3.何の為のモフモフか
「で、誰が痛い目を見るんだ……?」
チンピラは顔は余裕の色に染まっている。
反対にマイケルの顔は、ペンキを頭からかぶったように不安の色に染まっていく。
なぜ、これっぽっちも動揺しない?
マイケルは考えた。しかし、冷静さを失っているせいで、結論は出なかった。
「今、僕が何を構えているのか分かっているのか?これは玩具じゃない。モノホンなん
だぜ……」
「ああ、知っているぜ。撃ちたきゃ撃てよ。それができなきゃあ、家に帰ってギターでも
触ってな。オールディーズヘッド!」
また髪型について触れられ、一瞬我を失いそうになったが、どうにかムッとする程度に
堪えた。怒りのメーターは既に半分を切っている。
「いいか。今現在、不利な状況に置かれて
いるのはお前の方だ。オツムは大丈夫
なのか?」
「くどいぜ……。撃てよ!」
このままイタチごっこを続ける訳にも
いかない。そう考えたマイケルは、拳銃の
セーフティを解除し、トリガーに力を
込めた。
(大丈夫。これは正当防衛になる……!)
そう思い込んで。
刹那、空を裂いて轟音が響き、銃弾はチンピラの左肩にめり込んだ。
薬莢が乾いた音を立てて地面に落ちた。
「うおおおおお痛いッッ‼︎」
人生で初めて感じる極めて強烈な衝撃に耐え切れず、思わず手を抑えて仰け反ってしまった。
「そうかそうか、痛いか。そりゃあオレも
痛いぜ。おお痛え」
なんとチンピラの方は、言葉と裏腹に
ピンピンしている。大人が転んで擦りむいただけの軽傷だった時のように。
「何……⁉︎」
「はぁーん、驚いているな。ニュースで
見かけるポリ公のように、カッコよく決まるとでも思ったか! だが、あれはポリ公が銃の扱いに慣れているからこそだ。素人が同じ
ようにできるなら、あんな仕事いらねぇよなぁ! ええ⁉︎」
マイケルは目を点にして茫然と立っている。
現実にこんなことがあってたまるか、と。
これはファンタジーなんかじゃない、と!
無言のマイケルを前に、チンピラは、体を
見せつけるようなポーズを取った。
「見ろ! 俺たち犬人間には、この通り
分厚くてモフモフした毛皮がある。これが
何のためにこんなにモフモフしているか、
オメェには分かるか?」
「ハッ……まさか‼︎」
「何も分かってねぇ顔が目障りだから1つ
教えておく! これは人に愛想良く振る舞うための毛皮じゃねえ! あらゆるものから
オレ自身を守るための毛皮なんだよぉッ‼︎
急所を外した銃弾の1発2発なんぞ、蚊に
刺される方がよっぽど痛いぜェーッ‼︎」
「しかしだ! 今お前は『1発2発なんぞ』と言った。もし、僕が何発も打ち込めたと
したら、一体どうするつもりだ……?」
今現在、マイケルが持っている持っている銃弾は、たったの3発である。
それを誤魔化し、こちらが十分な数の銃弾を持っていると思いこませて、相手を引き下がらせようという作戦を実行しようとした。
しかし、チンピラは既に察していた。
「おいおい、ハッタリとは聞き苦しいぜ。
その弾倉には、最初から銃弾が数発しか無いってこと、オレは既にお見通しなんだよ」
(バカな! 相手にマガジンの中身を見せた訳じゃないし、余計に口も滑らせてはいない
はずだ……まさか‼︎)
続いてマイケルも察した。あまりの恐ろしさに、一歩と言わず二歩退いてしまった。
(本物の犬と同じく、嗅覚は人間の100万〜1億倍! こいつ、火薬のニオイで大凡の銃弾の数を識別していた! こいつ……なんて
バケモノだ‼︎ 不利な状況に置かれていた
のは、この僕の方だったッ‼︎)
マイケルは思い出した。学生時代のイヌ科
人間の友人は、皆異様に身体がタフで、
ニオイに敏感だったことを。それが普通だと信じて疑わなかった自分を、初めて疑った。
「どうした。早く残りの銃弾を股以外どこ
でも好きな所に撃ち込めよ。狙えれば、の話だがなぁーッ! 或いは『ごめんなさい! もうしません‼︎』と心から言えば、命だけは
助けてやるぜぇ。」
マイケルの顔は、冷たい汗でびしょびしょで、心臓はオーバーヒートしそうになって
いた。
「やかましいッ! 今、どうするか考えているんだよ」
命乞いもせずに時間を稼ぐマイケルに対し、
チンピラには、また苛立ちが戻りつつある。
「あんまり待たせんじゃねぇよ。オレだって暇じゃねぇんだぜ……」
しかしマイケルは考える。答えを見出すまで考え続けようとする。親切と言うべきか、
それをチンピラは待ち続ける。
他に見るものも無いので、じっと目の前の
男を見据えながら!すると突然、
何かに感づいたような仕草を見せた。
「ん……? こいつ、まさか……‼︎」
そしてチンピラは言い放った。
その言葉は、必然的にマイケルを激震
させた。
「オメェ、もしかしてマイケル・レイナー
だろ。」
あろうことか、マイケルが一番恐れていた
ことが現実になってしまった。
(こいつは、今から僕を始末しようとする‼︎)
ーー続くーー
イヌ科時代の愛歌 Charley @DogLover_1980
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