XX警察署特殊事件報告書:特殊事件捜査課

人権なんてないね

第1話 ファイルNo.1 女子高生食人事件 1

 2017年 8月25日 発見

 概要 女子高生であった佐々木杏奈が、3日前の8月22日に部活に行くと言ったまま夕飯の時間にもこず翌日8月23日に捜索願が出された。母親の携帯には、部活の後買い物をしてから帰ると連絡を入れていた。(のちに母親が入れたSNSには既読していない)この時、Y町では昼に通り魔事件が発生。

 Y町の事件との関連があるかもしれないと判断され捜索が開始。丸一日をかけ捜索がされたところ優秀な警察犬により、Y町の中でも殺害された場所より離れた路上にて遺体で発見される。


 遺体について

 死因は、出刃包丁による刺し傷 

 しかし遺体には引きちぎったようなねじ切ったような跡があり右足、左腕、右胸が紛失。気温の影響か、かなり遺体の腐食が進んでいた模様。

 通り魔事件の犯人に聞くも、そんなことはしていないとの供述。


 8月26日

 午前9時 私、捜査官 焉能瀬亜沙ここのせあさはいつものとおり、出勤した。今回の事件は女子高生が殺害されるといった遺族には失礼だがありふれた事件だ。なんて、思ってはいるものの、ここにやってくる事件は一筋縄ではいかない。特殊事件捜査課とは、とっても上には都合のいい部署である。なぜなら、通常では解決できず捜査が難航しているものを押し付けられるという私からすれば理不尽極まりない部署だからだ。いい迷惑だ。

 少しだけここの部署のメンバーを紹介しよう。そうでなければ、これを読んでいるそこのあなたに伝わらないのだから。

 まずは、ここの部長 山沖淳士やまおきじゅんじさん。顔は、いぶし銀の強面の人だがとても優しい。私が初めてこの部署に来た時、淳士さんの顔を見て泣きそうになったが、帰り際にケーキ屋によって娘のためにケーキを買って行く姿を見て、イメージが変わった。

 次に、先輩のお二人 榊原美穂さかきばらみほ先輩と石井智人いしいのりと先輩。美穂先輩は、私の面倒をよく見てくれる頼れる先輩で、この部署で唯一の同性の職場の仲間。よく一緒にお昼を食べに行ったり、カフェでお茶したり飲みに行ったりする仲です。一方の石井先輩は、いっつもパソコンとにらめっこをしていたり、美穂先輩と小競り合いになったりとする私的にはちょっと苦手な人だ。初めてあった時から確信していた。

 とまあ、四人で事件を解決して行くのである。


 それは、そうとしてついにこの事件の捜査方針を決める会議が始まった。

「それじゃ、今回の女子高生通り魔殺人事件の捜査会議を始める。まず、この事件がなぜ特異性があるのか確認する。石井、説明を。」

 山沖部長が眉間にしわを寄せながら資料を見つめている。

「はい、今回の事件の特異性は遺体の右足、左腕、右胸が紛失されていることです。また、今回被害者を殺害した通り魔 赤城誠あかぎまことに取り調べを行ったところそのようなことはしていないとし、アリバイもあります。しかしまるで遺体はねじったりひっぱたりえぐり取られていたりなど常人には不可能な不可解な点があるためこの部署に持ち込まれました。」

「説明ご苦労。さて、まずここに来て間もない焉能瀬に説明してやろう。俺からだと誤解を生みそうだし威圧っぽくなるからな、榊原。」

「はいはい、可愛い可愛い孫のような存在ですもんねー。それじゃあ、いつもの事務作業とは、違った本当のお仕事を教えまーす」

 石井の話までは、理解していたが榊原の話を聞いた途端に訳がわからなくなった。

「え、あ  あの、榊原先輩、どういうことですか?」

「はいはーい。んじゃ 説明すると。いわゆる心霊的オカルト要素が原因じゃないかと思われる事件がうちの部署にやって来まーす!だから、うちはそんな事件の調査をするんだけど、そんなに数がないからいつもは、事務作業しているのよ」

