第40話『要塞』

 1923年 (大正12年) 9月1日 神奈川県相模湾沿岸



 この世の地獄だった。

 大地が縦に揺れ、横に揺れ——

 人が立っていられないだけではなく、それは建物も同様であった。

 ひとつとして、倒壊しない建物などなかった。

 世に言う、関東大震災である。



 空襲でもないのに、空が真っ赤だ。

 あちこちの人々の悲鳴が、その紅色を際立たせている。

 腐臭。

 血の匂い。

 焼ける人肉の臭い。砕けた人間からはみ出る臓器の臭い。

 助かろう——。そう思う皆の気力が消し飛んだ。

「津波だ!」

 寛太少年はその時、海岸から少し山側に寄った所に位置する神社の境内にいた。

 彼の目にも、今まで見たこともない高さにまでせり上がった波頭が遠くに見えた。

 ものの数分で、あれは岸辺の村を襲うだろう。

 だめだ。

 もう、助からない。

 まるで、想像上の巨大な怪物が襲ってきたかのようだ。

 あの波はきっと、ここも全部波の中に呑みつくしてしまうだろう。

 そうあきらめかけた時。寛太の耳に、亡くなった祖父の声が蘇った。



「どうしても困った時だけ、お守り袋の黒い石を使うのじゃ。

 よいか、自分の幸せのためや、自分だけが困ったときに使うのではないぞ。

 大勢の人の幸せがかかっている時にだけ使うのじゃ」



 寛太の祖父は、村では変人扱いであった。

 やれ、別の世界から来た人間に会ったの、空を飛ぶ巨大な乗り物に乗せてもらったのと、聞く者にとっては到底ほら話としか思えないような内容を、真面目に言いふらしていたからである。

「お前だけは、信じてくれるよな?」

 祖父は孫の寛太にだけは心をゆるし、小さな石の入ったお守り袋をくれた。

 そしてそれは、今寛太の首にぶら下がっている。

「じっちゃん、助けてくれ」

 役に立つのかどうか怪しいものだが、今使わずしていったいいつこれを使うのか。

 まさに大勢の人の命が、かかっているのである。

 寛太は必死の思いでお守袋を握りしめた。



 すると、袋の生地などまったく無視するようなまばゆい光が満ちた。

 「うわっ」

 それは、目を開けていることができないほどの強い光だった。

 神社の境内全体を満たしていた光はやがて収束し、一本のまっすぐな光線となった。その光線は、神社内の床下を指し示した。

 何の意味があるのだろう?と寛太は木の床に這いつくばって表面を眺めた。 



 その瞬間。

 神社の床全体が、抜けた。

 一瞬にして、寛太は数メートル下へ床板とともに落下した。

 寛太は、はっきりと見た。

 そこは、見たこともない変わった形の洞窟になっていた。壁は自然のものなどでは絶対になく、人為的に整備されたとしか思えない柱や壁画・読めない文字で一面びっしりであった。

 そして、空間の中央に家10軒分はあると思われる真っ黒な塊を見た。

 光っている。

 何とその物体には、目があった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 


 2015年・現在 文部科学省・地震調査研究推進本部



「おい、ちょっとこのデーター見てくれ」

 朝の5時。

 眠い目をこすりながら、一ヶ月分の観測データをファイリングしていた鮫島は、同僚の渡辺が駆け寄ってくるのに気づいた。

「何だよ。変わったことでもあったか?」

 すっかり冷めてしまった紙コップ内のコーヒーに口をつけた鮫島だったが、次の瞬間に聞こえてきた渡辺の言葉に思わずむせた。

「来るぞ、地震が。それも、とてつもなくデカいやつが」

「何だって」

「……これ見てみろ」

 ありえない。

 中央構造線・そして糸魚川静岡構造線。この断層と、日本海溝・相模トラフの二つの沈み込み帯の観測データは、ことごとく異常な数値を示している。

 電磁力による測定、赤外線による測定、超短波による測定——

 どれもこれも、「こいつはクロだ!」 と断定するように叫んでいた。

 追い討ちをかけるように、気象庁からの観測データがファックスで吐き出される。

 日本付近では、生まれたことのないハリケーンの大群。

「……来るな、これは」

 あまりの深刻な事態を、日本国民で最初に予知してしまった鮫島は、ゴクリと唾を飲み込んだ。そして、はじかれたように走ると、PCの前で恐ろしい速さでデータを入力し始めた。

