彼氏にタピオカしか愛せないと言われたら

snowdrop

QQ

「タピオカが好きだと叫びたい~」


 出題者から元気よく、タイトルコールが発表される。

 参加するクイケンメンバーの三人は、互いの健闘を祈って拍手をしあった。


「真珠のような大粒のタピオカが入ったタピオカミルクティーは、インスタ映えにもぴったりとして、またモチモチ食感もあって、店の前には行列ができるほど人気なのは皆さんご存知かと思います。そこで今回、そんなタピオカに関するクイズをしたいと思います」


 三人の目の前の机には、それぞれ早押し機が用意されていた。


「ルールを説明します。問題を五問出題します。わかったところでボタンを押して解答してください。正解すれば一タピオカ。正解数が多かった人が優勝となり、もっともタピオカ愛に溢れている称号と名誉を贈りたいと思います」


「俺たち、そこまで愛してないのに、そんなんで決めたら、本当にタピオカ愛に溢れた人からクレームが来るぞ」

 部長の言葉に、うなずく会計。

「そもそも僕、まだ飲んだことないですからね。タピオカミルクティー」

「そうなの? 俺は飲んだことあるよ」


 書紀の言葉に、

「おいしいの? どんな味?」

 会計は尋ねる。


「店によって違うらしいんだけど、俺が飲んだのは、台湾生まれの台湾ティー専門店。すっきりしてて飲みやすかった。そこまで甘すぎるってことはなかったと思う」

「へえ、なるほどね。部長は飲んだことはあるんですか?」

 会計に問われた部長は、笑顔で首を横に振った。

「たとえ飲んだことがなくとも、誰であろうと、どんな問題だろうと、全力でクイズに挑むだけです」


 三人のやり取りを伺いつつ、出題者はルール説明の続きを言う。

「誤答しても減点はありませんが、その問題の解答権を失います。では早速はじめたいと思います」


 出題者の説明を聞きながら三人は、机上に置かれた早押しボタンに指をかける。


「問題。世界中の熱帯で栽培されており、茎の根元に」


 ピポピポーン、と音が教室内に鳴り響く。

 全員がほぼ同時にボタンを押したが、解答権を得たのは会計だ。


「キャッサバ」

「正解です」

 出題者がボタンを押し、ピコピコーンと正解音を鳴らす。

「世界中の熱帯で栽培されており、茎の根元にゆるい同心円を描いて両端が尖った細長い形状の芋が数本つける、タピオカの原料になる芋はなんでしょうか。答えはキャッサバです。書紀に一タピオカが入りました」


「ご存じないとは思いますが、全世界のでんぷん生産量の中で、じつはタピオカデンプンは第二位なのです。一位のコーンスターチが四十五パーセント。それに続いての二十パーセントの二位です。三位はじゃがいもデンプンの五パーセントほどですね」

