第3話

それから1ヶ月後、新聞は産軍一体となった汚職事件を大きく報じていた。汚職の多いこの国ではあるが、内閣の総辞職に繋がった事件は初めてであった。ヨーロッパにある世界企業G社の極東支社の機密書類があるジャーナリストに持ち込まれたことがきっかけであったという。今、私はこの事件の細かい経緯を調査している。

 裁判になり、えてしてこの手の事件はうやむやになり、時間だけが経過するのが落ちである。結末を見届けてから書く時間の余裕はない。


 私も端くれ作家である。女の言葉に反応した訳ではないが、途中で終わるわけにもいかない。この後のストーリーをどうするかである。男はその女のデスクから下の脚に見覚えがあったのだろう。だから引受けた。妻、情婦、恋人どちらでもいい。男は仕事を完結したのだろうか?女のほうが逆に男を殺した?いや、男と女は一緒になって、その書類をあるジャーナリストに持ち込んで、それなりの金を手にしたとも考えられる。そのジャーナリストは信条に従って発表した?いや、そんなタマではなく、極東支配人を搖すったと見るべきだろうか?支配人はこのことを上に言うわけにもいかない。

 機密書類の重要さから金額を弾いたが、支配人の支払い能力を超えた金額だったか、もしかして支配人は金に吝嗇だった。いろいろに考えられるが、真実なんて所詮わからないこと。小説だ、もっともらしく面白い結末にすればいい。さて・・どうするか?

 なんにしても、男は依頼人の依頼を完結出来なかったわけで、そういう意味では『頼りにならない男』であったわけだ・・

 ひょっとして、靴を履かない女が赤い靴の女だった?端くれ作家の妄想は尽きない。


 了

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頼りにならない男 北風 嵐 @masaru2355

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