第41話 幸せな一日
「明里いないから市販のお菓子とかしか出せないけど勘弁してな。」
「全然気にしなくて平気だよ、急に行くって言ったの僕だし!」
「そうか、なら良かった。」
そう言いながら玄関の扉を開けると突然破裂音と紙吹雪と火薬の匂いそして
「太陽さん誕生日おめでとうございます!」
「太陽誕生日おめでとう!」
「月嶹君誕生日おめでとう!」
「太陽兄ちゃん誕生日おめでとうです!」
という祝いの言葉に襲われた。
「へ......? 明里? 天野川さん? 雫さん? なんで俺の家に? それに誕生日おめでとうって......」
俺は沢山の情報が一気に頭の中に入ってきたので状況を理解することができず放心してしまった。すると明里はスマホのカレンダーをこちらに向けながら「今日は太陽さんの誕生日ですよ」といった。
「あ、そうか、今日俺の誕生日か」
「自分の誕生日忘れるってどんだけお祝い事に興味ないんだよ~」
「いや、去年まで当日誰かに祝ってもらうっていうことがなかったからさ、全然自分の誕生日とかに興味ないんだよな。だから皆ありがとう。 凄い嬉しい!」
「それは良かったです! ささ、中に入りましょ! お祝いはこれからですから!」
明里はそういうと俺の手を握って家の中へ引っ張っていった。
明里に促されるまま家に入るとそこはいつもの見知った自分の家とは思えないほど綺麗に装飾された部屋だった。
「おおお! すげぇ! これ3人がやってくれたのか!?」
「そうですよ、雫ちゃんも梢ちゃんも手伝ってくれました!」
「そうなのか、本当にみんなありがとう!」
「いえいえー! じゃあ早速だけどプレゼント渡しちゃおうよ!」
「え、こんなにやってもらったのにプレゼントまでくれるのか!?」
「当たり前でしょ! 去年は明里の相談に乗っただけだったけど今年はちゃんと私も用意したからね」
「本当にありがとう......!」
「じゃあ最初は僕と雫からのプレゼント!」
灯火はそういうと緑色の包装紙に包まれた長い何かを渡してきた。
「開けてもいいか?」
「もちろん!」
包みを外すと中から普通のものより少し大きめの紺色の傘が出てきた。
「傘か! ちょうどうちビニール傘しかなくて困ってたんだ、めちゃくちゃ嬉しいよ!」
「ほんとに! それは良かった~!」
「その傘少し大きめだから明里姉ちゃんと相合傘できるです」
「そこまで考えてくれたのか、明里今度雨降ったら使ってみないか?」
「はい! 私雨はあまり好きではないですけど今だけは早く降ってほしいですっ」
「はいはーい、イチャイチャストーップ! 続きは私たちが帰ったら好きなだけどうぞ! はい、これ私からのプレゼント!」
そういって天野川さんが渡してきたのは手紙を入れられる大きさくらいの封筒だった。
封筒を開けてみると中から映画のチケットが二枚出てきた。
「映画のチケット?」
「うん、明里がこの前今日の準備で忙しくて月嶹君が映画誘ってくれたのに断っちゃったって言って落ち込んでたからそれにしてみた! 今度二人で行ってきなよ!」
「ちょ、ちょっと梢ちゃんそれは言わないって約束したじゃないですかー!」
「あれ、そうだっけ? まあまあ細かいことは気にしないの! それにその映画今巷で噂の好きな人と一緒に見ると今までの10倍仲が深まるっていう映画だから許してっ」
そういうと天野川さんは明里に向かって小さく舌を出した。
その様子を見た明里は少し考えて「じゅ、10倍ですか......それは凄く嬉しいし幸せなので今回だけ許してあげます」といって柔らかく笑った。
久しぶりに見た明里のいつものとは違う笑顔は横顔だったのにとても愛おしく感じた。
「じゃあ最後は私のプレゼントですね......! どうぞっ」
そういって明里が渡してくれたのは筆箱より少し大きめの水色の包装紙に包まれた箱だった。
包みを開けると中から瑠璃色の長財布が出てきた。
財布にはパール加工が施されており一粒一粒が宝石のように輝いており、凹凸があるのに手触りがとてもなめらかで永遠と触っていたくなる触り心地だった。
「どうですか......? 気にいってくれたのなら嬉しいんですけど......」
「めっちゃくちゃ嬉しいし、俺が大好きなデザインだよ! それに色が明里の髪と同じ色だから凄く特別に感じる。一生大事にするよ、本当にありがとう!」
「そ、それは良かったです......」
明里はそう返事をすると恥ずかしさと嬉しさの入り混じった顔で微笑んだ。
少し頬が赤くなっていたその笑顔はこの世のものとは思えないくらい可愛らしくて尊いものだった。
「ね、太陽言ったでしょ? すぐに解決するって!」
