第11話

「どこだここ。真っ暗ってことは魔界か? のわりには暑いな」

「人が大勢いる」

「こんなに、どこから湧いたんだ?」

 声がして顔をあげると、田舎者が目の前で騒いでいる。夜なのに人が多いと驚いているらしい。お祭りみたいだっていうのだろう。よくある話だ。

 私はタブレットを出してカクヨムにログインする。ツン読がたまっている。ちょっとした時間でも読んで消化していかないと。

 フォローしている小説の画面をスライドしてゆく。どれを読もうか。

 「わたしたち、呪われたパーティー」九乃カナ。

 九乃カナって誰だっけ。私の小説読んでレビューしてくれたとかかな。それでお返しに読もうと思って小説をフォローしておいたってところか。

 異世界ファンタジー。たまにはよいか。

『電話が鳴っている。しばらく前から鳴っている。かけている人間はあきらめるということを知らないのか。あるいは、誰か取ってくれてもいいんだけど。

 ブレイクはシャワーを止めて浴室を出る。バスタオルを腰に巻き、フェイスタオルを頭に載せる。びしょびしょの足で床を歩く。ダイニングのドアを開けると、電話の音がけたたましい。

「はい、お待たせしました」

 黒電話の受話器を確認して耳に当てた。』

 どこが異世界ファンタジーなんだか。第一話読んでつまらなかったら読むのやめよう。

「七乃さん、早かったじゃないですか。まだ待ち合わせの時間になってませんよ」

 アジサシくんだ。目の前に立っている。仕事帰りのかっこいいアジサシくん。ちょっと疲れ気味かな。

「小説でも読んでようと思ってね」

「なに読んでたんですか?」

「ん? カクヨムのよく知らない人」

 タブレットを渡してやる。

「九乃カナ? PVあんまないですね。七乃さんくらい」

「PV少ないの、アジサシくんのせいでもあるんですけど?」

「ヘンですよね。俺の言うとおりにしていればPVなんてパパッと増えるはずなんですけど」

「うっさいわ」

 タブレットをひったくって取り返す。

「で? 今日はなにがあるんですか?」

「梅雨に入ってジメジメムシムシだから、ビール飲みたいなって」

「いいですね。でも、からまないでくださいね」

「アジサシくんにカラんだことなんてないでしょうが」

「私の小説売ってよって言ったとき。あれ、酔ってからんだんじゃないんですか?」

「あれは、マジ。アジサシくんにキレただけ」

「あの、すみません」

 さっきの田舎者の女の子だ。ぶかぶかな男物の服を着ている。背中に剣を背負っている?

 横にも男物の服を着た女の子。こちらは金髪で胸とお尻がパンパンになっている。スタイルが良すぎるのだ。

 うしろにもう一人いた。身長くらいあるステッキをもっている。淡いブルーの髪。服はニットのワンピースだけれど、裾が短かすぎるのでは。幼女風、ちょっとエロい。

 この人たち、なにかのコスプレか。金髪はホローレンズみたいのかぶってるし、ブルーの髪の子は、スカウターみたいなものをつけている。けっこう本格的だ。なんのコスプレかは知らないけれど。

 渋谷にきたらコスプレの人たちがいると思ってやってきたのだろうか。それはハロウィンのときだけだ。

 アジサシくんは、珍しいもの見つけたって目をしている。

「ここって、もしかして東京ですか? タイではない」

「東京、ですけど」

 こっちがあたりを見回してしまった。どこからどうみても東京にちがいない。ここが東京かわからないって、どういうこと? どこからタイが出てくる?

「ねえ、もしかして異世界に飛ばされちゃったんじゃない?」

「異世界ってなんだよ。東京だって言ってんだろ」

「だから、世界がちがうって言ってんの。ちがう世界の東京だから、わたしたちが知らない東京だってこと。魔界でもないのに真っ暗じゃない。グラス使えないみたいだし」

 ブルーの髪の子は異世界設定なのか。相手の子は黒髪で、女の子っぽくない話し方。

「んー? で、どうやって戻るんだ? ちがくない世界には」

「さあ」

「さあってことは、戻れないってことか」

「そうなるね」

 黒髪の子は頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

 ともかく関わり合いにならない方がよい。興味津々なアジサシくんの腕を引いてお店に向かう。

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わたしたち、異世界パーティー 九乃カナ @kyuno-kana

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