おいしくない、カフェオレ

地崎守 晶 

 おいしくない、カフェオレ

 ひどく疲れた体を引きずってたどり着いたリビングのテーブル。白茶けた飲み物が入ったマグカップがぽつんと佇んでいた。

 少しばかり埃の浮いたそれは、やけに明るい蛍光灯の光を虚しく映していた。

 やはり、マグカップの中身を飲む気にはなれなかった。かといって、シンクに捨てる気にも、なれないでいた。

 今更、いまさら、思い出の味、なんて気取るには年を取り過ぎているのに。

 頭痛に顔をしかめて、コンビニの袋から取り出した酎ハイを開けて一気に煽る。こんなもので忘れられるなら、どんなにいいだろうか。

いつも私がアイスコーヒーのペットボトルと牛乳のパックを欠かさずにいたのは、あの子が来てくれるから。私が作るのが下手なカフェオレを、あの子ならおいしく作れたから。

 褐色と白をただ混ぜる。それだけなのに、私がするとコーヒーが多すぎて苦く、牛乳が多すぎて味が薄く、飲めたものじゃなかった。

 ただ、この部屋とは違う私のうちで、あの子が差し出すマグカップの中身だけが、大人に憧れるだけの子どもだった二人にちょうど良かった。


 あの味は、もうきっと二度と飲めないのだろう。


「会いたいよ、レイコ」


 アルコールが中途半端に湿した喉の奥。美味しかったカフェオレは思い出せなかった。

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おいしくない、カフェオレ 地崎守 晶  @kararu11

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