「ああ、そうだな、安心したよ。」
「何の話です?」
「太陽がね、今日の午前中に最近星宮さんに避けられてる気がするーって落ち込んでたからすぐに解決するよって言ってあげたんだ!」
「太陽さんそうだったんですか......? すいません......」
「い、いや明里が謝る必要は全くないぞ? 俺が早とちりして勝手に悪い方向に考えてただけだし。」
「そうですか......? ならいいんですけど......」
「うん、それに明里も俺の誘い断ったの気にしてくれてたんだろ? だったらお互いさまってことでいいんじゃないか?」
「そうですね、そういうことにしておきましょう!」
この後俺らは明里が作ってくれた絶品料理の数々に舌鼓を打った。
ご飯を食べた後はみんなでトランプやら人生ゲームやら様々なゲームで遊んだ。
「はぁー、楽しかった!」
「そうだな、やっぱり大勢で遊ぶのもいいもんだな」
「そうですね!」
「じゃあ僕らはそろそろ帰るね!」
「おう、今日はみんな本当にありがとう、凄い幸せな一日だったよ」
「それは良かったです、また兄ちゃんの家来てもいいです?」
「もちろん、いつでもきていいよ」
「やったです、楽しみにしてるです」
「そん時は僕も呼んでね?」
「お、おう、もちろん」
一瞬灯火の目の奥が真っ黒になった気がしたがきっと気のせいだろう。
皆を見送り俺らは家の中に戻った。
「凄く楽しかったな」
「そうですね、楽しそうな太陽さんが見れて幸せでしたっ」
「俺も久しぶりに明里の笑顔がたくさん見れて幸せだったよ」
「そ、そうですか......それは良かったです.........太陽さんこの後ってまだ時間あったりしますか?」
「ああ、全然あるけどどうしたんだ?」
「実は私皆には言ってないんですけど、もう一つ太陽さんにプレゼントがあるんです!」
「え、本当か!? あんなにいい財布くれたのにまだくれるのか!?」
「はい! ちょっと持ってきますね」
そういうと明里は一度自分の家に帰っていった。
「お待たせしました、大したものではないんですけど......」
そういって明里が渡してくれたのは俺と明里の名前が刻まれた写真立てと手紙だった。
写真立ての中には去年の文化祭で二人で撮った写真がすでに入っていた。
「写真立てか! それに俺らの名前が彫ってある! 本当にいいのかもらって!?」
「もちろんですっ! それに半分は私自身のためにあげてるようなものなので......」
「どういうことだ?」
「太陽さんに少しでも多くの時間私を近くで感じて欲しいなって思ったので......」
そう言うと明里は耳まで真っ赤にして下を向いてしまった。
俺は勇気を出して自分の気持ちを言ってくれた明里をとても愛おしく思い、「俺も少しでも長く明里に俺を近くで感じて欲しい」と言って抱きしめた。
明里は最初びっくりしたのか少し体を強張らせたが段々力を抜いていき、顔を俺の胸にすりすりしてきた。
「太陽さんの胸の中凄く安心します......」
「そ、そうか? なら良かったよ」
「はい、もう少しだけこうしていてもいいですか......?」
「あ、ああ好きなだけしてくれていいぞ」
ドキドキしすぎて正確な時間はわからないがおそらく五分ほどこの状態をキープした後に明里は「ありがとうございました......」と言って俺から離れた。
「そうだ、手紙もくれたよな? 読んでもいいか?」
「え、えっとできれば私のいないところで一人で読んでほしいです......今読まれると恥ずかしさで死んじゃいそうなので......」
「わかった、じゃあそうするよ。改めて素敵なプレゼントありがとな」
「いえいえ、喜んでいただけて良かったです!!」
「じゃあもう22時回ってるしお開きにするか」
「......」
「明里、どうした?」
「そ、そのあの、明日休みじゃないですか......?」
「ああ、そうだな」
「なのでその......」
「その......?」
「きょ、今日泊まって行ってもいいですか......?」
明里はそこまで言うとまた顔を真っ赤にして俯いた。
あまりにも意外なお願いだったが断る理由が全くなく、むしろもの凄く嬉しい申し出だったので即答で「もちろんいいぞ」と答えた。
「ほ、本当ですか......! ありがとうございます!」
明里はぱっと顔を上げて笑顔でこう言った。
まだ少し紅潮しているその笑顔は今まで見てきた明里のどの笑顔とも違う可愛らしくも大人びていて心から独り占めしたいと思うものだった。
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