第9話光くんと光ちゃんの関係

 彼女の朝は俺に起こされることで始まる。昔は目覚まし時計という便利なツールを使っていたらしいけれど、それは見事に使い捨てになってしまうらしいから、お金の都合上俺になったというわけだ。

「おい、ひかる!!朝だからな!!」

「うう。朝日眩しい・・」

ガバリと布団を剥ぎ取ると彼女はもぞもぞと丸くなる。それからまた同じことを言って

「うう、朝日まぶ」「これは、朝日と言うより太陽だ。」

これ以上ここにいても意味はないから、俺はすぐに部屋を出て台所へ行く。部屋の扉は開けたままだ。彼女は台所の音を聞くのが好きだから。言われたことはないけれど、何となくそうだと思う。

「さて、」

彼女が起きてくるまでに朝食を完成させようと思う。

 もうすぐ夏が近い気がする。ぼんやりと陽の光を浴びながら、そう思った。じりじりと陽に当たっている部分が暑い。このまま焼けたら何、パジャマ焼け?それは何だろう。セクシーだろうか。どうって聞いたら、新太くんはきっと笑ってくれそうだ。

「・・良い匂い、」

じゅーじゅーと聞こえてくるフライパンの音にバターの香り。これはひょっとしてホットケーキ?だとしたら彼は今日、ちょいと寝坊したということになる。うしし、ざまあみろ。

「うへへへ」「・・キモ」

まるまって寝ながらニヤニヤと笑う姿は気色悪い以外の何者でもない。もう本当、ありえないだろう、と思いながらもけれど比奈がこんなことしてたらちょっと可愛いな、とも思う。

「ふふ」「・・うわ、キモ。目、開けて朝一番にそれって勘弁してほしいわあ。ないわぁ。」

いつの間にやら起きていた彼女がベッドの上に立って俺の顔を覗いていた。彼女は本当に小さいからこうしないと俺と同じ目線にはならない。

「うるせぇよ。いいから、早く起きて食え。」

「おいおい、自分の寝坊を人に当たるなよなぁ。」

「ばれてたか・・」

「もろばれじゃ、このドアホめ!!」

「いっ」

ゴツン、彼女の石頭が軽く俺の額にぶつけられた。一瞬見えた星の数を数えるひまもなく彼女のあとを追いかけて食卓につく。珍しく寝癖のない髪は俺の昨日のドライヤーとブラッシングの成果だと思う。

「いただき、うまひ!」

「はいはい。」

ダラダラとシロップをまるで水のようにかけて、彼女はホットケーキを口に運ぶ。信じられない、甘すぎるだろう。見るたびに思うことを口にせずに彼女を見ていた。

 相変わらず、信じられないという目で見てくる彼を無視してナイフでざくざくと切っていく。ホットケーキは新太くんの得意料理の一つで私もよくリクエストする。それと比べると彼の作るケーキはシンプルすぎてだめだ。

「生クリームとか乗せてって言ったじゃん。」

「そんなことしたら、お前糖分で死ぬぞ。」

「っけ」

朝からまさかお説教ですか?冗談じゃないとそっぽを向けばお前なぁ、と小さく抗議の声が上がるが、知らん振りだ。

ぐびぐびとコーヒーを飲んでお口をリセットしてからまたケーキを口に入れる。この瞬間が幸せだ。

「あ、そういや今日、飲みに行く約束してた。」

「・・は?誰と、ってか今日は土曜だぞ。デートじゃないの?」

「ううん、違う。映画見て、ご飯食べて、飲みに行くの。ピヨちゃんと。」

「・・・はぁ?」

ぽとりなんて音がしそうなほど見事に彼はフォークからケーキを落としてしまった。形の良い整った顔を見事に崩して全力でぽかんとしている。何だ、こいつ笑える。

「うはははっ、何その顔、うはははっ」

「うるせぇ、笑うな。ってか、え?何、どういうこと?」

「いや、別にどーもないよ。ただ同じ趣味の映画の新作やるから、一緒に行こうって話しになってさ。行くことにしたの。そんだけ。」

「new太は?今日、休みじゃないの?」

「新太くんは、今日から明日にかけて出張でーす。」

「またかよ!本当かよ!どんだけだよ!」

うわーじゃあ、俺だけ一人かよ。なんて情けなく呟く彼をまぁまあ、と宥めてやる。もちろん笑いながら。

「酔ったピヨちゃんを家まで送る任務を君にあげるから、そう落ち込むなってば。そのまま泊まったら?」

そんなことにやにや笑いながら言う彼女を見つめて、俺は何だか悲しくなってくる。何で彼氏の俺と行かないでよりによって、こいつと・・比奈ってば。

「送り届けて、そのまま狼になってやる。」

「あらま、こうさんってば、とんだ爆弾発言。男前やぁ~」

「うるせぇ、うるせぇ、お前はまた一人で寂しい夜でも送ってろ。泣いてたって帰ってなんてこないからな。」

「はいはい。じゃぁ、せめて泣いて干乾びた私のことをミイラとして保管してくださいよ。」

「おうおう、展示してばっちり金を稼いでもらうよ、その体でな。」

「まぁ、なんて破廉恥な。こうさんのいけず~」

フォークを持ったまま頬に手を当てぐにぐにと体をくねらせる。それからまた、けらけらと笑うと彼女は大きな目を細めて優しい色で俺を見る。

「大丈夫だよ、泣いたりしないから。こうがいてくれるもん。」

胸の中に満ちる温かさは紛れもなく愛だ。彼女のことをとても愛しく感じる、愛。俺たちを惑わせ、悲しませ、怒らせ、そして優しく包む。

「・・・うん、いてやるよ。ずっと、ずっと、ずーっと。」

たとえば、俺が比奈と結婚して子どもが出来ておじいちゃんになったとしても、彼女のことは変わらずこうして愛しているんだろうと、そう思う。どこまでいっても変わらない、不変なカタチ。

俺は彼女の前では、どんな顔をしているんだろう。家族にも、恋人にも見せられないような見せたくないような閉じた感情も。君になら、いとも容易く見せてしまう。

君になら、見せられる表情が、ある。





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グッドモーニング恋イング 霜月 風雅 @chalice

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