「渡辺、今のデータひっくるめて首相官邸に流せ! そして、もしも予測どおりの揺れと津波が襲ってきた時の被害予想シュミレーションプログラムを、大至急組め! いいか、大至急だぞ!」

 それは、あまりにも悲惨な予測だった。

「……間に合うかな」

 鮫島は、家に残してきた妻と小さな娘の顔を思い浮かべた。

「予知が間違いなければ、関東大震災の再来だ。いや、もっと大きい」




 現在 相模湾沿岸 10:30 AM



「これじゃあ泳げないじゃありませんこと!」

 荒れ狂う波を前に、佐伯麗子は激怒した。

「せっかく、忙しい合間をぬって海水浴に来たのに。そんなのアリストテレス! ピテカントロプス・エレクトス!シナントロプス・ペキネンシス!」

「……麗子先生。何わけの分からないことを言ってるんですか」

 藤岡美奈子・柚月麻美の二人は、ため息をついた。

 麗子はこの二人にとっては高校の先生なのだが、ものの考え方や立ち振る舞いは、どう見ても美奈子と麻美のほうが大人である。



 佐伯麗子は生まれてからこの方、日本でも指折りの財閥・佐伯グループ会長の一人娘として、一般世間からは隔離され、純粋培養されて育てられてきたためかなりわがままである。自分の思い通りにならないことというのは少ない。

「天気のことは仕方ないじゃないですか。駅前のショッピングモールで買い物して、グルメストリートでおいしい物でも食べて、帰りましょ」

 美奈子は、だだっこのように暴れる麗子の手を、保護者のように引っ張る。

「クッソ、こうなったら私の力で低気圧全部吹き飛ばしてやるううう」



 そう絶叫する麗子に、ため息をつく人物がもうひとりー。

「……はぁ。わが妹ながら情けない。さ、駅に戻ろ。ホラホラ、言うこと聞いたら、こないだ『まんだらけ』で手に入れた昭和45年もののマジンガーZの超合金あげるからさぁ」

「ええええええっ お姉さま、それは本当ですの!?」

 麗子の姉、佐伯貴子。東京都品川区の児童相談所に勤務する、やり手の相談員である。顔もスタイルも姉妹で全く同じなため、一見区別がつきにくい。

 ものの見事に、麗子は機嫌を直した。

 姉の貴子の方が背が高いので、美奈子と麻美はそこで二人を区別していた。

 性格で言うと、姉のほうが少し落ち着いては見えるが、根っこは同じ。

 二人とも破天荒で、発想がむちゃくちゃで、マニアックだった。

 


「……待って」

 美奈子が何かを感じて立ち止まった。

「何か、事件が?」

 実はこの4人、国家から特別にその能力を認められたエスパー・つまり超能力者なのである。

 美奈子は、オールラウンドにあらゆる能力が使えるマルチタイプだが、特に優れているのは念動放火能力(パイロキネシス)。彼女が本気を出せば、国を一つや二つ消滅させるだけの火力がある。

 麻美は、正確無比なスナイパーで、弓の名手。

 そして麗子は、風の精霊と契約を結んだ風使い。

 彼女は、唯一異次元の生物をこの世界に召還することのできる術を使える。

 ただ、厳密には佐伯貴子だけは超能力者というよりは、霊能力者だった。 



「防衛大臣から——」

 美奈子は、通信機器などなくても、どことでも連絡をとることができる。

 彼女がその気になれば、思念をネット回線に潜り込ませて何でも調べ上げられる。

 人物さえ特定できれば、相手に能力がなくてもテレパシーで会話もできる。

 特殊能力を持つ彼女らはしばしば、普通には解決できない難事件や災害の折に、こうして国家から協力を求められることがあるのだ。

「そんな……」

 美奈子の目が、驚愕に見開かれた。

 この時美奈子は、地震予知の詳細なデータと気象庁からの観測データとを総合的に分析し、さらに自身の持つ予知能力をそこに上乗せして、ひとつの恐ろしい結論を導き出した。

「あと三時間で、かつてなかった大地震が関東を襲います」




 ……麻美ちゃん、そっちは準備OK?


