The Judge
PeDaLu
第1話 制約の世界
「先輩!いつまで寝てるんですか!登庁の時間過ぎてますよ!」
電話の音で起こされた鏑木宣親は後輩横井珠里の大声に思わずスマホから耳を遠ざけた。
「なんでこんな人が上司なのかしら!」
「え?ナニカいったかぁ?」
「何でもないですから、は・や・く来てください!」
ブチッ
「そんなに怒らんでもええでないの。私が失脚したら上席のポジション一つ空くでしょうに」
そんなことを言いながら準備をして登庁する。
鏑木は仕事もそこそこ、人当たりも良いからかそんなにお咎めはない。ハズだったのが今日は違った。上司からひどい剣幕でどやされた。なんでも前代未聞の事件が管内で発生したのだという。
内容はこんなものだった
「今日の昼12:00に突如国民一人一人の眼前にジャッジメントボードなる半透明で浮かんだ板が現れ、更に48時間のカウントダウンを始めている」
どこのSFの世界だ?と思っていたが、同僚に両手を前に出し、同時に左右にスワイプして開くとボードが現れると言われてやってみたら本当に現れた。
「わぉ。すっごいですねこれ。どうなってるんでしょうかね」
「鏑木先輩、なにを呑気なことをいってるんですか!コレで今日は国民が大混乱なんですよ!?テレビ報道やSNSで大ニュースになって全国に拡散してて、対象地域がどんどん広がっているんです!」
「で、48時間後になにが起きるのか分かっているのかい?」
「分からないから混乱してるんです!」
「分からないならとりあえず落ち着きなさいよ、横井くん」
「何で遅刻してきた人からそんなことを言われなければならないんですか!」
「まぁまぁ、鏑木くんの言うことももっともですよ。横井くん。とりあえずは現状把握と対策の協議が先ですよ」
新城警視正になだめられる。
「えー、まずはこのジャッジメントボードなるものがなんなのか調べて欲しい。庁内の人間はもとより、街中の人々からも状況を確認、この対策本部に集めて欲しい。それでは各自行動を開始して頂きたい!解散!」
鏑木も横井を連れて街中に飛び出す。とりあえず商店や交通機関は正常通りではあるが、通行人や、カフェの客はジャッジメントボードの話題で持ちきりだ。
銀座のAppleStoreに来店するいかにもITリテラシーの高そうな顧客を捕まえて捜査協力依頼を行う。
結果はこんな感じだった。
・個人的になにが起きるのかは知らない
・TwitterなどのSNSでは話題が持ちきり。デマも飛び交っている。中には宇宙人の侵略がはじまる、なんていうのもある
・カウントダウン0の時点でヤバいことが起きたら交通機関で大事故が起きるのではないか
・政府はなにをやっているのか
まぁ、予想したとおりだ。重要なのはカウントダウン0になったときになにが起きるか、だ。
これ以上の街頭捜査で新情報は得られないと判断した鏑木は本庁の対策本部に戻ることにした。
対策本部でも概ね同じような情報が集められていた。
「さてどうする」
新城警視正は戻ってきた面々に問う。ほとんどのメンバーがカウントダウン0になる前後30分はあらゆる交通機関、交通手段、経済活動の停止を提言する、というものだった。これには政府の了解が必要だ。官邸に出掛けていった安藤警視総監も戻り、政府の意見を持ち帰ってきた。
・原則、各交通機関は前後30分を含むものは運行停止。各企業にも社員待機を基本とし
可能であれば休業として欲しい
・インフラ系は警察、自衛隊のサポートの元運用を続ける
というものだった。
これからの仕事はカウントダウン0に向けた治安の維持と混乱回避が主な仕事になるだろうな。
そして運命の48時間カウントダウン0、午後12:00を迎えた。
「みなさん、初めまして。私はジャッジメントボード管理者のエリアスと申します。まずはみなさんをお騒がせいたしましてお詫び申し上げます」
「なんだ?いやに低姿勢だな」
「さて、まずはこのジャッジメントボードとはどのようなものか皆さんにご説明申し上げます。これは国民の皆様が社会的に悪と認めた対象を審判するシステムです。なお、審判対象へはこのジャッジメントボードを通じて警告と執行の通知が成されます。執行対象者の情報は警視庁へ随時情報連携されます」
そのとき、警視庁の対策本部に巨大なジャッジメントボードが出現した。
「まずはチュートリアルとして次のルールを発動します」
【ルールに従わずにゴミを捨ててはならない】
なんだこりゃ?つまりはポイ捨て禁止ってことなのか?
