第5話
「どういう事?」
部屋にあるものを手に取りながら、これが現実だということを確認する。触れる。間違いない。全部現実だ。
「つまりですね、トロルがいるという事です。こちらの世界に。」
「……あはははは! ごめんごめん。色々ぶっ飛びすぎてて訳がわからないよ。」
「こちらの世界に、魔物が紛れ込んでいるのです。サトウ様の使命は、その魔物を倒す事なのです。」
至ってまじめに答えるアレイア。彼女を信じるならば、こういう事だろう。
僕は一度死に、異世界へ転生した。その後、勇者として魔物を倒すために、現世界へ戻ってきた、と。
「色々お伝えしたい事はございますが、今は目の前の魔物を倒すことだけお考えください……。それと、サトウ様のお部屋を一室貸していただけませんか?」
「なんで?」
「流石にこのメイド服はこちらの世界で目立ちますので着替えをさせていただきたいのです。」
「あ、ああー、そうだよね! 寝室があるから好きに使っていいよ!」
「ありがとうございます。私の着替えが終わりましたら、外に車を用意してあるのでそれで現場に向かいましょう。」
(車どっから持ってきたんだよ?)
どこから突っ込んで良いかわからない状況だったので、それ以上僕は考えるのをやめた。
「お待たせして申し訳ありません。では参りましょう。」
寝室から出てきたアレイアは、白のカッターにビジネスジャケットを羽織り、下はタイトスカートというOLスタイルだった。正直、めちゃくちゃ似合っていた。なかなかお目にかかれないレベルのルックスだ。
「標的が現れるまでしばらく時間があるので。車の中で待ちながら説明致します。」
そうして、コンビニの駐車場の車中待ちという今の状況に至ったのだ。アレイアから聞いた話を整理すると、魔物は人間の姿をしており、普通には見分けがつかないらしい。ただ、僕が見ると、頭の上に
市民
エネミー
勇者
メイド
など属性が色付き文字で見えるそうだ。市民は青。エネミーは赤。他の勇者は白。メイドは黄色と言った具合だ。
そして、僕の使命は、コンビニに現れるトロルを見つけ、殺すことだという。
「見た目は人間なんだろ? 殺したら警察に捕まるんじゃないか?」
「討伐したらすぐに異世界へ戻ります。監視カメラや目撃者を含め、証拠は一切残しません。」
「……。」
「トロルは、このコンビニの若い女性店員に好意を抱き足繁く通っていました。ところが、告白を拒否されたことに腹を立て、おそらく今日、彼女を殺害にくる見込みです。」
「なら、そのまえにとめないと!」
「そこについてはお任せします。あくまでサトウ様のクリア条件はトロル討伐です。市民救助は今回の条件ではございませんので。」
相変わらず淡々としている。仕事だからだろうが、こういう時のアレイアは少し苦手だ。
「それにしても、なかなか現れませんねえ。私の調べが甘いようで申し訳ないです。」
「いいよ、別に。まだ15時間はあるし。」
「たった15時間ですか……。」
小さい声でつぶやくアレイアに、僕はとても不安な気持ちになった。恐怖に蓋をしている状態がいつまでもつか、自分自身にも分からなかった。
残りが13時間を切ったとき、1人の男がコンビニに入っていくのが見えた。ずぶ濡れなのを物ともせず、ズカズカ自動扉を潜っていく。
「来た……。」
そこから、僕の長く険しい初陣が幕を開ける。
勇者になったのはいいけどノルマが尋常じゃない(仮) 夏目 @natsumehiryu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勇者になったのはいいけどノルマが尋常じゃない(仮)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます