設定だけ読めばそこは紛れもなく鬱々としたディストピアのはずなのに、ここに描かれていたのはどんな状況にあっても生きる喜びと希望を忘れない人間の強さ。けっして壮大なストーリーではないにもかかわらず、胸を熱くさせられました。
地上が毒に覆われてしまい、地上で生きることが困難になった未来の世界のお話。人々は産み出した学問や芸術を守りながら、日々を生きています。こう書くと、暗いお話と思うのかもしれません。確かに彼らは迷うこともあります。しかし、それでいて、彼らは確かに小さな光を抱いて生きています。随所で美しい光の描写が書かれているように、けっして希望を見失っているわけではありません。情景描写が丁寧なことで、少しずつ語られる世界の状況や設定にも引き込まれます。過去から未来の彼らの生活をのぞいてみませんか?
毒に侵された大地から、生き残った人間を守る繭(シェルター)。いつか地上へ戻る日を待ちながら、懸命に生きる人々を描く連作短編集です。情景が目に浮かぶような、丁寧な文章で描かれる世界は、儚くも美しい。先の見えない終末世界で、何かを守り、受け継ぐ事で、未来への希望を繋ぐ人々。そこには日々の暮らしや、悩み、愛する人とのささやかな日常があります。非日常の中にある、ごく普通の日常を読んでいると、不思議と優しい気持ちになれました。温かな気持ちになれる、素敵な作品です。ぜひご一読ください。