「は、はあ。じゃあ先輩も?」

「もちろん、信じられないと思うけれどもね」

 嘘だと信じたかったと思った

「まあ、焉能瀬も今回の事件の全貌見たときにわかるだろう」


 午後になって、榊原とともに聞き込みをしに被害者の杏奈が通っている学校まで歩いていた。

「あの、先輩。本当にいるんでしょうか、遺体を引きちぎれるほどの力を持っているなんて」

「さあね、私は そんなのは見たことはないけどいると思うわね。今までに見て来た事件がそんなだったから」

 いつにもなく真剣な表情で言った言ったため私はそれ以上聞けなかった。

 ジメッとした暑さが肌に張り付いて離れなかった、汗が背中や首筋から絶えることのなく流れ出ているが、不安によるものなのか単なる暑さによるものなのかわからなかった。

 しばらく歩いていると、被害者が通っていた柳沢高校についていた。中に通されると、テニス部で友人である黒飛《くろとび》ののかに話を聞くことになった。

「どうも初めまして、私はXX警察署の榊原と言います。本日は、捜査にご協力頂きありがとうございます。」

「同じくXX警察署の焉能瀬です」

 そう自己紹介すると少し不安そうに「どうも」と黒飛は挨拶をした。しばらく、間が空いてから黒飛が口を開いた。

「あの、私が犯人だって疑われているんでしょうか、でも犯人はあの通り魔のは人だったんでしょう?」

 やはり我々が言われるであろうセリフが出て来た。

「確かに殺害した犯人は逮捕されましたが、まだ不可解な点があったので確認しに来ただけなので落ち着いてください。」

 しかし、ののかの不安は拭いきれなかった。

「何度も聞かれたと思うのですが、改めて事件があった当初の話を聞かせてください。落ち着いて ゆっくりでいいですからね。」

 さすが先輩 こういう対応に慣れていますな。と感心している場合ではないと己を律し、持って来た手帳を仕事用のカバンから取り出す。

 黒飛は、不安な表情のまま当時のことを話し始めた。

「えっと、部活があったのは22日の午前中でした。いつものように、アップをしたりミニゲーム式で練習をして、お昼前に着替えていました。久しぶりだったし、前に一緒にショッピングに行こうって話をしてたから繁華街のY町に行ったんです。そこで、私達は親にLINEをしてから町に行ったんです。学校からは少し歩けば着くからいつも放課後とか学校帰りに行ってたんです。でも町に通り魔が現れて周りがパニックになって杏奈とははぐれたんです。一応、あたりを見回したり探したんですけど見当たらなかったのでLINEを入れて私は家に帰りました。そのあと、既読がついてなくてとっても不安でした。あんなのお母さんに帰ってないって聞いて 私が誘わなきゃよかったのかなって  」

 黒飛の目からぽろぽろと涙が溢れる。そんな彼女をみて私は彼女を落ち着かせるべく声をかけた。

「確かにそんなことがあったら誰でもこわいですよね。でもののかちゃんが責任を感じることはないからね。落ちついてね。」

 私も、同じ目にあったら怖いと思う。そんな怖いことに打ち勝って話してくれている彼女は私よりも強い。彼女のためにも、この事件を解決せねばならないのだ。しかし、情報は乏しい。ここから、真相にたどり着けるんだろうか 緊張と正義感と焦りに包まれて行くような感覚がした。

「なるほど、それじゃ もう少しだけ質問させてね。その、学校を出たのは何時くらいかな?」

 先輩が黒飛に聞く

「えっと練習を早めに切り上げたから11時に終わって着替えてちょと集まって話してからだから11時半くらいだったと思います。」

 なるほど、11時半。確かに、お昼前だし前に確認した職員室にある鍵の貸し出し表にも11時5分に返却って書いてあるから嘘は言っていないのだろう。手帳にメモしておこう。

「それじゃ、Y町についたのは11時20分くらいでいいのかな?それとももうちょっと早かったり遅かったりする?」

 私は、黒飛にそう言った。

「えっと、11時30分だったと思います。わたしが忘れ物を取りに教室に寄って行ったので あ 後、喫茶店に寄りましたね。それが確か12時30分近くでその後に事件にって感じです。他にありますか?」

 特に不思議な点がなかったので今日はここまでにしようかと先輩にアイコンタクトで伝えられた。私も、特に気なる点もなかったのでその場を後にすることにした。

「そうですね。現段階で確認することはしたので本日はこれにて失礼させていただきます。捜査へのご協力感謝いたします。」

 私は、未だ表情の曇っている黒飛の顔を見てつい言ってしまった。

「絶対に 真相を暴いて見せますから」

 最終下校のチャイムが教室に響いていた。


 今日はそのまま帰っていいと部長からメールが来ていたので先輩ともんじゃを食べて行くことになった。

「ねえ、亜沙ちゃん。もう、あんなこと言っちゃいけないんだからね。真実はいつも見えてくるわけじゃないし、確証なんてどこにもないんだから」

 久しぶりに先輩に怒られた。初めて部署でやった仕事でミスをした時と同じ雰囲気をまとっていた。

「すみません。私もあんなことにあったらぜったに怖いし、他人事に思えなくなって来て つい……」

 いつになく、自分がしょげていた。それはまるで母親に叱られているような気分だった。

「まあ、言いたくなるのもわかるっちゃあわかるんだけど。これからは、言わないことね。自分の発言に責任持つようにしないと もういい大人なんだから」

 そう言いながら生地の入ったボウルを混ぜていた。あたりからパチパチガヤガヤと賑やかな音が店中、そして私の心の中に響いていた。

 明日から、本格的な捜査が始まるのだ 元気をつけなきゃと先輩と二人で恋バナやドラマの話で花を咲かせていた。


 8月27日

 いつものように朝9時に出勤した。事件の一刻も早い解決に向けて今日もミーティングが行われていた。

「では、本日の捜査会議を始める。まずは、昨日被害者の学校に行った  そうだな、焉能瀬。 報告を」

 初めての捜査官っぽいことに少しワクワクしていた。

「は はい!それでは、被害者は同じ学校に通う黒飛と共にY町に行っていました。町に着いたのは11時30分ごろで、その後に喫茶店に12時30分までいたようです。その後、通り魔事件に巻き込まれたようです。」

