第43話 最終話 与える喜び

 あれから……さいたまの街は……。

 大入りになった。

 世界各地から人がやって来たのだ。

 世界最強まおうへ挑戦しに。

 だって他の魔王と違って戦っても滅多に死なないもん。

 俺は殺すべき人間しか殺さない。

 公爵も同じだ。

 結果的に公爵の死は多くの人の命を助けた。

 王とアレックスさんによって話が捻じ曲げられたのだ。

 捏造されたストーリーはこういうものだ

 俺に返り討ちにされた大司教のかたきを討つため、ベネット公爵は兵を集めて自己の責任で戦いを挑んだ。

 そんなベネット公爵軍は俺の前に死人すら出さずに全滅。

 ベネット公爵は俺に部下の助命を嘆願し、その代わりに無謀な一騎打ちに挑む。

 最初から命を奪う気のなかった俺はベネットの願いを聞き入れベネットと戦う。

 長く続いた死闘の末、ベネットは死に至る。

 俺はベネットを殺してしてしまったと引き分けを宣言し戦争は集結した。

 王や諸侯はこの話を聞き、俺の高潔さに感動した。

 そして、闇の使徒ジャギー・アミーバは人間の友であると宣言した。

 公爵は死せど、公爵家は残り王国と魔王の友情は深まったのである。


 はい、はじめから終わりまで捏造満載でお送りしてます。


 要するに貴族は勝手に軍を出すなってこと。

 逆に言えば個人はおさえられない。

 日本だと警察に捕まるだろうけど、この世界は中世。

 ルネサンス以前、暗黒の世界。

 都市部でも傷害罪くらいじゃ捕まりもしないヒャッハー世界。

 全人類の3割くらいは人殺しに手を染めてるのだ。

 命の価値は水よりも軽く、それは俺の命も同様。

 つまりなるべく殺さない俺は徳の高い王と支配者たちに恐れられた。

 なお個人の文化的には徳の高いことと、ただの弱者の違いはこの世界には……ない。

 要するに意味がわかってる国家レベルでは第一級の危険人物。

 おバカだらけの個人レベルでは全方面から舐められたわけである。

 するとやってくるのは……道場破り。

 俺と戦ってキャリアアップしようという連中である。

 ヴァレンティーノと違って俺と戦っても死なないから連日大賑わい。

 これがシャイアの言ってた「面倒なこと」である。

 確かにドラゴンじゃ、これやられたらうざいわー。

 でも俺は人間。

 人との戦い方は心得てるのだ。

 首謀者がわからない人の群れに勝つコツは「戦わないこと」。

 いちいち相手にしてたらテロの応酬になる。

 必要なのは相手の意を汲むこと。

 思うに俺に挑んでくるやつの目的は金と名声。

 俺のとこへの仕官を求めての売り込みも。

 だとしたら金と名声を用意すればいい。

 仕官もね。


「カーンッ!」


 ゴングが鳴り、観客が声援を送る。

 ジャギー討伐軍を迎えるために建設したコロシアムは有効利用された。

 絶対王者の俺への挑戦権をかけ、世界各地から武芸者や魔道士が集まる。

 ルールも整備した。

 相手を殺したら無条件で負け。

 これだけで競技性が高まって、見世物としての価値が高まった。

 血みどろの残虐ファイトは半世紀もたないもんね。

 有望な選手は雇って後進の育成をさせる。

 氷河期世代はプロレス最強説からムエタイ最強説を経て、総合格闘技最強説に至ったのが20代の頃。

 それからは最強の定義の争いになり、とうとう自分が最強と思うものが最強ですと悟りを開いた。

 何が最強かなんてわからないことがわかってるのだ。

 つまり異端の流派にも敬意を払う。

 なのでコロシアムの周囲には無数の道場が建設され、強さを求める若者と安全に戦いを観戦したい観客が押し寄せた。

 ……現在、笑えないくらい儲かっている。

 さて、シャイアは月に一度開催される「ドラゴン杯」の運営をしている。

 なんでこうなったかというと、俺を狙って人間が押し寄せることを教えてくれた交換条件として闘技場の運営権を握ったのだ。

 しかも、それだけじゃなくて……。


「おっさん!

