第10話 きおくのはじまり

「さぁ、いよいよ物語の準備の始めていくのですよ!」

「現地に行って物語本番をシミュレーションしながら舞台を整えるのです!」


「改めてよろしくね! 博士、助手。 と、その前に……"わかめ"……にしましょうか」


「ええ? ワカメがどうかしたのですか、かばん?」


「私の名前をこれからは"かばん"じゃなくて"わかめ"に変えようかと思うんだ」


「突然どうしたのですか? かば……じゃなくて、わかめ……さん?」


「"かばん"はサーバルちゃんが付けてくれた名前だもの。

 今更だけど私に名乗る資格は無いって気付いたんだ。

 だから適当に、髪の色がワカメみたいだから"わかめ"がこれから私の名前。 どうかな?」


「かば……いえ、わかめがそう望むのなら……

 うう、急に改名されても間違えそうになるのですよ……」


「物語の最中に呼び間違えたらトラブルの元だね。

 物語が終わるまでは呼び方は元のままでいきましょう。

 『皆に"かばん"と呼ばれる謎の人物、なんとその正体はワカメのフレンズ"わかめ"さん!』

 うん。 こんな感じの設定にしましょうか!」


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物語の序盤に使う舞台をわかめと博士、助手は空から見て回る。


「スケッチブックに描く絵の場所はあの辺りが良さそうだね。

 あの子が保存される前、パークが営業してた時代に描いた絵という設定だから

 施設は稼働当時の様子で描かないといけないね。」


「崖の方は……駄目ですね。 飛び越えるのに丁度良さそうな幅の崖が見つからないのですよ」

「跨げそうな幅のひび割れくらいしか見当たらないのです」


「地形を変えるほどの量のセルリウムを扱う力は私にはもう無いからなぁ……

 仕方が無いから適当なひび割れを主人公に飛び越えさせましょう。

 こういうのは雰囲気が大事だから」


「主人公に崖を飛び越せさせるイベントがそんなに重要なのですか?」


「ヒトの認識や感情が、一緒に居るサーバルのセルリウムに蓄積されていくんだから重要だよ。

 主人公には舞台設定をしっかり認識してもらって、冒険の中で精神的に成長してもらうんだ。

 この崖飛び越えイベントは成長への第一歩だし、後で回収するための大事な複線だからね」


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「かばんが造ったフレンズには動物らしさが今一つの固体が多いのですよ。

 元の動物の習性や特徴が反映されていなければフレンズとは言い難いのです」


「出来れば調整したいところなんだけど、以前よりフレンズを造る能力が衰えてきているから、

 既に作ったフレンズに下手に手を加えるのはなるべく避けたいんだよね。

 仕方が無いから台詞で『私はこんな特徴が有ります』とか

 『あの子はこんな習性を持っている』とか言わせてフォローするよ」


「そんないい加減な…… 他にも外見的な面で怪しい所があるフレンズが居るのです。

 カルガモとして作ったフレンズ、この配色はマガモではないのですか?

 ジャイアントパンダの尻尾は黒ではなく白では? オオアルマジロは丸まらないのですよ?」


「ああもう、細かいなぁ、だから今更修正するのは難しいんだってば!」


「助手……かばんがストレスを溜めると、係わるフレンズにも影響してギスギス感が増すのです。

 時間も無いことですし、物語の大筋に影響しない所は目を瞑って妥協するしかないのですよ」


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「モノレールに追い込んで迷わず乗ってもらう為に登場させるセルリアンですが、

 あれほど大型だと質量も大きくて、いくら一撃で倒せると言っても危険ではないですか?」

「モノレールの線路が壊れるほどの重さですし、モノレール自体が壊されたら大変なのです」


「それについては良い案があるよ。 ビーストを放って撃退してもらうんだ。

 ビーストの攻撃優先順位は"セルリアン">"誘導用に設定した火">"フレンズ"にしてあるから

 ビーストがモノレールを追うセルリアンを撃退したら"ビーストモード"を解除すれば主人公達は安全だよ」


「なるほど、それならビーストのお披露目にもなりますし上手くいきそうなのです」

「ところで"誘導用に設定した火"というのはどういう意図なのでしょうか?」


「例えばビーストに襲われてるフレンズが居る時に火を点けた紙飛行機を飛ばすと、

 ビーストは火の方を優先して追いかけるからフレンズを守れたりするんだ。

 この方法は……あれ? 誰に教えてもらったんだっけ?

