想いの強さ
第5話 想いの強さ1
作戦を立てる。息子に変わってくれと雄介に言われ、浩はスマホを通話状態のまま賢人に渡す。
「局長、代わったよ。……うん、うん。……わかった」
二、三回相づちを打ち浩をちらりと見て。
「……乾は、こっち?了解、すぐ準備する」
スマホの通話を落とし、賢人は浩の方へ向く。
「急ぐよ。ベルトで挟んでいる銃を貸して」
言われて気づく。そういえばずっとつけていたままだった。
銃を渡しながら疑問をぶつける。
「これって、やっぱり本物?」
「まさか。重さを寄せてるモデルガンだよ。正確にいえば魔力で反応する魔装銃ってやつ、いわゆる魔具だね」
「魔具……魔法の杖、みたいな?」
「そうそう。時代に合わせてモデルチェンジするんだよ」
言いながら手慣れた手つきで銃のスライドを動かし動作確認をする賢人。その迷いのない動きが賢人が『普通』ではないのだと再認識される。
「右手出して」
言われて右手を出す。出した沢村の右手の人差し指、中指、そして親指を握りこむ賢人。
にぎりこまれた指先から、熱いようなしびれるような感覚が伝わる。
「今、魔力を注いでる」
沢村の疑問に気づいたのか視線を上げずに賢人は言う。ぱっと離された右手は出した直前と何ら変わりない。
「浩の指先に魔装銃を撃つための魔力を三発分注いだ。長くはもたないよ」
親指、人差し指、中指の三本。
「狂人症の人狼が襲ってきたら迷いなく撃って、外してもいい」
「当てなくていいの?」
「大丈夫、撃った弾の軌道に魔力が残るから。そうだな、タイヤの跡や飛行機雲を想像したらわかりやすいかも」
通った後ろに跡が残るように魔力も糸を引くように残るらしい。
「その魔力痕に添うように捕縛の鎖を引き延ばすから」
「それならもう二、三発撃てるようにしたほうがいいんじゃ?」
「浩の体力がもたないよ。注がれたとき変な感じしたでしょ?」
「あ、うん」
「このやり方は新米魔術師が体内魔力の道を開くためのやり方なんだ。本当なら時間をかけて少しずつ魔力の通り道を作る。でも今はそんな時間がないし、浩はまだ魔術師じゃない」
「うん?ということは僕は今魔術師になってるって事?」
「指先だけね」
右手を軽く握り開く。特に何が変わっているようには感じられない。
「浩の指先には俺が銃弾を撃つためだけを考えた魔力が入っている。言っちゃえば銃に弾を込めた状態だね。浩は銃を構えたら弾を撃つことだけを考えればいい。そしたら指先にある魔力が弾となって銃から放たれる」
「引き金を引くだけ?」
「そう」
言って賢人は自分の右手を銃の形にして前に出す。
「魔術ってのは想いの結晶だ。そうであれと願うほど効果は高まる。……ほんとはさ」
右手をおろし沢村を見る。
「ほんとは、浩がこんなことをする必要はない。いくら局長が許可したとしても浩はまだ『一般人』。俺ら魔術師側がやるべき事なんだ、でも……」
魔術師側で採るべき手段はもう出尽くしてしまった。新たな手段を採るには時間がない。
「……俺が出来るのは、囮として使う浩の身の安全を少しでも高くさせることだけ」
言って賢人は手をすっと横に動かす。
ふわりと何かが、浩に乗ったような感じがした。
「防護幕。多少の攻撃なら耐えられる。致命的な攻撃は防げられないけれどね」
だから防御を構えたり避けるのを忘れないようにね、と念押しする。
うなずき、銃を受け取る。
「わかった」
返すように賢人もうなずき。
「こっちで出来る準備はこれで終わり。それじゃ作戦の詳細を伝えるよ」
はずれもの 川内嘉治 @yoshirosuniku
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