「48時間後に追加の説明の為に再びお時間を頂くことになりますのでご了承頂きたいと思います。本日はお時間を頂きまして誠にありがとうございました」
通信?が終わった。即大事件に発展することはなさそうだが、政府がどう判断するかな。
とりあえず、その後は各交通機関等停止指令の出ていた各所は運行を再開した。
「ルールに従わずにゴミを捨ててはならない、か。こりゃポイ捨て禁止令なのか?試しに捨ててみるか」
鏑木は窓から紙飛行機を折って飛ばそうとした。が、横井になにを考えているのかと止められた。
「なるほど。捨てられないな」
「違うと思います」
「じゃあ床にゴミを捨ててみるか」
折った紙飛行機を床に捨てようとするが紙飛行機が手から離れない。と同時に目の前にジャッジメントボードが発動、アラート画面が出現した。
【禁止事項。ルールに従ってゴミを正規の場所に捨ててください】
半透明の赤文字で警告文章が表示された。
「正規の場所、ねぇ。ゴミ箱の事かしら」
ゴミ箱に捨てると手から紙飛行機は離れた。
「なるほど、確かにポイ捨て禁止令のようだ。SNSはどうなっている?誰か確認したか?横ちゃーん」
「その呼び方やめてくださいって言ってるじゃないですか。SNSでも同じような事がつぶやかれてますね。赤い表示が出てゴミが捨てれないって感じです。誰も紙飛行機は飛ばしてないみたいですよ」
「折角、こんなに高いところから紙飛行機を飛ばせると思ったのに。子供の頃からの夢だったんだよ?ない?高いところから紙飛行機飛ばしたいって気持ち」
「ないです」
「つれないなぁ。横ちゃん」
「だから、その呼び方やめて下さい!」
まぁ、まじめな話、こんな現実離れした事が出来るんだ。普通の現象じゃない。更にコレがチュートリアルということは次の48時間後には更に厳しいルールが来る可能性が高い。鏑木はそのことを進言、次の予告時間の混乱を防ぐべく、各地に警官を配置する事となった。
「皆様、こんにちは。エリアスです。チュートリアルは如何でしたでしょうか?このシステムの内容はご理解頂けましたでしょうか?尚、気が付かれた方もいらっしゃったようですが、警告画面をタップすると最寄りの正しい廃棄場所が表示されたかと思います」
なに?気が付かなかったな。いやに親切だな。思ったよりもマイルドなシステムなのか?
「さて、ここからが本題です。今までルールに違反して廃棄した廃棄物は持ち主の皆さんにご返却しようかと思います。返却時刻は今から30分後。それでは、対象者となる皆様はご返却一覧がボードに表示されますのでご確認下さい。本日は以上です」
返却?どういうことだ?自分のボードを確認するが、なにも出ない。横井のボードにもなにもでない。その他のメンバーに何人か該当者がいるようだ。
・2008年10月30日 空き缶1つ
・2015年3月24日 たばこの吸い殻3つ
ほかにも様々なものがあったが、最古のものは10年前ということが分かった。
時間がない。あと15分でエリアスの言っていた時間になってしまう。念のため、テレビの緊急速報等で対象者は身を守るようにという表示を出して欲しいと緊急依頼を出し、SNS公式アカウントでも発信を依頼した。
そしてエリアスが消えてから30分後……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます