人間ハンティング:おひとり100万

ちびまるフォイ

命あってのものだねダネ

「はっ……はっ……はっ……」


猟銃を抱えながら市内のどこかにいる"シカ"を探す。

どこからか電子音の警報が聞こえた。


ガサガサと植木の中から男が飛び出して襲いかかってきた。


「ちくしょおお! 殺されるくらいなら殺してやる!!」


男は俺を押し倒して猟銃を奪い取ろうとした。

だが支給されている猟銃に手をかけた瞬間、男の体は破裂した。


『シカがすべて死亡しました。人間狩猟ゲーム終了となります』


「あーーあ、1匹も狩れなかった」


猟銃をスタッフに返却してスコアボードの前に行く。

一緒に参加していた友達も同じ顔をしていた。


「やっぱ難しいな人間狩りって」

「簡単に金がもらえるわけなかったな」


お互いのスコアは狩猟数ゼロ。報酬金はゼロとなる。

もし、ひとりでも狩ることができたら1人につき100万。


一攫千金を狙っていろんな人が挑戦するけれど、

アマチュアに混じってガチの人も参加するのでたいてい取られてしまう。


「何がちがうんだろうな」


「……同情心があるかないか、とか?」


「死刑囚に同情するかよ」


人間狩猟ゲームで逃げ回る役"シカ"を務めるのは死刑囚。

逃げ切れば参加人数に応じただけの報酬がもらえる。1人につき100万。


10人に追われて逃げ切れば1000万。シカ側のほうが報酬が多い。

撃ち殺す側のハンターは1人倒して100万なのに。


「なあ、今すごいこと思いついた」

「なに?」


「今度は俺がシカに志願するよ。で、ハンターのお前がサポートしてくれ」


「そんなことできるのか?」


「大丈夫だって。シカ側はゲーム参加前になんでも1つだけ持ち込みが許されるんだ。

 そのときにスマホとか、通信機器を持ち込むんだ。それでお前がハンターの動きを教えてくれ」


「たしかにハンター側は他のハンターの位置情報はわかるけど……」


「な? いい話だろ? シカ側のほうがハンターよりも報酬はずっといい。

 まして、死刑囚ではなく一般参加だと報酬は倍になるんだ。

 もしちゃんと逃げられたら報酬は山分けしようぜ」


「わかった。やってみよう」


第二ゲームが始まると、封鎖された市内にシカが先に入った。

遅れてハンター側が入るとすぐに連絡がきた。


『3丁目のところにいるから来てくれ』

「わかった」


友達と合流するとハンターの位置情報を共有した。


「結構ちらばっているな。やっぱりお互いに報酬の取り合いは避けたいんだろうな」


「というか、なんでこんな植え込みに隠れる必要があるんだよ。

 建物の中に入ったほうが安全だろ?」


「さっき試したんだけどダメだった。シカは家に入れないんだ」


「そうなんだ。まあでも、こうして静かに待ってハンターが来たら避難する。

 それを繰り返して1時間逃げ切れば勝ちだろ。簡単だな」


そう言った矢先。潜んでいた友達のジャケットから警報が鳴った。


「わ!? な、なんだ!?」


開催場所は閑静な住宅街の深夜。防犯ブザーのようにバカでかい音はどこまでも響く。


「どう止めるんだよくそっ!」


「おいハンター来てるぞ!」

「どうすりゃいいんだよっ」


パニックになる友達はシカ側を区別するジャケットをどうにか脱ごうともがいた。

見渡しのいい道路の中央に出たとき、街灯に照らされた友達の頭が吹っ飛んだ。



『シカがすべて死亡しました。人間狩猟ゲーム終了となります』



ゲームが終了すると、支給されていた猟銃を返却する。

戻ってこなかったのは友達だけだった。


今日はもう帰ろうとしたとき、肩に手を置かれた。


「待ってください。あなた、シカと協力しましたね?」


「なっ……なんのことですか?」


「人間狩猟ゲームの禁止事項にシカとの協力は禁止されています。罰則は……」


「ば、罰則……?」


「次はあなたがシカになります」


シカ側を区別する蛍光色のジャケットを手渡された。

まるで死刑台に送られるかのような心持ち。


「参加者は10人。シカはあなた1人です。

 今回は罰則なので生き残っても人数分の報酬は与えられません」


「きょ、拒否します! 謝るから! お金なら払うから許してください!」


「ここではお金よりも人の命のほうが大事なんですよ」


「で、でも……」


「さあ、ひとつだけ持ち込みたいものを決めてください。

 制限時間内に決めなければ持ち込みなしとします」


「それじゃこれを……」

「そんなのでいいんですか?」


俺は支給品をひとつ受け取る。


「あと猟銃を見せてもらっても?」


「かまいませんが、猟銃を隠して持ち込むことはできませんよ。

 シカ側は猟銃を手に取るとジャケットが反応して体が爆裂しますからね」


「は、はい」


「トイレも終わりましたらゲーム開始です。

 あなたの持ち込み物はハンター側にも共有されます。ご承知おきください」


「筒抜けってことですね……」


「ゲーム開始です」


ゲートが開かれて会場となった市内に放たれる。

同じ場所に10秒以上とどまり続けるとジャケットから警報が鳴る。

移動した所で一定時間は鳴り続けるため、隠れてしのぐことはできない。


あてもなく夜の街を歩き続けた。


このまま誰にも見つからないように祈り続けて――。


「動くな」


背中から鋭い声が聞こえた。


「そのまま手を地面につけろ。動けば撃つ。言ったことと別の行動を取っても撃つ。いいな」


ハンターの冷ややかな声が聞こえる。

抵抗しようがしまいが結果は同じ。


「頭を狙いやすいようにこっちへ向けろ。そうそう。

 思ったより従順なんだな。お前の持ち込み品は銀玉だったろう?」


「あ、ああ……」


「パチンコみたいなので攻撃してくるかと思って警戒したがそうでもないみたいだな。

 ははは。まあいい。100万円は俺のものだ。死ぬ前になにか言いたいことは?」


「ひ、ひとつだけ……」


「いいぜ、言ってみな」




「俺の持ち込んだ玉は支給銃のどれかに見えないよう突っ込んだ。

 どれかの銃は引き金を引けば暴発して頭が吹っ飛ぶぞ」



そのことを知ったハンターたちは、それから1時間誰も引き金を引けなかった。

逃げおおせたシカは山に帰ってもう二度と人里に近づかなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人間ハンティング:おひとり100万 ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