第42話 ジャギーメテオ

 シャイアの背に乗り大空へ飛び立つ。

 するとシャイアが俺にたずねる。


「いいのか?

普通死ぬぞ!」


「いいんですよ。

派手に暴れてやらないと向こうさんも困るでしょうから」


「いやそうじゃなくて、お主が死ぬんじゃないかと言っているのだ」


 空気が薄すぎてもう三回は死んでるんだけどね。

 どうやら今からすることはドラゴンでも死ぬチャレンジのようだ。

 でもやめない。


「でも……面白いでしょ?」


 シャイアは微笑む。

 シャイアは高度を上げる。


「限界の高度近くまで来たぞ」


 漆黒の闇の中、美しい惑星が見える。

 そこは宇宙空間ギリギリの高度。

 うわーお。

 転移前に日本のテレビで見た映像と同じだ。


「よっしゃ! 行きますか!

マーキング、マーキングっと!」


 俺が何をするのか?

 そりゃ決まってる。

 最高高度からのトペ・スイシーダだ。

 アホ公爵の度肝を抜いてくれる!

 ジャギー行きます!

 俺はシャイアの背から飛び去った。

 当然、服もマントも早々と喪失。

 いつもの鉄仮面は無事。


「おーれーのーなーまーえーをー(略)」


 俺の落下スピードは限界を突破。

 あまりの風圧にすでに耳は聞こえない。

 だがまだまだである。

 特撮的な爆発が足りない。

 チュドーンが足りない。

 よっし、ロケラン使おう。

 爆発を大きくして地面に接触するちょっと前に爆発っと。

 ぼうっと俺を炎が包んだ。

 あんれー?

 ちょっと火力強くね?

 すごく強くね?

 ちょっと熱すぎるんですけど!

 炎大きくね?

 その直径は大きすぎて見えない。

 んー?

 ちょっとやりすぎちゃったかな?

 だってさ……俺、今、完全に隕石だもん。

 まあいいか。

 炎の尾を引きながら俺は地表から確認できる高度まで落下。

 娘たちよ!

 父ちゃん、この一撃で伝説になるぜ!

 ゴゴゴゴゴゴゴ!

 完全にバカになった耳の代わりに心臓が振動を感じていた。

 どれくらいの時間が経っただろうか?

 潰瘍のときの胃カメラよりは短かったと思う。

 地表が、平原が、公爵の陣が見えてきた。


「ジャギーメテオ!」


 ボンッ!

 一瞬で地上に肉薄した瞬間、俺は爆散した。

 それと同時に俺を包んでいた炎も爆発。

 周囲をふき飛ばした。

 馬、馬車、荷物、テント、それに兵。

 ありとあらゆるものが飛んでいく。

 地面がえぐれ、クレーターができる。

 そんな中、俺は復活する。


「わしが闇の使徒、ジャギー・アミーバであーる!」


 某塾長風に俺は叫んだ。

 本名、筋袋玉三郎。

 なせかパンツ代わりのふんどしも無事。

 闇の神の嫌がらせに違いない。


「ぐ、ぐうッ!

なにが起きたのだ!」


 はい騎士みっけ!


「わしが闇の使徒、ジャギー・アミーバであーる!」


「げびゃー!」


 ジャギーパンチ。

 バキィッ! という音とともに騎士は空に飛んでいく。

 後方で兵を無駄に死なせるボケどもには少々反省してもらう。

 どうにもできない理不尽があることを知ってもらおう。

 俺こそが理不尽だ!

 次の騎士みっけ!


「わしが闇の使徒、ジャギー・アミーバであーる!」


 ちゅどーん!

 ジャギーホームラン!

 もちろん弱手加減。


「わしが闇の使徒、ジャギー・アミーバであーる!」


 俺は叫ぶ。

 まだかろうじて動ける騎士たちは次々と武器を捨て、手をあげた。

 降参したのである。


「わしが闇の使徒、ジャギー・アミーバであーる!