「どうやら部活は11時に終わっていたらしく、そのあとのようです。職員室の鍵の貸し出し表で裏は取れてます。」

 先輩が私の情報に付け足しをする。

「なるほど、事件の大筋はわかった。となると、犯人は通り魔とは考えにくいな。彼女らが最後に行った喫茶店にて聞き込みをしてくるのが妥当だな。

石井。昨日の報告を」

一気に空気がピリッとした。

「はい、先日は科捜研に行って来ました。どうやら、暑さで腐敗が進んでいたものの人間では引きちぎられるなんてことはできないとの見解。前回同様、奴の可能性があると思われます。」

え、奴って何?前にもってことはもしかして先輩も知っている?そういや、複雑な顔して言ってたっけ?

「なるほど、やはり奴の生き残りもしくは同種族がここにいるということだな。どうした?ああ、あのこと話していないのか。なら、焉能瀬確証を得るために図書館にて情報を集めてこい。石井、今回は一緒に行ってやれ。榊原 お前は今回は俺と一緒に来い。いざとなった時求められるのはチームワークだ。今日も被害者の身に何が起きたのかをはっきりとさせるため責任をもって捜査に当たること 解散!」

え   あ  石井先輩と一緒に 気まずすぎるわ

 8月も終わりに近づきそろそろ秋めいてきてもいい頃なのにうだるような暑さが今日も続いている。ただでさえ気が滅入るというのに、どうしてソリの合わない人と図書館なんかに

「あの、石井先輩 なんで図書館なんですか?その新聞社とかY町の商店街に聞きこみならわかるんですが。」

さすがに沈黙が痛い。というか、なんで先輩汗ひとつかいてないの?

「簡単なことだ。どんな奴が今回の犯人かを探しに行くんだ。捜査班でもっともワクワクするんじゃないのか?まあ初めての捜査だから正義感と興奮で胸がいっぱいになるのもわかる。第一俺もそうだった。」

意外だ 石井先輩なんてお給料がいいからとか国家公務員って名乗れればモテるとかそんなことだろうと思ってたのに。

「そうなんですか?そういえば先輩が警察官になった理由 ちょっと気になります。その どうして警察官になろうと思ったんですか?」

首筋に滴る汗をポケットから取り出したハンカチで拭きながら石井は答え始めた。

「それじゃあ、退屈がてら話をしようか。何、そう身を縮こませることはない。ただの昔話の一つに過ぎないんだから。

 これは、俺が高校生の時の話だ。あの時は、まだまだやんちゃなクソガキだった。俺は、他にも圭介って奴と悠人って奴とよくつるんでたんだ。ある夏休みにな圭介が夜に動く腕を見たって言ったんだ。その時俺達は、圭介がびびらせに来てるって思ったんだ。そこでな俺たちは、圭介がその腕を見たっていうところに行って本当にいるのか確かめてみようとしたんだ。親たちには、いつもの友達とキャンプをしてくるって行って家を出たんだ。まあ親も高校生だしいいんじゃないかって許したんじゃないのか?まあ、とにかくその場所にテントを貼って動く腕を待っていたんだ。昼間には例の腕は現れなかった。仕方ないから、日が出てるうちは川で釣りをしたり、カードゲームをしたりして時間を潰したんだ。」

こんなに喋る先輩を私は初めて見た。というよりこんなに喋れたんだって思った。

「へえ。先輩にも友達いたんですね。驚きです。」

図書館までつくにはまだ時間がある。私はこのまま先輩の話を聞きながら向かうことにした。

「お前ちょっと失礼だかんな、大体お前の中の俺のイメージなんなんだよ」

「えっとですね、まず無口で読書が趣味で意外にうさぎとか飼っててベタ惚れしてそうなイメージです。」

「嘘だろ…。お前、俺のことそんな風に見てたのか。まあいい話の続きだ。

夕暮れ時になって焚き火をし始めたんだ。釣った魚を串焼きにして食べたりマシュマロを焼いたりして楽しくしていたんだ。そんで、動く腕はついに現れた。

木陰で黒いもやがかかった手首を見たんだ。俺たちが見た途端その腕は逃げて行くように動き始めたんだ。」

「え  そんな。まさかあ。あるわけないじゃないですか。ね ねえ?」

「どうせそんなこと言うと思ったよ。お前は、高先失踪事件って知ってるか?」

「あ あの都市伝説の高校生が動く腕を見て失踪したって言う事件ですよね。うちの学校でも流行ったのを覚えてます。でも、そんなの作り話じゃないですか」

「お前はなんで、そう言う話が作り話だって考えるのか。それは、実際にそんなことにあったことのない奴が話しているからだ」

「え、じゃああの事件って本当にあった事件。先輩はその被害者の一人で」

「まあ落ち着け、その後俺たちは腕をおっかけたんだ。そしたら圭介の方に腕が飛び上がってきたんだ。」



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