傘とナイフ

「なんなんだお前! なんで美人のクセに俺に声かけるんだあっ!」

「え? え? え?」

「楠子!」


 父親が持ってるナイフと同じだ。

 装飾品の要素が強い見た目は美しい刃物。

 なんだ。結局狂ってる奴が持つナイフなんだ。


「君代! 来ちゃダメ!」

「楠子!」

「君代! 来るなあっ!」


 楠子・・・


「わああああああっ!」


 あ!

 さっきの!


「お、おまっ!」

「ええええい!」


 傘で。

 でも・・・ああ・・・


「はっ、はっ、はっ、遠くからもう一目だけでもと思ってプレゼン速攻終わらせて来ちゃいました」

「だっ、大丈夫ですかっ!?」

「はっ、はいっ! でも・・・刺されちゃいました・・・はっ、はっ」


 相討ちだったね。

 ナイフ男はこの人に傘で喉を突かれて仰向けに倒れてる。喉よりもまともに後頭部打ってたから下手したら死ぬかも。


「誰か! 救急車を!」


 君代ってこんな大きな声出るんだな。


「そこのスマホで撮ってる方! 早く!」


 なんだ。

 みんななんなんだ。

 楠子とこの人は『決断』したのにどうして電話するぐらいのことができないんだ。


 クソ!


「お前だよ! お前!」

「な、なんだ・・・その女の子供か? 俺はこれから取引先に・・・」

「バカか!? すぐ電話しろ!!」


 救急車、二台来たよ。これから何人殺すか分からなかった男の分まで。

 いい国だな、日本て。

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