出かけたと思ったらまた女作ってくるってどういうことだコラァッ!」


 ぶすり。

 ぐりぐりぐりぐり。

 的確に急所を捉えたティアちゃんのナイフが俺をえぐる。

 痛いっす。


「ぱぱー!」


 三歳児くらいにまで成長した子猫たちが俺に飛びかかる。


「父ちゃーん!」


 さらに200人の子どもたちも参戦。

 モフモフパラダイスである。

 さてティアがなぜキレているのか。

 それは……シャイアが俺の女になったのだ。

 嫁……?


「お主の卵を産ませろ」


 これが情報への交換条件である。

 強いオスの子どもが欲しいんだってさ!

 おっさん強くないぞ。しぶといだけで。

 タンスの角に小指ぶつけたら死ぬし、ちょっとの段差を飛び越えられないレベル。

 というわけで我々は世界最強の勢力になったわけである。

 実際は破壊専門で占領する能力ないから世界征服とかできないけどね。

 ドラゴンは巣の概念はあっても領地の概念ないし、俺は異世界の覇王になる気はない。

 物流が未熟な国が拡大路線取ったら滅びるってのは歴史から学ぶべきだ。

 というわけでヤキモチ焼きでファザコンのティアはキレてしまったというわけである。

 ははは。パパを独り占めにしたい年頃なんだね♪

 俺はティアを娘って言い張るつもりである。

 で、今日は家族全員で闘技場観戦。

 貴賓席で王様気分である。

 200人以上いるから貴賓席埋まっちゃった。

 ごめんね。常連客の人。

 レミリアもカサンドラもティアも、シャイアもいる。


「ぬしさま。

あれが現チャンピオンのヒュー・キースじゃ」


「お主」から「ぬしさま」に俺への呼称が変わったシャイアが鼻息を荒くした。

 いまドラゴンの中で最も熱い趣味が選手育成らしい。

 平和である。


「うおおおおおおおおッ!」


 世紀末ヒャッハー伝説なモヒカンが雄叫びを上げた。

 それを聞いた観客が歓声をあげた。

 やべ、あれと戦わされたらチビリそう。

 あれっすよ。

 ヴァレンティーノくらい行っちゃうと逆に怖くないけど、入れ墨入れたマッチョとかまだ苦手よ。

 俺は普通のおっさんだからな。

 ヒューは持ってきた手の平くらいの石にヘッドバッドした。

 石は粉々。

 おー……天然石でそれやるか。

 半端ねえわ。

 もう一人も気合を入れ、弟子が持っている木の板を拳で壊していく。

 それが終わると今度は弟子に木の棒で全身を叩かせる。

 へぇー。この世界にも空手みたいなのあるんだー。


「ジャギー様、あれが肉体強化魔法のデモンストレーションです」


 なんだ純粋な技じゃないのか。

 そう考えると魔法無しで同じことやってた元の世界ってすごくね?


「私の故郷でもああいう技がありました。

魔法は使いませんでしたが」


 レミリアが絶句している。

 やっぱり文化が変わるとそういう扱いなのね。

 俺が納得してるとカサンドラがしなだれかかってくる

 出産したせいか落ち着きが出てきた。偉い!


「ダーリン。

あたしはダーリンが世界最強って思ってるから♪」


 否定しておこうか。

 そう思った俺に子どもたちの尊敬の眼差しが突き刺さる。

「父ちゃんしゅげえ!」って顔で目をキラキラさせている。


「あ、あはははははははは……」


「ぬしさまはドラゴンを救い、獣人を救い、人間を救った。

誇ってもいい。ドラゴンの長シャイアが宣言する。ぬしさまは英雄じゃ。

まあ……不死族の半分は抹殺したがの」


 ごめんね不死族。 

 今だったらもうちょっとうまくやれると思う。

 みんなの視線が俺に集まった。

 いい年こいたおっさんだが俺はまだ未熟者だ。

 王様業もまだ初心者だ。

 でもゴミ扱いだった前の世界から転移して、俺には家族ができた。

 与える喜びを知り、金より大切なぬくもりを知った

 俺がこれからどうなるかはわからない。

 でも俺は、今を、この異世界で精一杯生きている。

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おっさんを異世界に召喚してはいけません! ~逆転チートの魔導師~ 藤原ゴンザレス @hujigon

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