第5話 幼馴染、友達

「おい、どうしたんだー。いくぞ」

「あ、おうすまん。」


さっきから友達に置いてけぼりにされているような幼馴染が気になって仕方がない。


「ゆ !う !」


大きな声に反応したのか、それとも幼馴染の名前が久しぶりに聞こえたからか。花恋はこちらをちらりと見た。


一瞬合った目はいまにも泣きそうなくらい揺らいでいて、しかしすぐにそれはそらされてしまった。そんな反応されると余計に心配になってしまうだろうが。けれど今1つわかるのは、今の俺には何もしようがないということだ。


とりあえず...店を出るか。


「さっきさー、うちの学校の女子いたよな。」


俺らは駅までの道を歩いていく。

爽斗に聞いてみた。


「いたな。俺1人知ってるぞ。佐久間...綾乃だった気がする。」


佐久間綾乃というと、自分のことを名前呼びしていたのですぐに誰か分かった。緩やかな茶髪をハーフアップにしていて見た目がどこかふわふわとした印象を受けた。


カフェの本みてたし流行り物とか大好きそうだな。外見以外の情報は分からないがゆるふわ系女子と俺はみた。


「どんな奴だったんだ?」

「1年の...去年同じクラスだったけど普通の奴だったよ?優しそうだけどクラスカーストは上位。彼氏は2人ほど。1人はサッカー部の先輩、もう1人はクラスメイト。今は誰とも付き合ってないと思う。」

「そう...か」


おま、彼氏関係まで把握してんの詳しくね?普通...なのか。


「なんで?気になる?」

「いや、そうじゃないんだ。教えてくれてせんきゅ」

「他のふたりのことは、お前知ってんの?」

「少しは知ってる。真浜さんと花恋とは去年同じクラスだった。」


駅のホームについた。電車が来るまでの待ち時間はまだある。

喉が渇いたので俺は缶コーヒー、爽斗はいちごみるくを自販機で買った。彼は相当な甘党であるらしい。ベンチに腰掛け、少しずつ話し始めた。


2人のうち、ショートカットの女子が真浜なぎさ、だ。


170cmを越えているらしい高身長。すらっとした腕、長く細いが柔らかさをもった綺麗な脚。ショートカットで目は切れ長。クールビューティというか、中性的というか。そんな外見的特徴の綺麗な女子だ。


また、去年俺が見た感じでは人に意地悪をするようなことはなく、責任感がとても強く、小さなことでも気づけ、彼女は助けを求めている人にちゃんと手を差し伸べられるイケメンな性格だと思っている。


そして、俺の幼馴染、上山花恋。


花恋は肩の下までくらいのサラサラした黒髪をいつもなびかせていて、一言で言うなら、清楚系女子と言ったところだろう。声は鈴が鳴っているかのようなような綺麗な声。肌、身体、全てが雪のように白く儚いという印象を受ける。比護欲を抱かせるような容姿だ。外見だけ見ると、誰から見てもかなりの美少女だ。


しかし彼女の性格は昔から少々難ありだった。


いつもおどおどしていて引っ込み思案、声が小さい、人との会話についていけない、自分の意見が言えない、小学校の頃から彼女は独りでいることが多かった。というか、1人でいざるを得ないというか...。


普通ならただの大人しいカースト低位というだけで済むのだが、彼女の美しさがそうはさせてくれなかったのである。


予想出来たと思うが、彼女は異性からよく優しくされたり、話しかけられたりしていた。もっとも本人は超困っているのが俺には見え見えだったが。


そして周りの陽キャたちはそれを許さなかった。まぁ、省略していえば、小中と彼女はいじめられていた。


不登校気味になった花恋にプリントを届けていたりした俺は自然とよく話すようになった。懐かれているのか今でもたまにメッセージのやり取りはする仲だ。


俺と仲良くすることで他の女子たちに「男をたぶらかしてる」と言われるかもと自意識過剰に心配したこともあったが俺は特別目立つイケメンなんかではないのでそんなことは一切なかった。別に悲しくはない。むしろ安心できる存在になれて素直に嬉しかった。


人に「上山さんと付き合えよ持ったいねえ」と言われることはあるが、どうも妹のように見てしまうようで恋愛感情を抱いたことはない。


高校生になってからいじめは無くなり、俺は彼女の笑顔を久しぶりに見た。


「その真浜さんと上山さんは、1年の時仲が良かったん?」

「...あっ、そうそう。すっごく楽しそうだったんだ。多分真浜さんは花恋にとって初めて出来た同性の友達。」

「ほおぅ。う?ちょっと疑問点が。」

「?」


疑問点?ここまでで何かあったか?


「真浜さんって、責任感が強くてかっこよくて、多分クラスの権力者ランク的には上だったんじゃない?」

「そうだが。」


? 爽斗は心底不思議そうな顔をしながら言った。


「いや、上山さんみたいな静かな子と仲良いんだな、って。普通もっとカースト上の人とつるみそうなのに。あっごめん、上山さんが低いって言ってるわけじゃなくて。」


言ってしまってから花恋に悪いと思ったのか俯いた。まあ、分からんでもない。


「いや別にあいつも自覚はしてるとは思うし大丈夫だ。そうか...どうしてだ。1年も同じクラスなのにそれは気づかなかった。」


女子は同じようなメンバーでグループを作る生き物だ。ということは大昔から言われている。


それを踏まえると爽斗の言っていることは誰しも思い浮かぶ疑問だろう。カーストだけで言えばあの2人は真逆だしな。


どうして、真浜さんは花恋と一緒にいるのか。なるほど。どうしてだ。


わからん。


俺はいちいちグループを作るのとか気にしたことねぇからな。そこに気が付かなかったのは盲点。


真浜さんと花恋はどうたったか...。去年去年。


「基本は、一緒にいた、と思う。真浜さんは他の人ともよく話してたな。休み時間に呼ばれたりもしてたし。」


花恋と2人で話している時に誰かが乱入してきても、真浜さんはちゃんと花恋を話に入れようとしてくれていた。そう思うと色々と良い奴なんだな真浜さん。


「ってことは、去年まで平和だったはずのそこに今年はキラキラ系佐久間さんが介入してきたと。」

「そういうことだ。」


佐久間さんが花恋を若干除け者にしてる感を感じた。あの後真浜さんが上手く入れてくれるといいんだけどな...。現実の女子怖ぇ。


「ま、とりあえず本人に聞いてみるのが1番早いんじゃないの?」

「ここで言っててもしょうがないしな。そうするせんきゅ。」


ちょうど示し合わせたように、ガタンガタンと音を立てて電車が到着した。


俺は飲み終えたコーヒーをゴミ箱に捨て、爽斗はペットボトルをかばんにしまい、乗りこんだ。とりあえず家に帰ったらメッセージ送ってみるか。いきなり本題に切り込むのはおかしいだろうし、最近どうだくらいに軽く。


コーヒーのなぜか酷く苦く感じた最後の一口は、まだ後味として残っていた。

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百合男子はくっつけたい! 柚子杏 @kakuy_zk

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