三色の写真
ノソン
三色の写真
仕事の話を終えた後に、ホシノは前から気になっていたことを同僚のサトーに聞いてみることにした。
「その写真、変わってるね。」
そういって指差した机の上にある写真には人が並んで写っている。そして色は付いているのだが、フルカラーではなくたった三つの色で構成されている。
「ああこれね。」
サトーは写真を手にとると懐かしそうな感じで話し出した。
「数年前に人類型の異星人が見つかってコンタクトが成立したのがニュースになっていたのは知ってるよね。僕はその初期の交流団に参加して、かれらの星でしばらく暮らしていたんだ。この写真はそのときのものだよ。ほら、これが僕だ。」
そういわれると、何人かの人が並んで写っている中の一人の顔はサトーだった。
「でも色が変だよね。異星人もこの星に来たのをテレビで見たことがあるけど、こんな変な色じゃなかった。」
「うん。彼らの肌の色はだいたい僕らとおんなじだよ。この写真は彼らが僕に贈ってくれたんだけど、実は彼らにはこれが変には見えないんだ。」
よくわからない。3色だけからなる写真は、アート的な面白さはあるような気もするけど、色が変ではないということはない。
「僕らと彼らは身体の見た目は同じだし、食べるものだってお互いの物を食べても大丈夫なくらい中身も似ている。でも物の見え方についてはだいぶ違う。」
「実は色がフルカラーでは見えないとか? たしか動物などで色の見え方が人とは違うのがいるけどそんな感じで。」
「うーん、違うという点では確かに違うんだけど、色が見えないというのでもないんだ。」
サトーが言葉を選びながら説明してくれるけど、さっぱりわからない。説明は続く。
「つまり光の波長を見分けるという意味では色が見える。虹を見たらちゃんと7色に分かれてみえる。でもそれを3つの色の割合で感じてるのが違う。」
「どういうこと?」
「音で例えてみようか。これは彼らと話すときにもつかったのだけど、ドミソの3種類の音しか聞こえないとする。」
「うん。」
「それだと中間のレやファの音が聞こえないように思えるかもしれないけど、レの場合はドとミの音が混じったように聞こえることで、音の区別ができる。」
「あ、ああ、何となくわかった、かな。でもそれだとレの音と、ドとミが混ざった音の区別が出来なくなるような。」
「そう、できないんだ。だから逆にドとミとソの3つの音があれば、全ての音を表すことができる。」
「それだと実際の音とは違うけど。でもそうか、それが3つの色と関係してるのか。」
「そうなんだ。彼らは光の色をそれぞれの波長としてではなく、3種類の色の強さとして感じているんだ。赤と緑と青の3つの色。それだけで彼らにとっての全ての色を作り出せる。」
「それがその写真、というわけなのか。」
「そう。彼らにとっては本当の色を再現するのも3つの色で代用するのも同じに見えるので、写真や印刷物には3つの色を使って簡単にしいる。彼らは三原色とか呼んでるね。」
サトーはそう言うと、手に持った写真をひらひらさせた。あんな変な色と本当の色の区別がつかないなんて何とも変な異星人だ。
「だから彼らの世界の印刷物とかテレビなんかもこの写真と同じように変な配色で、それには最後までなれなかったよ。それ以外の言葉なんかは練習すれば普通に会話も出来るくらいだし、僕と同じ音の名前もあるらしい。もしかしたら君の名前もあるかもね。」
「まあ僕が行くことはないだろうなあ。」
「でも悪い星ではなかったよ。地球は。」
話を終えて、僕とサトーはお互いの仕事に戻った。
(2020年4月26日 誤記修正)
三色の写真 ノソン @NOSON
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