月光
@yoll
月光
私が体を横たえたベッドの淵に、分厚い雲の隙間から差し込む一条の月光が、まるで蜘蛛の糸のように落ちてきた。
私はゆっくりと体を起こすとそれに手を伸ばす。
掴んだ月光は私の掌に遮られ、そこでぷつりと切れた。
その柔らかな銀色の光は、陽の光のように暖かな温度を感じることはなかった。ただ静かに、その仄かで優しい輝きを持って静かに私の掌を照らしていた。
私はぼんやりとその掌に落ちた月光を眺めている。
銀色の光に照らされた私の掌が、呼吸のたびにゆらり、ゆらりと揺れ、不意に水槽に浮かぶアルビノ・エンゼルフィッシュを連想させた。時折月が雲に隠れるのか、そのか細い光芒が途切れては幻想の熱帯魚は姿を消し、私の鼓動は早まり、やや暫くすると再びシルエットが浮かび上がり、私は何故か安堵する。
それを何度か繰り返していると月はまた厚い雲に覆われてしまったのか、何時しか部屋には静けさだけが残された。
私は小さく溜息を吐くと再びベッドに体を横たえた。目の前に自分の手を掲げてみるが、何の変哲もないただの見慣れた五本の指が並んでいるだけだ。
仕方なく目を閉じるとじわじわと訪れる心地よい眠気には抗わず、柔らかな毛布の中に頭まで潜り込む。瞼の裏には幻想のエンゼルフィッシュがぼんやりと浮かび上がり、やがてゆっくりとその姿を散らしていった。どうやら眠りに就くのも時間の問題だろう。
まどろみの中、纏まらない思考が拡散する。
陽光で全てを平等に照らし、恵みを与える太陽よりも、世界の裏側でその光を浴び、静かに輝く月が私は好きだ。
願わくば、そんなあなたにまた、逢えますように。
月光 @yoll
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