 美奈子は、テレパシーで麻美と会話した。


 ……オッケイオッケイ。ただいま、戦闘機に搭乗中。



 作戦は、こうだ。

 航空自衛隊のF15戦闘機を使用して、93式空対艦誘導弾(ASM-2)を活断層に撃ち込む。

 もちろん、そんなことをしても通常何の意味もない。

 千里眼を持ち、狙ったものは絶対にはずさないスナイパーの麻美を戦闘機の複座席に搭乗させ、レーダーをサポートする。

 そして、ミサイルが溶岩層まで到達する推進力と強度については、美奈子が遠隔でサポート。水爆級のエネルギーに匹敵する冷凍力を、超能力でミサイルに託す。

 それで最終的には断層の活発な活動を一時的にでも凍結してしまおう、という壮大な作戦だった。



 ……麗子先生、貴子さん。本当にいいの?



 佐伯姉妹は手を取り合って、空を飛び去ってしまった。

 日本史上、最大の地震とハリケーン。

 佐伯姉妹は、そのハリケーンのほうに対抗するべく、太平洋上・相模湾から南南東60キロの海上に空中静止して待ち構えていた。



 ……これを止めないと、沢山の方が犠牲になるのでしょう?



 麗子の思念が、美奈子の頭の中に流れ込んでくる。



 ……そうそう。今までの戦いで生きているのが不思議なくらいなんだから。

 そう思えば、今のはめっけものの人生よねぇ。惜しくなんかない、ないっぞっと



 姉の貴子も、豪快にケラケラと笑う。

 美奈子は、姉妹が明るく振舞うほどに、悲しみをかみしめた。

 仲間の中でもっとも能力の高い美奈子には、分かっていたからだ。

 あのハリケーンを全部止めるのは、佐伯姉妹の力でもムリだ。

 できたとしても、それは潜在能力を全て使い切ることからくる死を意味する。



「お姉さま、覚悟はよろしくて?」

 麗子の声に応えて、貴子も妹の片手をしっかり握った。

「あたぼうですわ」

 ヘンな言い回しだが、本人はいたって大真面目である。

 姉妹はつなぎ合った片手同士を高く挙げ、横並びに嵐と向き合う。

 これを、本土に上陸させてはいけない。

 奈良時代から続く異能力者の血統・佐伯一族の末裔は、声をそろえた。 

 ……こいつら、全部ふきとばしてやる!



 風の声、大地の唄。

 空の眷族、万物の理を司る精霊よ。今こそ、我が声に耳を傾けよ——



 姉妹の瞳が、エメラルドグリーンの輝きを放った。 

 


「サンダー・ストーム!」




 その頃。

 複座型F15戦闘機の後部座席にいた麻美は——

「たった今、震源地上空に到達しました」

 その声を聞いた麻美は、メイン・パイロットに話しかけた。

「じゃ、早速この邪魔なキャノピー開けてくれる?」

「エエッ!?」

 パイロットの焦りなどどこ吹く風で、麻美は言い放つ。

「でないと、私が弓、撃てないじゃん」

 パイロットは吹き飛ばないようにあらかじめ固定されているので、問題はない。

 麻美の力を知らないパイロットは常識的に、高校生の女の子にしか見えない麻美の身を心配した。

「あのねぇ。残念ながら私はフツーの子とは違うの」


 

 F15は速度を落として、低空飛行を敢行。

 普通ではあり得ないが、操縦席のキャノピーを外して放棄した。

 もったいないが、例え上げただけの状態にしておいても風圧で根元からもっていかれる。そして何より、正確なコースを飛ぶ障害になる。

 一気に、逆巻く風圧がパイロットと麻美を襲う。

 Tシャツとジーンズが雨にぐっしょり濡れて、生地が体にまとわりつく。

 それでも麻美は、戦闘機上で真っ直ぐに立った。

 濡れそぼったロングヘアを振り乱しながら、叫ぶ。



「クレッセント・シューター」



 またたく間に、麻美の手に光の粒子で覆われた輝く大弓が現れた。

 彼女はさらに、手に現れた光の矢をつがえると、これまた風圧に耐えて何とか操縦しているパイロットに、テレパシーで語りかけた。



 それじゃあ、私今からそちらのレーダーと同化しますから。

 あなたは私が指示するタイミングで、ミサイルを発射してください。


 ……了解



 麻美の目が、マリンブルーの輝きを発した。



「ホーク・アイ (鷹の眼)」



 ……美奈子ちゃん。コースに誤差あったら、修正サポートよろしく


 ……オッケイ



 岸辺にいる美奈子は、テレパシーで麻美と連絡を取る。

 アメリカ国防省が誇る軍事偵察衛星 『KH-4B』の監視カメラと自らの眼球をリンクさせた美奈子は、全ての空間座標を把握した。



 ……コース修正。北北東コンマ775!