動けるものは倒れているものを助けよ!」


 騎士たちは顔をクシャクシャにしていた。

 俺の完全勝利である。

 だが……まだだ。

 公爵を見つけなければ。

 俺は周囲を見渡す。

 すっかり何もなくなった平地に騎士たちが作業をするため動いていた。

 その中に不自然にその場に離れようとする一団を発見した。

 逃げる騎士もかなりいた。

 だけど、そいつらは散り散りに無秩序に逃げてた。

 ところが一団は冷静に素早く逃亡していた。

 まるで何かを守っているかのように。


「みーつけた」


 俺はロケットランチャーの魔法で飛び上がる。


「ロケランジャンプ!」


 俺は逃げる一団を真上から襲撃した。

 くくく、面食らってやがる!


「わしが闇の使徒、ジャギー・アミーバであーる!」


 このセリフ、多く使いすぎて頭がバグってきた。


「ええい! 魔王よ!

死ぬがいい!

公爵閣下! 今のうちにお逃げください!」


 騎士の剣が俺を襲う。

 こういう忠義者大好き。

 俺は剣で突き刺され、さらに後衛の矢で射られる。

 頭さっくり。ジャギーさんの落ち武者風。

 もちろん気にしない。

 脳をえぐられるのも慣れた。慣れてしまったのだ!

 俺は騎士の首をつかみ持ち上げる。


「やめとけ。給料安いんだろ?」


 俺はそこまで言うと投げ捨てる。

 弓兵を倒しても良かったが放置。

 それよりも公爵だ。

 逃げられぬと覚悟を決めたかキラキラ勲章のおっさん、公爵は剣を抜いた。

 なんだろうこの顔。

 コ●ンドーで見たような……。


「魔王よ!

このベネット公爵、逃げも隠れもせぬ!」


 今逃げてたよね?

 つか、名前。

 ベネットかよ!


「ジャギーよ!

このベネット、貴様を恐れなどしない!」


 もしかしてこいつ……俺に殺されるために生まれてきたのか……。

 闇の神ならやりかねない。

 い、いや同情するな!

 やつはブラックプロジェクトの主催者だ!

 それよりも槍だ!

 槍はどこだ!

 切れた鉄パイプは無理だから槍ーッ!


「ふははははは!

ジャギー! 貴様を殺す!」


 ベネットは剣を振り下ろす。

 俺はローリングして剣をよける。

 槍だ! 槍はどこなのだ!

 そのとき、俺の目に放置された槍が目に入った。


「ふ、ふはははは!

そうか逃げたか!

この聖剣が恐ろしいか!」


 ベネットは聖剣とやらを俺に向ける。

 あ、変なスイッチ入っちゃった……。

 違うっての。

 だけどベネットはわからない。

 俺が聖剣を恐れてないってことを。


「これから死ぬ気分はどうだ! ジャギー!」


 俺は槍を拾う。

 そして力いっぱい投げる。


「ぐははははは!

こんな槍など落としてくれる!

この聖剣でな!」


「ロケットランチャー!」


 槍が爆発し、推進力を増す。


「なッ!」


 ベネットは何もできなかった。

 ドンと音がして槍がベネットを貫く。


「なぜだ……なぜ……公爵のわたし……が……」


 そのまま俺はさらに魔法を使う。


「お前は死体すら残さない!

電子レンジ!!!」


 パーンッ!

 ベネットがはじけ飛んだ。


「汚え花火だぜっと」


 こうして死体すら残さず悪は滅んだのである。

 公爵の兵は逃げた。

 雇い主が死んだらそれまで。

 実に良い判断である。

 ふむ疲れた。

 俺が首をコキコキ鳴らしているとシャイアが降りてくる。


「害虫退治したようだな」


「まあ、ね」


 倒した兵は一万。

 殺したのは司令官一人だけ。

 戦争の意味は失われ、俺は最小限の恨みしか買わなかった。

 完全勝利と言えるだろう……。

 うん?

 そういや、完全勝利って負けと同じじゃ……。

 うーん……?

 嫌な予感がする。


「くくく。ジェギーよ。害虫を退治はこれからが大変だぞ」


 俺はひくついた。

 経験者が語っているのだ。

 どえらいことが起こる……かもしれない。


「そうだな。

アドバイスをしてやれるかもしれぬぞ」


「交換条件はなんでしょうか……?」


 ニヤッとシャイアが笑った。

 怖いよー!

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