高校2年生

第42話 進級と運勢

「太陽さん、起きてください、遅刻しちゃいますよ」

「ふぁーあ、もう朝か……」


彼はそう言うと目を擦りながらベッドから出た。

いつもはしっかりしている彼だが寝起きは人並みに無防備だ。

彼のこの姿を見れるのは私だけなのでいつも朝は少しだけ得した気分になれる。


「春休み思ったより短かったな」

「そうですね、もっと太陽さんと一日中一緒に居たかったです」

「俺もだよ、でも今年もクラスが一緒だったら割と一緒の空間にいる時間は変わらないかもな」

「そうですね、昨日からクラスが気になって仕方がないです……」


今日から私たちは高校二年生になるのだが私たちの高校は1年生で文系に進むか理系に進むかを選択し2年次から文理それぞれ2クラスに分かれるというスタイルを取っているため文理が同じでも必ず同じクラスになれるとは限らない。


「そういえば水生さんは文理どっちなんですか?」

「灯火も俺らと同じで理系だってよ」

「そうなんですか! じゃあまた4人同じクラスもあり得るんですね」

「そうだな、かなり確率は低いと思うけど……」

「そうですね……でもさっき今日の運勢を見たら1位蟹座で2位牡羊座だったんで私行けそうな気がしますっ」

「お、まじか! それは俺も行けそうな気がするよ」


そう言うと彼は小さく笑った。

彼の寝起きはいつも表情の抑揚が極度に少ないため良いことがあったり嬉しかったりするとすぐにわかる。

彼もかなりクラスのことを気にしていたので少し安心したのだろう。


「じゃあそろそろ学校行くか」

「そうですね」


外に出ると春特有の桜や梅の甘い香りを心地の良い風が運んできた。


「太陽さん、私今凄く幸せです」

「ど、どうしたんだ急に?」

「今ふと去年の今頃のことを思い出したんです、それで私こんなに幸せな毎日が送れるだなんて夢にも思っていなかったので……!」

「なるほどな、確かに俺も何事もなく平穏に三年間やり過ごせればいいと思ってたからなぁ」

「確かに初めのころの太陽さんは見てわかるくらい注目されないようにしてましたもんね」

「明里のせいでその目論見は失敗しちゃったけどなぁ」


そう言うと彼は少し悪戯っぽく笑った。

彼は笑うと目がなくなるくらい細くなる。

私はその笑顔が大好きで彼の笑顔を見るといつも胸の中が幸せでいっぱいになる。


「じゃあ太陽さんは今幸せじゃないんですか……?」


答えはわかっているが直接言葉で聞きたいのでこう聞いてみた。

すると彼は恥ずかしいのか目を逸らしながら、


「幸せじゃないわけないだろ、こんなに可愛い彼女と毎日一緒に居られるんだから」


と言った。

想像していた返事よりもずっと破壊力のある言葉にこちらから仕掛けたはずなのに彼よりも顔を赤くしてしまった。


「今のはずるいです……」

「ず、ずるいって聞いてきたのは明里だろ!?」

「それでもずるいものはずるいんです……そんなこと言われたらもっと太陽さんのこと好きになっちゃうじゃないですか……」

「それはもっとずるくないか!?」

「ず、ずるくない、と思います……」

「じゃ、じゃあこれもずるくないよな?」


彼はそう言うと優しく私の手を握ってきた。

どこかへ二人で出かけたりするときは手を繋ぐことは多いが学校へ行くときはたまにしか繋いだことがないため特別な感じがしてとてもドキドキする。

「それもずるいです!」と言おうとすると後ろから聞きなれた二人の声が聞こえてきた。


「朝からアツアツだね~」

「二人ともまだ四月よ? 夏になったらどんだけ熱くなるのよ……」

「梢ちゃんに水生さん、おはようございます」

「おはよ~、またこの四人クラス一緒だといいね!」

「そうですね」


二人もやはりクラスのことが気になっていたらしく学校につくまで四人でタラレバ話で盛り上がった。


「着いちゃいましたね」

「そうだな……」

「楽しみだけど見たくない気持ちもあるよね」

「でも見るしかないわよね……」

「じゃあせーので見るか」

「そうですね」

「「「「せーーーのっ」」」」


覚悟を決めて張り出されているクラス分けの紙を見る。

紙には各クラスの生徒が50音順に記されており梢ちゃんの苗字は天野川なのでまず梢ちゃんを探しそこから目線を下に下げていく。


(石川さん、木村さん、浜本さん......星宮! あった!)


ひとまず梢ちゃんとクラスが一緒だったので少し安心して視線を男子生徒の欄に向け、さ行まで一気に目線を下げて高橋さんからゆっくりと下げていく。


(高橋さん、武井さん、知念さん、......月嶹! やったっ、太陽さんも一緒だ!)


彼の名前を見つけた勢いで一気にま行まで視線を下げ、水生さんの名前を探す。


(前田さん、真壁さん、増田さん......水生!)


あまりの運の良さに願望が見せた錯覚ではないかと思いもう一度四人の名前があるのを確認して顔を上げると他の三人もほぼ同じタイミングで顔を上げた。


「やりましたねっ、4人とも一緒ですっ」

「正直本当に一緒になれるとは思ってなかったから凄い嬉しいな」

「ここまでくると腐れ縁ね」

「そうだね、これからもよろしくね~」


本当に4人同じクラスになれたので今日から何かあるときは運勢を見てみるのも一つの手だと思った。

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恋の天使は愛犬でした 二宮響 @hibikininomiya

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