「いっくよおおお」 

 麻美は弓を一気に引き絞り、迷いもなく一気に解放した。



 …今よパイロットさん、発射して!



 HUDレーダーの索敵シーカーが、赤に点滅する。

「了解! ファイア!」

 白煙を上げて突き進むミサイルの背を目掛けて、氷の矢が飛ぶ。

 


「ケルヴィン・ブリザード・アロー!」


 


 灼熱のマグマさえ凍らせる力を持つ矢は、ミサイルに追いつき、命中。

 同化して、氷の力を得たミサイルは真っ直ぐに海中深く沈んでいく。

「防げるか……!?」

 この様子は、首相と防衛大臣が、そして地震調査研究推進本部の鮫島と渡辺も哨戒ヘリの映像を通して見守っていた。

「いよいよだわ」

 美奈子の体が炎に燃え上がった。

 日本のために、力を出し尽くす時が来たのだ。

「震源地着弾まであと、12秒」



 11・10・9・8・7



 佐伯姉妹は、もう限界にきていた。

「麗子、ごめん。私、先に行くね」

 姉の貴子は力尽きた。

 逆巻く海の渦の中に、まっさかさまに落下した。

「お、お姉さまぁ!」



 6・5・4・3.2・1—— 



 この瞬間。

 麻美と美奈子は、命を捨てる覚悟で全エネルギーを放出した。


  

「絶対零度!」





「……やったか!?」

 政府・そして自衛隊関係者・災害対策室。

 この作戦を知るすべての者は、固唾を呑んだ。



 ……ああっ、ダメ!



 美奈子は衰弱のあまり、地に倒れた。

「どうした!?」

 レーダーを見つめていた、地震対策室の鮫島は叫んだ。



 ……関東大震災をしのぐ規模の揺れを防ぐことには成功したと思います。

 でも、完全にはムリでした。相手は地球です。エネルギーが桁違いです!



 そして、恐れていたことが起こった。

 東京23区。そして神奈川沿岸一帯から、火災警報。

 その数、487件。

「横浜が、壊滅状態です! ライフラインはズタズタで、どこから手をつけていいのか分かりません! なお、地震の規模はマグニチュード7.4」

「なにっ」

 ほぼ、阪神大震災と同じ規模。

 ついに、悲劇は起こってしまった。



 ……これ以上はムリですわ


 倒れこむ美奈子の頭に、麗子の声が響いた。


 ……姉はもう死にました。私もそろそろ——


 立つことすらできない美奈子の頬に、一筋の涙が伝った。


 ……麻美ちゃんは?


