第4話 月が綺麗ですね、僕はおじさんですね

 すっかり夏目漱石にはまってしまった。

 そもそも漱石というのはペンネームで、本名は夏目金之助。

 漱石というのは中国の歴史書「晋書」にある「石に漱ぎ流れに枕す」と言う言葉からとったそうだ。

 晋書、そう晋書である!


 晋書と言えば三国志の諸葛孔明のライバル、司馬仲達の一族が建国した晋国の歴史書だ。

 漱石とは、三国志好きの自分にヒットする名前だったのだ。

 何という運命だろうか!?


 ちなみに晋書に書かれている最も古い人物が司馬仲達で、最も新しい人物が赫連勃勃かくれんぼつぼつだ。

 司馬仲達を知っているのは三国志好きとしては当たり前だが、赫連勃勃はかくれんぼみたいな名前で面白くて記憶に残っている。本当にどうでもいい話だが。


 夏目漱石を調べて一つわかったことがある。

 夏目漱石は英語教師をしていた時、「I love you」を「月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」と生徒に言ったそうだ。言ったそうだ、というのは実際には夏目漱石が言ったという確かな証拠がないらしい。

 それでもこの訳し方は中二病的な意味で使ってみたくなる。さっそく明日使ってみよう。


「月が奇麗ですね」

「・・・月、出てますか?」

「ん・・・うーん、出てないかな」

 使ってみた。

 先日職場で会った知らない女の子に。

 通じなかった・・・。

「行ってもいいですか」

「あ、いや、今のは夏目漱石がI love youの訳として使った言葉なんだけど」

「そうですか」

 ・・・通じない。

 そもそもいきなりよく知らない相手からI love youを言われても困るわな。

「あ、わ、私あまり年上過ぎるのは困ります」

 通じた。

「いくつだっけ?」

「23です」

 7つしか違わないじゃん。

「俺30だから、あまり違わないと思う」

「え、えっと・・・30はちょっと・・・」

 ちょっとなんでしょう・・・。

「私、いきますので」

 彼女は風と共に去ってしまった。

 今日も風が吹いているな。


「おじさんだからだろ」

 裕二郎の言葉だ。

 彼は俺の中学からの友人。彼の父親の名前は裕一だが、彼は子供に裕三郎とか名付けるんだろうか。

 今日の出来事を彼に話してみたのだが、彼の答えがそれだった。

 俺の一か月後が誕生日の彼は只今ギリギリ二十代。だから平気でそんなことを言う。一か月後にはお前もオジサンだ!


 それから裕二郎とはテレビゲームとか懐かしのテレビアニメについて話した。

 いつも通りの会話だ。

 今のテレビアニメじゃなくて、懐かしのテレビアニメについて話すのはおじさんなんだろうか。

 だったら10年くらい前から立派なおじさんだ。

 彼とはひたすら懐かしのテレビアニメの話をしている。


 おじさんの定義って何?

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30才はおじさんですか? 茜空 @akanezora06

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