第8話光ちゃんと新太くんの関係

 ドキドキ、ドキドキ、心臓が破裂しそうなくらい音をたてている。まるで告白したときみたいだ。なんて思いながら、新太くんの家の前でその人が出てくるのを待つ。

「・・あ、新太くん!!」

「ひ、かる。」

視線が合う。心臓が跳ねる。ドキドキドキドキ、口の中が乾いてパカパカだ。

「何しに、きたの?」

怒っている。そんなことはわかっている。それでも、伝えたいからきたんだ。言いたいことは山ほどある。だけど、

「私、私、新太くんが好き。嫌われてても、憎まれてても、私は新太くんが好き。あの日、あの雨の日に、傘を差してくれたときから、ずっと新太くんが好き。だから、だから、例え新太くんが私のことが嫌いになっても、私は好きだから。影でそっと、好きでいても良い?影で見ているだけなら、許してくれる?」

一気にそれだけを言って危うく呼吸困難になりそうな心臓に必死に空気を送る。バクバク、バクバク、心臓が悲鳴を上げている。顔が、体が熱い。暑い、暑い。

「・・・昨日、こうって人がきた。君が、何もしていないって、謝って行ったよ。友だちだって言ってた。君を傷つけないでくれって。俺、ビックリした。それで、なんか悔しかったんだ。まるで自分の物みたいに、当たり前に君を守ろうとしているのが、」

視線が絡む。心臓が限界だ。頭にまで空気が回ってこない。熱いのは、体か、頭か。

「信じたいけど、信じられない。俺は、ひかるにとって・・なに?」

「恋人、じゃないの?」

苦しい。息がうまくできない。心臓も血液も異常状態だ。病院に行かないと。

「・・・信じても、いいの。俺、その言葉を信じてもいいの?あの人とはなんの関係もないって、ひかるは俺だけの恋人だって自惚れてもいいの?」

「い、いいよ!!良いに決まってるよ!!」

新太くんがちょっと笑った。だから、私も笑った。途端に、視界が揺れる。心臓が、血液が、涙が、流れて止まらない。

「ひ、ひかる?」

「良かった、嫌われたらどうしようって。良かった、好き、好きだよう、新太くん。」

熱い、暑い。体も頭も顔も、目も。どこもかしこも熱くて。何がなんだかわからない。

「ごめん、ごめんね。ひかる、俺も、好きだ。大好きだ。」

ぎゅっと抱きしめられた、温かい新太くんの体に腕を廻して。新太くんの匂いを鼻いっぱい体にいっぱいに吸い込んだ。

「影で見てるなんて、遠くで好きでいるだけなんて・・俺、絶対許さないから。もう、嫌いって言われても・・離す気ないからね。」

胸に響く優しい声に、あっという間に心は満たされてしまうんだから。

「・・・うん、」

触れ合った唇は、甘い。離れてもまだ、足りない。どんなに重ねても重ねても足りないくらいに。


光くんと比奈ちゃんの関係

 アパートの前に立っていると、初めて比奈の家にきた時のことを思い出す。あの時と同じくらい今の俺は余裕がないから笑える。

「・・比奈、おかえり。」

「こ、うくん」

目が合うだけ、名前を呼ばれるだけ、君がいるだけ、それだけで嬉しくなる幸せ。

言いたいことはたくさんあるんだ、ねぇ、聞いて。

「覚えてる?俺が、初めて比奈の家に寄った日。あの日、余裕なふりして何でもないふりしてたけど、本当はこのまま死ぬんじゃないかって思うくらい緊張してた、俺。けど、そん時に気づいた。俺は、この子のためだったら死んでもいいって。」

比奈を守るためだったら、死んでもいい。

比奈が笑えるなら、死んだっていい。

笑えるくらいストレートな感情が高鳴る鼓動と一緒に心に刻まれていた。

「でも、でも、こうくんは、あの女の子と暮しているんでしょ。昨日、来た子。よくわかんなくて怖くて変な、子。私、絶対別れてって言われるんだと思ったのに。なのに、嫌いにならないでって。こうくんは良い人だから、傷つけたくないって。」

手を伸ばしても届かない距離で、比奈の頬を涙が流れる。拭ってやらないと、そう思って。だけど、一歩踏み出したら、逃げたりしないだろうか。そんなことを考えていた脳みそに反して体はすぐに動いていた。

「俺が、俺が好きなのは比奈だから。泣くなって。」

「でも、だって・・だって、」

華奢な身体、細い体。抱きしめれば、腕の中に満ちる比奈の匂い。甘い、匂い。

「泣くなって。・・でも、泣いている顔も可愛いんだけど。」

小さく笑いながら言うと、鼻をすする音と一緒に比奈の声が聞こえてくる。

「こうくんは、優しいから。誰にだって親切だから。不安になるの。わかってても、不安になるの。かっこいい騎士だから、他にもたくさん・・不安になるの。」

ばかだなぁ。小さく呟いて笑った。比奈のためだったら、比奈の不安を消すためなら俺はなんだってするのに。

「ばーか。俺は、比奈以外には仮面紳士だってば。比奈の周りの人に良い人とか、かっこいいとか思われたくて優しいふりしてるんだってば。比奈がちょっとでも、そんな噂を聞いて俺のこと、かっこいいとか思ってくれたらいいな。とか・・俺の努力は、全部、」

比奈のためだけだよ。そう囁いてちょっとだけ笑った比奈の口に触れた。

比奈が流した涙でちょっとしょっぱい。

甘いけど、塩気のある味。


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