 サーバルちゃん絡みの事だった気がするのに思い出せないなんて……

 とにかく、この設定は後の場面で使う予定だよ」


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「オオセンザンコウとオオアルマジロの挙動が不安定気味なのです」

「強引で暴力傾向が有って、自立行動中に何をしでかすか分かったものではないのです」


「自立行動出来るフレンズを急造しようとして無理に感情を詰め込んだのが良くなかったみたいだね」


「放置しておくのは不安なので、その強引さを生かした役目と設定を与えてみてどうですか?」


「なるほど、では主人公をイエイヌの所まで運ぶ役目をしてもらいましょうか。

 "ヒトを探すためにイエイヌに雇われた探偵コンビ"という事で設定しましょう。

 イエイヌの家は必須イベントが有る物語の重要拠点だから、

 強引にでも自立行動で連れて行ってもらえるのは助かるよ」


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「全ての調整済ラッキービーストに"青い服のヒトの子"の情報を登録完了なのです」


「お疲れさま。 あと問題になるのは未処理のラッキービースト個体が残っていた場合だね。

 もしも物語の進行中に警告モードのサイレンを鳴らし始めたら冒険が台無しだよ。

 博士と助手には工具を持ち歩いてもらって、見つけ次第処理をお願いするね」


「乱暴な手段の気もしますが、物語の為にはそうも言っていられないですね」



「案内役のご当地仕様ラッキービーストの方は用意できたのはこれだけなんだね。

 出来れば全部のちほー別に登場させたかったけれど……」


「かばんが初期状態の青いボディを嫌うので、ペイントし直す手間等で時間がかかりすぎたのですよ」


「ごめん、『あれ』の姿はどうにもトラウマになっているから……

 物語後半は主人公にブレスレット状にした本体を渡して案内させる事にしましょう。

 その方が使い勝手も良さそうだしね」


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「さて、物語の中盤、ついに主人公一行がこの研究所にやって来る。

 ここはクリアしなければならない課題がいくつも有る重要な場面だよ

 久々に会えるサーバルに心奪われてしまいそうだけれど我慢しないとね」


わかめと向かい合った博士と助手はいつもに増して真剣な表情で打ち合わせに臨む。


「まずは第一の課題。『主人公一行に情報を与える』

「サンドスター、セルリウム、ビースト、セルリアンに食べられたフレンズは記憶を失う設定

 これらは主人公に舞台設定を認識してもらうのに重要だよ」


「セルリウムについては"セルリアンの素"という偽りの設定を認識してもらわなければですね」

「別れ際に次の目的地、ライブステージに行ってマーゲイに会えと伝えるのも重要なのです」



「次に第二の課題、『主人公にこの冒険の終着点、最終決戦の場所を意識してもらう』

 主人公の見せ場として、ぜひとも自力で海底火山を閃いてもらいたい所だね。

 まずは海岸付近にセルリアン目撃情報の印を付けた地図を見てもらう。宿泊中に夢に見せかけてヒントを与える。 海底火山について書かれた本を目立つ所に置いておく」


「そこまでしても海底火山を思いつけない残念な主人公だったらどうするのですか?」


「その時は私が直接主人公を操って海底火山の台詞を吐かせたあと、自分で閃いたように記憶を改ざんするよ」


「その後は我々が主人公をセルリウム貯蔵庫の現地まで連れていって、

 主人公に最終決戦予定地を確認させて、ついでに船型セルリアンの御披露目ですね」

「あらかじめ海にサンドスターを撒いておくのも忘れないようにしなくてはですね」


「博士達が出ている間は私がサーバルとカラカルにセルリアンをけしかけて時間を稼いでおくよ。

 相手は想いで強さがブーストされそうなジャパリバス型セルリアンが良いかな。

 物語後半の戦闘シーンの為にも強さを見極めておくのも重要になるね」



「そして第三の課題、 『主人公に私達の絵を描いてもらう』

 後でその絵にセルリウムを接触させて、フレンズ型のセルリアンが生成されるのを

 しっかり確認しておかないとね」


「生成されたフレンズ型セルリアンを適当なフレンズと戦わせて、

 問題なく倒せる程度の強さになっているかも確認しなければならないですね」



「そして残るは第四の課題ですね!」

「ついにアレの出番なのです。 最重要課題なのです!」


「あれ……? ええと、まだ他に残っていた課題……有ったかな?」


「何を言っているのですか! 『みんなで食卓を囲む為の料理を用意する』ですよ!」

「カレーですよ! カレー! かばん! 香辛料の生成は出来ているのですよね!?」


目を輝かせた博士と助手がわかめににじり寄る。


「物語の本番で万が一にも失敗があってはいけないのです!

 リハーサルが必要なのですよ! じゅるり」

「アレを! カレー用の香辛料を出すのです!

 これから料理して試食タイムにするのです! じゅるり」


「あ、ああ、 そうだった…… そ、それがね、何度か挑戦してはみたんだけど、

 香辛料って味とか香りとかすごく繊細でセルリウムから造り出すにはイメージが難しくて……

 とてもカレーと言えるような代物には出来なくて……

 その、悪いんだけど……諦めて貰えないかな?」


「そ、そんな……造られてから毎日欠かす事無く夢に描き続けてきたカレーが、

 食べられない……!?」

「我々は、どんなに辛い日も、苦しい時でも、

 カレーを食べられるこの日だけを心の支えにして……うう」


博士と助手は床に突っ伏して止めどなく涙をあふれさせた。


「う、うう、うわああ うわああああああぁぁぁぁん」

「うわああああああぁぁぁぁん うわあああああぁぁ」



「そ、それほどまでに期待していたなんて…… なんか、ほんとにごめん……

 そうだ、唐辛子っぽい物ならなんとか造れたから、代わりに辛い鍋料理でも良いかな?」


「うう…… もう……この際それで我慢するのですよ……」

「ぐすっ カレー…… カレー……!」


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「かけっこをしながら台詞の掛け合いをして物語を進めるというのは無理があるのですよ」

「台詞を伝える前に距離が開いて勝負がついてしまうのです」


「こうなったら思い切ってG・ロードランナーを走行メインから飛行メインへ改造して

 空飛ぶ伝言役をしてもらいましょう! 今更元の動物の習性気にしてもしょうがないよね」


「強引ですが……それならある程度は解決できそうのです。

 しかし、最後のセルリアンが登場するシーンでは

 他のメンバーもその場所まで高速移動でもしなければ集合が間に合わないのですよ」


「なら高速移動させましょう! 主人公もフレンズも本来の実力は高いからリミット解除すれば可能だよ。 この際サーバルが見ていない所で何が起こっても関係ないよ。

 これはサーバルの為の物語なんだし、主人公の記憶はある程度修正できるから」


「なぜ二対三のリレー勝負になるのか? という展開などもそうですが、

 だんだん物語に雑さというか突っ込み所が目立ってきたのです……」


「まぁ途中に多少雑な展開が有っても、お別れの時に主人公がかけっこ組のみんなの絵を描いて渡して仲良くなるシーンさえ演出できれば、ここはそれで良しとしましょう」


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「ペパプの新曲は決まったかな?」


「ばっちりなのです! ホテルのジュークボックスから良さそうな曲を見繕ってきたのです」


「よし、それじゃこれから一夜漬けでペパプ達に歌と踊りを設定してと、

 ああ、でもそうするとまた自主的に動けなくなっちゃうからペパプもトラクター輸送組に入れないと……」


「自主的に確実に最終決戦に駆けつけてくれそうなフレンズはほぼ居ないですよ。

 例外はイエイヌですが、最終パートの役目の為に最終決戦には不参加ですし、

 結局のところトラクターには全員載せるしかなさそうです」


「その件は了解。 あと芝居用の本を描き上げて、くす玉型セルリアンのセッティングをしてと

 ……本当に時間がいくらあっても足りないね……」


「ところで、このペパプを応援する観客達、観客席が満員に程遠いのはまぁ仕方がないとして

 よく見ると同じ種のフレンズが複数グループ居るのですよ……」


「フレンズの種類がネタ切れだし、賑やかしだけの役にそこまで気を遣っていられないよ。

 観客に注目されて荒がばれる前に主人公を探偵コンビに拉致させるのはどうかな?

 ここまで来たら物語の重要拠点のイエイヌの家までもうすぐだから強引にでも進めましょう。」


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「新しく造ったフレンズ、カンザシフウチョウとカタカケフウチョウだよ。

 この子達には主人公のサポート役として一定距離を保ちながら追尾してもらって

 もしも重要アイテムのスケッチブックを無くした場合は回収して届けたり

 要所で物語のテーマを主人公に仄めかしたりする役割を担って貰う」


わかめの紹介を受けた漆黒の鳥のフレンズ達は妖しく微笑むと語り始めない。


「                        」

「                        」


「この子達はなぜニヤニヤしながら口をパクパクさせているのですか?」


「台詞の設定がまだこれからなんだよ。 博士と助手はこの子達の台詞を考えておいてくれる?

 適当に"ヒトの業"っぽい事をテーマにして意味深そうでカッコ良さそうな感じの台詞を。

 別に本当に深い意味なんて無くても構わないから」


「もはや舞台装置以外の何者でもないのですね……」


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「それじゃイエイヌちゃん、念のために再確認するね。

 こっちの"パークが営業していた時代にヒトから貰った設定の手紙"の方は

 主人公を家に招いた後、お茶を飲んでもらっている時にさり気なく出して見せるんだよ。

 最終パートの為の伏線になるし、主人公に舞台設定の理解を深めてもらうのに必要だからね。

 こっちの"青い服のヒトの子が描かれた絵"の方は物語の最終パートでのお披露目用だから、

 鍵のかかる金庫から出さずにしまっておいてね」


「はい、大丈夫です! ばっちり把握しています!」


「それから主人公をビーストから守る戦闘シーン、派手に傷や汚れが付くわりに痛くは無いはずだけど、

 そこをイエイヌちゃんの演技で痛そうに苦戦して、ビーストの強敵感を演出してもらう。

 この難しい役をこなせそうなのはイエイヌちゃんだけなの! 頼りにしているからね!」


イエイヌは頼られた嬉しさ全開で尻尾をぱたぱた振って応える。


「お任せください! 頑張って演じ切って見せます!」


「それと、もしも主人公に『一緒に冒険に行こう』みたいなことを言われたらどうすれば良いか分かる?」


「ええっと、私はこの家で本当のご主人様の帰りを待ち続けている、という設定の役ですから、

 何としても主人公に『おうちへおかえり』と言ってもらってお別れする、

 で良いのですよね?」


「そうそう、役回りの理解もばっちりだね!

 さすがイエイヌちゃん! 熱演期待しているからね!」


「しかし……物語の進行上の都合とはいえ、この筋書きではイエイヌの役回りがかわいそうではないですか?」

「もう少しイエイヌに救いのある話になるように考え直した方が良いと思うのですが……」


「強敵感が強調されたビーストを一睨みで撃退!

 くぅーっ! サーバルの最高の見せ場になりそうだね!」


恍惚の表情で独り言をつぶやくわかめを見て説得は無理と判断した博士と助手は話し合う。


「まぁこの筋書きのままでも主人公がイエイヌに守ってくれた事への感謝を述べたり、

 傷ついたイエイヌを心配して家まで送って治療する判断をしてくれれば、

 それなりに良い話になるでしょう」

「そこは主人公、青い服のヒトの子の自由意思に期待するしかないですね」


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「以前から物語の重要拠点と言って引っ張ってきたイエイヌの家ですが、

 ここでのイベントを終えても特に物語が進展しないですし、

 次の目的地の巨大ホテルへの誘導も出来ていないのですが……」


「あれ、そうだっけ? ……ああ、当初の計画では入れるはずだったあのイベントとか

 あのフレンズの出番とかを時間の都合で没にしたせいで話が繋がらなくなっちゃったんだね……

 しょうがないから偶然通りかかった設定のリョコウバトに巨大ホテルへの案内をさせる事にしましょう」


「どんどん物語の雑さが増していく気がしますが、もう突っ込まないのですよ……」

「突っ込んだところで代替案でも無ければ雑なままでも進めるしかないのです」


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「主人公が巨大ホテルに着いてから、最終決戦の準備が出来るまで間が持ちそうにないのです。

 フレンズ達のトラクター輸送やら計画的なホテル崩壊の為の調整等で

 どう見積もっても半日以上は掛かりそうなのですよ」

 

「仕方がないから、主人公には適当に足場の悪い高い所にでも上らせて

 海に落ちるトラブルを演出、フウチョウコンビに適当に喋らせて場面を繋いで

 救出されて意識が戻るころには翌日になっていた、で準備の時間を稼ぎましょう」


「……もう突っ込まないのですよ……」

「……ええ、もう突っ込まないのです」


「そうだ! その場面でフウチョウコンビにヒトの業っぽい台詞を喋らせるのと同時に

 海底の貯蔵庫からセルリウムを噴火のようにどーんと噴き出させるのはどうかな?

 良い演出だと思わない?」


「ええと……かばんは"サリーとアンの課題"を知っていますか?

 確かにかばんから見ればヒトの想いに反応して動くセルリウムが貯蔵庫から噴き出す場面は、ヒトの業を連想させる演出に見えるかもしれませんが、それを知らない者から見れば自然現象である海底火山の噴火はヒトの業とは結びつかないのですよ」


「まぁ分かる人には分かる演出ってことで良いじゃない」


「いったい誰に向けられた演出なのでしょうか……」


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「伏線回収を忘れないようにしなくちゃね!

 最終決戦の間に、機会を見て主人公に越えないといけない崖の前まで進ませて。

 今度は躊躇無く跳び越えさせるんだよ」


「最終決戦はほぼ巨大ホテルの中で進行するのですよ。

 ホテルが崩壊する最中にひび割れくらいは出来るかもしれませんが、

 飛び越えるのに丁度良い幅の物が進行方向上に都合よく出来ないと思うのですが……」


「その時は適当な溝でもひび割れでも何でも良いよ。 こういうのは雰囲気が大事なんだから!

 跳び越えて今までの冒険での成長を見せる時だよ!」


「成長とはいったい……何なのでしょうか……」


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「いよいよクライマックスの場面だよ! 最終決戦から一時身を引いて私の船に乗った主人公。

 そこで描いた絵がセルリアンを生み出した事をフウチョウコンビに責めさせて、

 "ヒトの業"的な台詞で煽らせて、主人公にとってフレンズとは何か? と問いかけて、

 葛藤させた末に『大好きなんだあああああぁぁぁ』と叫ばせる!

 どう? 感動的なシーンになりそうでしょう?」


「きっと良いシーンになるのですよ! それまでのフレンズ達との思い出の積み重ねが活きてくるのです!」

「ヒトとフレンズとの種族を超えて冒険の中で育まれた友情、深めてきたお互いの理解、築き上げてきた信頼、優しさと思いやりに満ちた数々の思い出……

 そういった積み重ねの集大成のシーンになるに違いないのです!」


「そういう積み重ねが出来るように準備を頑張らなくちゃね。

 結局のところは主人公の素の人格や資質に掛かってくる気がするけれど、

 そこは青い服のヒトの子を信じて託しましょう!」


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「"ビースト"と"船型セルリアン" 強敵として登場させるのは良いのですが、

 最終決戦でどう対処するのですか?

 主人公達がどうにか出来る場面が思い浮かばないのですが」


「ビーストについては温めてきた感動のイベントを用意してあるんだ。

 まずは主人公にビーストを引き連れさせて、戦闘が続くホテルに戻らせる。

 主人公の活躍の場面にもしつつ、ビーストにフレンズ型セルリアンを倒させる。

 フレンズ型セルリアンが全滅した頃を見計らってビーストモードを解除する。 そうして

 『ビーストに奇跡が起こってフレンズ化した!』と演出するよ! 感動のシーンだよね!」


「ビーストモードは解除してからアムールトラの覚醒までしばらくタイムラグがあるのです。

 ホテルが崩壊するまでに覚醒が間に合わないかもしれないのですよ」


「そうなった時は仕方ない、惜しいけど感動シーンはカットして進めるしかないよ。

 アムールトラなら瓦礫の山に埋もれても傷一つ負わないほど頑丈だから心配はいらないよ。

 船型セルリアンの方は…… 退場させていつの間にか居なくなっていたで解決にしましょう」


「雑さが極まった感があるのですが、もう時間も残されて無いのです。

 他に良い案が思いつかなければ、このまま行くしかないのですよ……」


「まぁラストはペパプ達にライブでもさせてハッピーエンド感を演出して締めましょう!」


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わかめ、博士、助手は物語の始まりの舞台であるサンドスター延命保存施設の前に立つ。

三人は連日の物語の準備からの疲労でその身をふらつかせながらも決意に目を輝かせていた。


「時間いっぱい最後まで準備を重ねましたが、それでも万全にはほど遠いのです」

「用意できた物語も雑な突っこみ所だらけ。 しかし、やれる事は限界までやったのです」

「なんとか、どうにか、やっとここまで漕ぎ着けられたね。 残すは最後の仕上げだよ」



「サーバル・カラカルの位置OK! ロバ・カルガモ・各セルリアンの配置よし!」

「この看板は歴史を感じさせるように適当に砂で汚しておいてと、

 よっと、この扉の前に置けば目に止まることでしょう」

「サンドスター保存装置の保存解除実行! バイタル正常。

 "青い服のヒトの子"覚醒予想時刻まであと三十分なのです」


わかめは保存装置の中にスケッチブックを入れながら覚醒前の"青い服のヒトの子"に話しかける。


「この物語の成否は貴方に掛かっているんだからね! 頼んだよ 主人公!」



「さぁ、いよいよサーバルが"サーバルちゃん"に成るための冒険の記憶が始まる……!」

「これから始まる物語、たとえ喜劇になろうとも、悲劇になろうとも」

「茶番になろうとも、駄作になろうとも、」

「パークの危機を乗り越えて、物語の最後までやり遂げてみせる! 全ては」

「「「サーバルちゃんの未来のために!!」」」」


決意表明を済ませた裏方達は主人公に舞台を譲る為に静かに舞台裏へ身を潜めていった。


物語の始まりを祝福するかのような穏やかな良い天気の舞台を爽やかな風が吹き抜けていった。



まもなく登場する主人公の為にわざとらしく置かれた看板にはこう書かれていた。



    「ようこそ ジャパリパークへ」


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