魔王の優雅な徒然草
鈴江さち
魔王の優雅な徒然草
徒然なるままに、日々の雑記を綴ろうと思う。まず何をしたためるべきか。そうだな、ではまずは我が目覚めについて綴ろうか。
魔王の覚醒、序曲としては相応しいだろう……
魔王の朝は早い。
夜明けと共に目覚めるのだ。年々、早寝早起きになっている。時間で言えば4時前と言ったところか。雰囲気出るかと思って中央線沿線の郊外に城建てたが毎朝ハトとカラスがマジうるせえのでヒルズにでも引っ越そうかと考えているところだ。
俺は起きてまずタバコに火をつけながらスマホをいじる。
今現在、ゲームを4つほどインスコしてるのでログインと日課の作業だけで三時間。いい加減ダルい時もあるが挫けてはいけない。小さな事からコツコツと、とキヨシ師匠も言っているしな。
廃課金は良くない。魔王たるもの微課金でエレガントに嗜むべきなのだ。
早朝の厳粛な儀式も終わって気だるい気分を味わっていると、自然に朝食くらいの時刻になっている。
朝は軽く済ませたい派なので、台湾風のお粥が最近のマイブーム。悩みは、上に乗っている餃子の皮を揚げたようなカスをどのタイミングで食べればいいか分かんないことだ。ふにゃふにゃになってからでは遅いのだ。
そして飯食って一服したあとはお散歩タイム。
城の周りをぐるっ~と一周して、戻ったあと申し訳ていどにストレッチして計一時間くらい。最初のうちは近所の目とか気にしてマスクしたり、急に聞かれた時用に「うちの会社フレックスタイム制なんです」とか心の中でセリフ考えたりしてたが、要は慣れである。
今では「かわいいワンちゃんですねえ」なんて世間話もたまにはこなす。内心は「お前にその犬?」と思っている。相手側が俺のこと本当はどう思ってるかは知らん。
答えはいつも風の中にある。
そのあとゴロゴロしたりぼーっとしたりして昼飯までの時間をぼんやり過ごす。
昼のログインがあるやつはして、ランチは駅前でベルゼブブとする。
ベルゼブブとは古い仲だ。盟友と言っても過言ではない。昔、俺に反乱とかしてきた時期もあったが、「俺はちょっとした権力が欲しかっただけなんだ! 死ぬのはイヤだから降格で勘弁してくれ!」と必死こいて言ってたのをみて、あまりにも気持ちが分かったから許してあげた過去がある。
俺も正直、魔王のポストを失うくらいなら全裸で土下座した方がマシだとマジで考える時がある。
権力と人の不幸はいつの世も蜜の味だ。俺はたぶん某米国大統領と異常に馬が合うだろう。
脇道に逸れた。
そんな訳で、近頃はパスタ屋でブブ(愛称)とパスタが多い。
ここ半年ほど週三でパスタなので店員とはもう連れだ。メニューにはないが、「キムチ入れて」とか「納豆入れて」ってオーダーも余裕で通る。
どこまで許してくれるのか、そのボーダーを日々研究中である。俺の夢はここでチャーシュー麺を食う事だ。
飯のあとはブブと競馬行ったり城でダベったりと気分で変わる。
一回、「このまま午後は沖縄いこっか」って言ってめちゃくちゃ盛り上がったが、土壇場になって「それはハジケ過ぎてて良くない」とブブが言ってすごいシラケた事があった。
良く言えば真面目、悪く言えば根性がないのだ。だがそれもブブの個性である。本人はわびさびだと言っていたが何言ってるのかちょっと分かんなかった。
音楽性の違いみたいな理由でいつかブブとの関係を解散する時がくるかも知れない。
午後二。
引き続きブブと一緒。
話の内容は芸能トーク。ブブはひらがなけやき、改め「日向坂46」推しにぬるっとシフトしたが、俺はだいぶ飽きながらまだ「欅坂46」推しだ。ブブはそうゆうとこけっこう柔軟だ。議論は今日も白熱したが、けっきょく「石森でいいからすれ違いたい」とゆういつもの結論に帰着し、やっと仕事をしようかって気分になってくる。
俺たちは昼過ぎに出社して、社長室に向かいながら魔族の社員たちからのあいさつを余裕でスルーする。
権力とはそうゆうものだ。繰り返しになるが、俺は魔王のポストを失うくらいなら全裸でルンバ踊ってるところをTikTokにアップする覚悟がある。
社長室で、副社長のブブとチェスしながら時間を潰す。
俺の仕事はぶっちゃけ社長室にいることだけなので時間はありあまっている。前は普通にパターゴルフとかしてたが、つまんないのでダンレボしたり太鼓の達人やったりしてたが、今はチェスに落ち着いている。理由は秘書に「うるさいです」って言われたからだ。
辞めさせてやろうかと思ったが、次の秘書が必ずしもコイツより美人とは限らないので我慢している。もう少し言うなら、キツい子はそれはそれでやぶさかではない。「キツい子ほどベッドでは子猫」とゆう定理を400年も前にニュートンが提唱している。
午後5時。
退社時間だ。だがまだである。魔王たるもの、終わったらバイチャって訳にはいかないのである。
理想は6時くらいまで粘って、秘書とブブを引き連れて「大臣との立食パーティーには間に合うだろうね?」などと聞こえるように言いながら、リムジンでシャンパンでも飲むのがいい。それか沖縄に行きたい。
だがここでもブブが真面目っぷりを発揮して、「ちょっとは仕事もしよう?」て言うから、ブブが部下に指示出ししてるのをみながら二、三人の社員に「この場合キミならどうするかね?」って適当に声かけし、やがてブブの無意味な熱意も醒めて、俺は部長クラスの魔族の手の甲を親指で痛いくらい押してから退社する。
「ここのツボが効くらしいよ」つっといたが本当は嫌いなんだ、あいつ。
魔界はもう夜だ。
渋谷の旧PARCO前をうろうろして、一人で泥酔している女の子を探したが時間が早すぎたらしくまだあかんかった。
「そういえばPARCOリニューアルオープンするらしいね」ってブブが言ったので「平手友梨奈もソロ曲出した時にはリニューアル想定してなかっただろうな」と返した。分からない人は、渋谷からPARCOが消えた日って検索してくれ。
渋谷の雑踏を見ながら、なんとなく、帰りたくなかった。この時間はいつもこうだ。ブブにはブスの嫁がいるので8時までには解放しなければならない。
そうすると俺は一人だ。
夜は一人で外食して、時にはクラブで飲んで、一人でいる時間もそれはそれでいいか、なんてうそぶいてタクシーの窓の光の帯を眺めて、気がつけば、若くなかった。
遊びたいだけ遊んで、遊びのように仕事して、手に残ったのは金という名の紙切れだけ。
魔界で勢力を伸ばしていく、そのためだけに情熱を捧げたあの頃の熱はどこにいったろう?
徒然なるままに、徒然なるままに。
タクシーの窓にキラリと光ったのはネオンか涙か。
そうだ、最近俺は満ち足りていなかったんだ。何かが足りていなかったんだ。
やる事がない、とゆうのは退屈なものだな。
魔王とはいえ、俺もまだまだ、案外俗っぽいところがあるのかも知れない。
魔王の優雅な徒然草 鈴江さち @sachisuzue81
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