第2話 先輩
古代大賢者の執務室から出ると一平は壁を背にして力を抜いた。その手には「隠れ課」と書かれた本と辞令があった。
禁忌の魔女とは普段、仕事で接する機会はない。それなのに今日の朝突然呼び出しがかかり先ほどの事が起き、辞令には引き継ぎなどは1週間で終わらせろと書いてある。
「外で隠れ課の子が待っているから案内してもらいなさい」
部屋から出る直前に言われた。仮面は被り直していたためどんな表情だったかはわからない。
コロコロ
「ん?」
一平の足元に何かが転がってきた。拳大の筒状のもので手作りなのか少し歪んでいた。そして「すもーくぐれねーど」と日本語の平仮名で書かれていた。
だが一平には日本語が読めなかった。読めたとしても意味がわからないだろう。
シュゥゥゥゥゥゥ
「すもーくぐれねーど」から白い煙が噴き出す。一瞬で廊下が煙に包まれる。
*人体には無害な物質を使用しているのでご安心ください
「バリア!」
咄嗟に魔法障壁バリアを張り、口と鼻を袖で覆う。煙で何が起きているかわからない。廊下で突然の攻撃(?)。ついさっきまで四大賢者の動きが怪しいという会話をしていたこともあって古代大賢者の派閥に襲撃し始めたのかと一平は考えた。
ギュゥィィィィィン
どこからか金属が擦れる音がした。
「安心して、峰打ちだから」
タタタタタタ
煙の中から人影が近づいて来る。その人影が長細いものを構えた。そして一平の首筋に硬いものがぶつけられ、彼は意識を手放した。
バリア張っていたのになんでだと心の中で思いながら。
時間は3時間前に遡り午前8時、場所は魔法庁本部一階ロビー
魔法庁はセキュリティが万全だ。一階のロビーには誰でも入れるが、それより先に進むためには職員証と生体認証が必要になってくる。さらに各部署は関係者以外立ち入れないように魔法が使われている。不正して入ろうとすると警報が鳴り、ガーディアンが現れる。
今まで不審者が入ることに成功したのは0回。だから職員はこのシステムを信用している。だから、ロビーを横切り、奥に進もうとしている人物が全身をマントで覆っていても、バニーガールの格好をしていても奥に進めることができたら問題無しと判断する。
そもそもここには多種多様の人種、種族がいるため、格好とかは気にしない。気にする余裕も無い。
だから今回も第五世界地球の日本の女子高生が着るブレザータイプの制服を着て、歯車が付いている曲刀をふた振り背負って駆けていって奥に進んでも問題無しと判断した。
(なんだ……あの服装は?……尊い)
(なんて魅力的なんだ……)
(恋人に着てほしい……)
あえて言うなら、一部の男性職員が仕事の手を止めたくらいだ。
一平が意識を手放したところに戻ろう。
一平を攻撃した女子高生(?)は刀型のカラクリ魔導武器のスイッチをオフにする。刃埋め込まれた歯車が次第に速度を落とし停止する。スチームパンク風の武器といえばわかるだろうか?それを鞘に戻すと一平の腕を掴み引きずっていく。流れるような作業だった。
「なに? うるさいよ」
禁忌の魔女が部屋からひょっこり顔を出す。煙で包まれた廊下と転がっている「すもーくぐれねーど」、それから金属が擦れる音を思い出して
「なんだ、あの子か」
問題無しと判断したのか部屋に戻る。その手には先程の「すもーくぐれねーど」が握られていた。
「言霊魔法、空気清浄からの消滅」
煙が晴れ、「すもーくぐれねーど」が跡形もなく消滅した。
部下の後始末をする上司だった。
魔法庁本部の建物を大雑把に説明しよう。
1階がロビー、食堂、受付、
2階から3階にまたがり総会の会議室。その他大小の会議室
4階から7階までは各部署
8階が四大賢者と古代大賢者の執務室
そして秘密の部屋が多く存在する。特定の方法で鍵を開けたり作動させると開く隠し扉や特定の順番で廊下を歩くと出現する廊下。
重要な部署などはこのようにして隠されている。
そして隠れ課もだ。
隠れ課関係者に渡されている禁忌の魔女作の鍵を4階の1番奥の使われていない会議室の扉で使うと隠れ課がある異空間に通じるようになっている。
ちなみに一平にはまだ渡されていない。禁忌の魔女が、新人は一度隠れ課の誰かとともに入り、挨拶してから隠れ課内で保管されている鍵を渡すようにしているためだ。
その隠れ課では
「なんで気を失わせた!」
「ごめんなさい、つい癖で」
女子高生(?)が課長に説教をくらっていた。女子高生(?)は正座をして、課長は仁王立ちで。そしていくつか椅子を並べて一平が寝かされていた。他の職員はそんなの気にせず、仕事をしている。
「癖ってなんだ!?」
「スモークグレネードを使ったら相手にバレないように攻撃するので」
「そもそもスモークグレネードを使うな! 目立つだろ!」
「古代さんが後始末していたので問題無しです」
「問題ありだ! 古代にやらせるな!」
女子高生はシュンと縮こまった。言い返せなくなったようだ。
「大体いつもお前は」
「テヘペロ」
「なんで今のタイミングでした!?」
課長は息切れを起こすと近くの椅子に座った。テヘペロとした女子高生を見たら怒る気が失せた。
(別に可愛かったから失せたわけじゃないからな)
「お前は仕事はできるがそれ以外がダメなんだよなぁ。頼むからもう少しマシになってくれ……そいつが起きたら謝れ。わかったら仕事に戻れ」
「ハイ先生」
女子高生が右手をピンと伸ばし尋ねた。まるで授業を受けている生徒のようだ。
「テヘペロについては問題無しですか?」
「次やるときは褒めたときにやれ。この課でだったら問題ない」
「ハイ先生」
また手を挙げる。課長はため息をつくと
「今度はなんだ?」
「服装については?」
「どこの民族衣裳だ? 結構似合っているぞ」
「テヘペロ」
魔法庁隠れ課の先輩 √2.5 旧天 @kyuuama
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