覚めル夢』




 ウチの人言っタ。

 『ならナオ生きたイ。コノ夢の覚めるマデ』








 アナタ、次はどんな夢見ル?



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看取られ千字文 しのびかに黒髪の子の泣く音きこゆる @hailingwang

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