「薀蓄しても加点はありませんので」

「ないのかっ」

 知ってた、という顔をしながら会計は笑う。

 三人は、机上に置かれた早押しボタンに指をかけ、次の問題に備えた。


「問題。タピオカはある国の」

 ピポピポーン、と音が鳴る。

 またも三人がほぼ同時にボタンを押した。

 解答権を得たのは部長だ。


「ブラジル」

「正解です」

 ピコピコーンと正解音が教室内に鳴り響いた。

「タピオカはある国の先住民の言葉、『デンプン製造法』が語源ですが、どこの国でしょうか。答えはブラジルでした。部長にも、一タピオカです」

「語源について聞かれる問題が出ると思ってました。タピオカはトゥピ語ですね。現在でも残ってる言葉として、ピラニアやポロロッカなどがあります」

「薀蓄に加点はありません」

「まじでかっ」

 知ってるけどね、という顔をしながら部長は笑う。

 三人は、机上に置かれた早押しボタンに指をかけ、次の問題に備えた。


「問題。古くから中南米で、現在では世界の熱帯から亜熱帯地方に広く栽培されるキャッサバは世界的に生産量の多い芋類ですが、生産量が最も多い国はどこでしょうか」


 問題文を聞き終えてから、書紀が早押しボタンを押した。

「ブラジル」

 出題者がボタンを押し、ブブブブーと不正解を知らせる音を鳴らす。

「違います。ちなみにブラジルは第四位です」


 出題者の説明の後、会計が早押しボタンを押した。

「インドネシア」

 ブブブブーと不正解を知らせる音が、またも教室内に鳴り響いた。

「違います。ちなみにインドネシアは第三位です」


 遅れてボタンを押したのは部長。

「ナイジェリア」

「正解です」

 ピコピコーンと正解音が鳴り響いた。

「西アフリカから中央アフリカの人たちは、イモ類から作る『フフ』が伝統的な主食で、ヤムイモやキャッサバを使って作られていると聞いたことがあります。西アフリカのナイジェリアでは、ヤムイモの収穫を祝う儀式がある、というのを思い出したので、もしかしたらとひねり出せました」


 書紀と会計は、称賛の拍手を部長に送った。


「問題。ブームになっているタピオカティーですが、発祥は」


 ピポピポーン、と音が教室内に鳴り響く。

 押し勝ったのは書紀だった。


「台湾」

「正解です」

「よっしゃー。飲んだ甲斐がありました~」

 書紀は握った右手を高らかに掲げた。

「タピオカティーは一九八〇年代に誕生し、台湾では流行ってるというより日常に溶け込んでいて、タピオカパンケーキやタピオカサンド、タピオカラーメンなどが人気だそうです」

「だから薀蓄に加点はありません」

「やっぱり?」

 知ってましたー、という顔をしながら書紀は笑う。


「書紀と会計が一タピオカ、部長が二タピオカ獲得しています。つぎの最終問題を正解した人には五十タピオカをマシマシします」

「どうせそんなことだろうと思ったよ」

 会計はほくそ笑み、

「俺のタピオカ愛をみせてやるっ」

 書紀はサムズ・アップし、

「いままので時間はなんだったんだー」

 部長は声を張り上げつつ、それぞれ早押しボタンに指をかけた。


「問題。二〇〇三年からミスタードーナツが販売している、他にはないモチモチとした食感がウケて定番となったポン・デ・リングのモデルとなった、キャッサバ粉を使って作られるブラジルのパンは何でしょうか」


 会計が口元に手を当てながら早押しボタンを押した。

「ポン・デ・ボーロ」

 出題者がボタンを押し、ブブブブーと不正解を知らせる音を鳴らす。

「違います」

 続いて早押しボタンを押したのは部長。

「ポン・デ・カステーラ」

 ブブブブーと再び不正解を知らせる音が鳴り響く。

「違います」

 書紀が首をひねり、早押しボタンを押した。

「ポン・デ・パオ」

 ブブブブーと、またまた不正解を知らせる音が鳴り響く。

「違います。考える方向性は悪くなかったです。ブラジルの公用語はポルトガル語 ですから。正解は、ポン・デ・ケージョです」


「ケージョか……知らんな。どういう意味ですか」

 会計が出題者にたずねる。

「ポルトガル語で『ポン・デ~』は『~のパン』、『ケージョ』は『チーズ』という意味があり、チーズパンを意味してます。正しい発音は『パォン・ジ・ケージョ』です」

 説明を聞いて、なるほどね、と三人はうなずく。


「というわけで今回の勝者は、二タピオカを獲得した部長です」

 出題者の声に合わせ、書紀と会計は称賛の拍手を部長に贈った。

「やった~。これで今日からタピオカ愛に溢れた男になったぜっ。飲んだことないけど、ポン・デ・リングは食べたことあったわー」

 部長は、両腕を何となく突き上げてみせる。

「意外と知らないだけで、いろんな食材に使われて摂っているかもしれないですね。とりあえず、このあとみんなでタピりに行きますか。野郎しかいないけど」

 賛成~、と声を上げて書紀と会計は席を立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼氏にタピオカしか愛せないと言われたら snowdrop @kasumin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