煮物お魚

どうして他者を傷つけるの?

 左手に小舟、右手に舵を持つ身体は極寒に置かれている。


 穴だらけの帆は二度と進路を狂わせる。傷ついた帆では舵を取っても思うように進まなくなるのだ。だが、生きていくことは辛うじて可能と言える。転覆しないだけだというのに、世界はそれで生きろと言う。傷が塞がることはない、いつ溺れ死んでもおかしくない状態で。


 どんな舟乗りでも声がある。言葉がある。表現がある。そして、感情がある。挙げた媒体どれも、時に武器となる。海でその武器を振りかざせば、高波が起こる。


 船に乗って大海原へ少し叫んだだけだった。こうなることがなぜ、理解できていなかったのだ。どうして自分の舟が沈まないと信じ切れる。


 これだ。復讐は何も生まないと糾弾するのはまさにこのピカピカの舟に乗る人間だ。


 新品の帆を自慢げに掲げる凍死寸前の舟乗りへ、海流を起こした。真下にて起こる振幅は小舟を越えるだろう。


 船に乗って大海原へ少し叫んだだけだった。こうなることがなぜ、理解できていなかったのだ。


 小舟はサメの上で転覆する。

 おこぼれを待つ他の生命も心待ちにしている。

 そして瞬く間に海は赤く染まる。


 嬉しいよ。嬉しいんだ。


 そうだよ、死ねよ。


「辛かった。痛いし、涙も止まらなくなる」


 今日の情報社会で、加害者になる人の勇気は嘲笑される。同時に憂いの視線を向けられる。


 人生の重みを知るべきだ。特に、他者の人生を傷つける罪の重さを。


 頚椎が粉々になろうとも、誰も助け舟は出さない。




 海があることに感謝して、日々を送ろう。ありがとう。


 また、人生を歩めるんだ。




 私は相手を笑い飛ばしたが、これは加害者側になるの?

 まさか。復讐は綺麗な実を結んだよ。

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