 麗子のテレパシーもだんだん弱まってきている。

 美奈子は上を向いて目を閉じた。


 ……あの子の声も、もう聞こえない。


 ……そう



 それっきり、麗子の声も、聞こえなくなった。

 海岸で仰向けになりながら横を見ると——

「津波?」

 そうだ。

 沿岸部をすべて呑みつくす規模の、大津波が迫ってきていた。



「お姉ちゃん、大丈夫!?」

 美奈子のもとへ、一人の少年が駆けてきた。

「あなた、こんなところにいちゃだめでしょ! 高いところへ逃げなさい!」

 言ってしまった後で、美奈子は力なく笑った。

「……って、もう間に合わないよね」

「あきらめちゃだめだ!」

 少年は、ポケットから変わった形のお守り袋を取り出した。

 そして、その中には光を放つ黒い石が入れられていた。

「僕のおじいちゃんは言ってたんだ。ここで何かの災いが起こるとき、この石を信じて頼れって」

 美奈子は、その石に何かの力を感じ取った。

 そして、少年からその石を受け取って触ると——



 流れ込んできた。

 この石にまつわる歴史の、すべてが。

 関東大震災の時、これが少年の祖父の住む村を守った事実も。

 そして、その守護者は一体どこから来た者であるかも。

 美奈子はサイコメトリー(物体に触れるだけで、そこに残った残留思念からあらゆることを読み取る能力)によって、すべてを理解した。

「勝てる」

 絶望した美奈子の心に、希望の火がともった。

 立ち上がった美奈子は、少年と手をつないだ。

「ボク、お姉ちゃんに力を貸して。一緒に念じて。あの津波を止められますように、これ以上の被害を防げますように、って」

 美奈子の手の中で、石はまばゆく照り輝いた。



「念動超力最大解放

 天上界神秘術・最終奥義呪言——」



 ……麻美ちゃん、麗子先生、貴子さん。あなたがたの犠牲は無駄にはしない。



「天上要塞 黒羅轟 弐號 召還!」




 何かが、高速で地球に迫りつつあった。

 かつて恩を受けた地球人の叫びを聞いたから。

 そして叫んだ者を、脅威から守り抜くためにー。



 美奈子は、その勇士を見た。

 天上要塞・黒羅轟(クロラゴウ)と名乗ったその異世界(オブリビオン)からの使者は、その存在が来ただけで、空が夜のように暗くなった。

 というのも、その宇宙船のような要塞の大きさは東京都全体に匹敵したからだ。

「あ、あなたは一体……」

 少年と美奈子の見ている前で、巨大すぎるその要塞は常識ではあり得ない変形をした。きっとその船体は、地球の科学では分からない流動性と可逆性のある物質でできているのだろう。

 高さがどこまであるか分からない、そして横にどこまで続いているか分からない壁になったのだ。そして、津波の迫る海辺に、大きな地響きとともに降臨した。

 どんなに大きな津波も竜巻も、その壁を越えて本土を襲うことはできなかった。



 政府・自衛隊関係者、そして鮫島を初めとする気象学関係者や災害対策室の面々は胸を撫で下ろした。

 しかし、最悪の事態は防げたとはいえ、阪神大震災級の災害が首都・東京と神奈川で起こってしまった。これから、全力でその対応に当たらないといけない。

「やっほ~」

 美奈子は、哨戒ヘリで運ばれ来た人影を見て、驚いた。

「みんな! 生きていたんですね!」

 絶望的だと思っていた麻美に、佐伯姉妹。

「ああ、その子」

 貴子は、美奈子の横にいた少年を指差した。

「その子のおじいちゃん、確か寛太っていう名前だったかしらね。その霊がね、海に落ちて力尽きた私を助けてくれたの。

 私さ、霊能者だからよく相手が分かったの。だから、麻美ちゃんと妹の分も救助を頼んどいた。あと、あの信じられないお化けみたいな宇宙要塞も手伝ってくれた」



 その場にいた一同は、途方もなく大きい黒羅轟を見上げた。

「寛太さんのそのまたおじいちゃんがね、調査のために地球に来ていた黒羅轟に、親切にしたらしいわ。だから、呼んだら助けてくれたのね」

 美奈子の言葉に、麻美が質問した。

「えっ? ……っていうことは、あの宇宙船には昔寛太さんに助けられた人が生きていて乗ってるの? それとも、地球人に受けた恩を忘れられずに、覚えていた人が来てくれたのかしら?」

「あのね。あれには誰も人は乗ってないよ」

 すべての事情を知っている美奈子は、笑った。

「あの要塞はね、あれ全体で一個の生命体なんだよ」

「うそ~~~~!」

 佐伯姉妹と麻美は叫んだ。

「どんな形にだって、どんな大きさにだってなれるんだから」



 黒羅轟は、やがてその巨体をゆっくり旋回させ、だんだんと上昇していった。

 大きすぎて、空全体を覆う黒雲のようにしか見えていなかったものが——

 位置が遠ざかるにつれて、やがてその全体像を現した。

 超能力3人娘と霊能力者・この地の少年の5人は要塞に手を振った。

「やっぱり、おじいちゃんは嘘つきなんかじゃなかったんだ!」

 少年は、黒い石を大事そうになで、無邪気に喜んだ。

 その頭をなでてあげながら、美奈子も明るく言った。

「……とんだ夏休みになっちゃったね」

「ホントホント。でも、震災起こっちゃったから、浮かれモードじゃいられないよね……復興のために、私らも働かなきゃね!」

 麻美が背伸びをして、自分に言い聞かせるように言う。

「あっ」

 何かを思い出したように、貴子が深刻そうな表情をする。

「お姉さま。まだ何か問題でも……ありましたの?」

 シリアスに静まり返った場を破壊するかのように、貴子はおかしな心配を口にした。もちろん、この後皆から袋叩き同然の目にあった。



「551蓬莱のお店、被災してないかしら?

 ああっ、もしあれが食べられなくなったら、私、どうしたらいいの——?」

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超能力少女・美奈子の事件簿 賢者テラ @eyeofgod

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