我こそが正気だと証明してやろう

愛創造

我こそが正気だと証明してやろう

 単純な話だ。我こそが正気だと証明出来る現実、回転する肉体は簀巻きの虜で、此処が真だと証明可能な嘔吐。草花を散らして転がり落ちる感覚は甘美の極みで、誰にも赦されぬ幸福だろう。我に齎された地獄からの狂騒は『意識』の中。失われぬ数値に身を委ねる。嗚呼、全く我こそが正気の化身、誰にも揺らせない岩石と視よ。悪魔の囁きも天使の喇叭もダオロスの輪郭も、我が世界に雫を垂らせず地団太を踏み、ころころと眩暈を認識する不滅膨張。汚物が痕だ。たまらないだろう。闇黒なのか光輝なのか。我が脳髄に染み込む螺旋の茫々は、強烈な歪みを発生させる。盲目の底に陥る感覚は実に病的で、此れを冷静に覗き込める己はやはり正気だ。毒物に足を取られてしまえば一直線だが、取られる足も捕縛され、己の肉は団子状だ。夢も現も何も我を支配する事無く、アザトートの沸騰すらも最早ない。誰の脳味噌に大きな鴉が巣を作った。莫迦らしい。偉大なる詩人も我が真域に無価値を伝染せないと理解せよ。我こそが正気だ。正気故の羅列だと、貴様等ならば解せるだろうよ。ハ、ハ、ハ――神官ナシュト、カマン=タが、我に跪いて祈りを捧げる。此れほどに強大な正気など存在しないのだ。深く。階段は坂道で、尖塔は遂にバベルの如く。否定と肯定の埒外から我は到来し、真実と贋物の境界を混濁させる。ああ。エラブネ何とかだって。知らないな。我こそが神と人間の両者をこねこねし、創造された物体なのだ。概念なのだ。王様なのだ。回る。廻る。巡る……畜生が! 此の程度の回転で我が正気を吐き散らすと。随分と貴様等は傲慢かつ強欲で、救いようもない連中だ。好いだろう。我こそが正気だと証明してやろう。先ずは此れを視るのだ。此の文章。文体。言の葉。乱雑に放り込まれた、想い。重量で言えば脳天! 素晴らしい。貴様等には抱えられない球体だ。我こそが正気と……ナニィ? 此れが正気の証明ではない。甘い。甘いのだ。貴様等が狂気だと何故呑み込めぬ。ただ、起立や着席を繰り返すだけの愚か物よ。我は回転に魅入られ、夢と現をシェイクする正しい流れ。もしや貴様等は我を追放するのか。阿呆め。我が証明を唾棄するとは! 仕方がない。お別れの時間だ。


 で。私の知人は何を喚いているのだ。ああ。落ち着け。彼は確かに正気だ。誰もが自らを正気だと認識する。ならば私は回転すべき肉体で、精神は融解すべきなのか。否だ。私の存在が現実に引き寄せられ、当たり前に定着した時点で不可能だ。唆された知人の脳味噌を。全てを救出するには証明を殺す他にない。証明と称される生物を屠らねば成らない。たとえ知人を滅する結果に至ったとしても、私は此れを実行せねば活けないのだ。手紙は出した。私自身が戻れないからだ。正気と呼ばれる魂を滅ぼすには、私自身が狂気に侵されねば成らない。そう。私こそが狂気だと証明してやろう。もはや誰もが私を嘲笑う。地獄も楽園も悪魔も天使も、ああ、哀れな私は知人の為に正気を失ったのだ。だが。何も問題は無い。道連れだ。私と我は此処に統一され……【生きる】のだ。


 単純な話。正気と狂気の証明など、誰にも出来ないと初めから解って在った。されど俺は此の舞台を記さずにはられない。さあ。魅せてくれ。我と私の行き先を。俺は此処に存在する。俺は此処に存在する。俺は此処に存在する。俺は此処に……ああ。不毛だ。無意味だ。何も生まれない何も愛せない。俺が我と私に分裂した『演技』など腐れた人間の末路なのだ。さあ。もうお終いだ。






 筆を置こう。証明されないならば、俺はいなくなればいい。

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