第25話 宇宙
暗黒の世界。いや夜の世界というべきか。黒地に星をちりばめた世界である。
宇宙
今、俺達は宇宙に来ている。
太陽の光が差して明るいのだが、景色は黒い。星のきらめきが宝石のようで、きれいなのだが、草原や海を見るような、生命の息吹は感じない。
まるで死の世界のように静かな風景だ。
船内には、空気が存在しており、魔法で重力制御もしている。星にいたときと感覚に変わりは無い。魔法とはすごいものだと改めて思う。
しかし、感覚はいつもと変わらないのに、視覚は違和感だらけだ。
ただただ黒い景色。黒と光の点が
俺自身も、生命が感じられない世界とは、こんなにも退屈だったのかと、少し残念に思っている。
宇宙とは、なんと孤独な世界であろう。
重力圏から脱する時に、出力を60%まで上げたが余裕で脱出できた。きしみもない。加速Gも魔法で軽減できている。室内環境にも特に異常は見られない。宇宙船には問題ないようだ。
成層圏を抜け、大気圏を抜けて宇宙へ
星の周りを囲む宇宙放射線の濃い幕に
念のため、この宙域に何日か停泊して、船や身体の問題をチェックするつもりだ。問題があれば、一度星に戻るつもりでいる。
「地球は青かった。なんて言うけど、実際見ると灰色っぽいな。この星だからか?」
「わからない。さすがに宇宙から地球を見たことないからな」
「聞くのと体験するのでは、ずいぶん違う感じね。重力制御されてるから、真空にプカプカ浮かぶ感覚も無いし、窓を見なければ宇宙って感じがしないわ」
「しかし、この星は意外とデカイな」
「宇宙空間も広いわ。吸い込まれそう」
宇宙船の右にある大きな星は、さっきまで俺達がいた世界だ。この星に住んでいたのかと思うと不思議な感じがする。
数時間前に、ナナウさんとサマルちゃんとお別れしたばかりだ。
ヘルンクラムとサマルちゃんが、ガシッと抱き合って別れを
和香とゴンザが、彼女達の別れを見て涙を流していた。
出会った当初は同じ背丈だった二人だが、ヘルンクラムは身長100㎝のままであり、サマルちゃんは身長130㎝まで成長している。月日の経つのは早いものだと実感した。
サマルちゃんは、ヘルンクラムにとって唯一の友達と言える存在だ。少しかわいそうな気もするが、本人達は納得していたようだ。
そこに涙は無かった。
俺は、1年前に進化した。和香は1ヶ月前に、ゴンザは1週間前にようやく進化した。
進化と言っても、意識や肉体に大きな変化は無かった。だが宇宙放射線にも耐える肉体だ。血、肉、骨、全てが違うらしい。バージョンアップだ。
ただ実感は無い。
外見は以前と変わらず、治癒なども前と変わらず効くそうだ。和香もゴンザも、見た目や言動に変化は見られない。
ただ内に秘める力は大きくなっていると思う。魔力や気配に
「なんか変わった感じがしねぇなぁ。本当に放射能に耐えられるのか?」
「なんか心配になっちゃうわよね。寿命もずいぶん伸びたらしいけど、
その辺は、段々とわかってくるだろう。
宇宙船も完成して、進化も無事完了した俺達は、さっそく宇宙へと旅立った。
人がいない草原から俺達の船が飛び立つ、ズズズズン! と空気を震わせて、全長350mの宇宙船が浮かび上がる。
窓からは、草原の動物や森の鳥達が、
「かぁー、本当に飛んだぜ。ロマンだねぇ」
「こんな大きな物体が、翼も無いのに浮かび上がるなんて、本当魔法はすごいわぁ」
和香もゴンザも使い魔達も、驚きに目を見開いている。外から見たら、さぞ迫力のある映像になったことだろう。
水平に浮かび上がった船が、船首を持ち上げて空に上がって行く。ゴゴゴゴと空気を散らし、雲を抜けて段々と空が暗くなってきた。
重力圏から脱する時に、出力を60%まで上げていたが余裕で脱出できた。きしみもない。加速Gも魔法で軽減できている。室内環境にも特に異常は見られない。宇宙船には問題ないようだ。
大気圏を抜けて宇宙へ
そして今、和香とゴンザが、ゴーレムで船外活動をしている。
無重力の世界だ。
船外活動と言っても、ヘルンクラムとフクロウさんに乗って宇宙に飛び出しただけだ。
とにかく我慢できん
と言って、ゴンザ達はヘルンクラム達を連れて部屋を出て行った。
そしてカタパルトで、バヒュっと宇宙に飛び出す。バヒュっと言っても実際に音が聞こえたわけではない。
外は音の無い世界だ。宇宙船の移動音もしなかった。
『あんちゃん、感度はどうだ』
『気持ちいい!
スピーカーから二人の声が響く。通信用の魔法はキチンと動作しているようだ。
二人は、加速魔法を動力にして、すごい速さで艦橋の前を通過したり、止まって宇宙空間にプカプカ浮いたりして、宇宙を楽しんでいる。
「旦那、あっしも宇宙とやらに出てもよろしいでやすか?」
「ああ、
「へい、気を付けやす。野郎ども行くぞぅ!」
「「「おおー!」」」
次々と乗り込み型ゴーレムが、船外に飛び出していく。
無重力の感覚がつかめずフラフラと
クルクル回転して上下がわからなくなり、パニクっているもの。
おっかなびっくり進んでいるもの。
初めての感覚に驚いている者もいるようだが、おおむね問題は無いように見える。
そのうち、編隊飛行を始めた100機のゴーレム達。艦橋の前面の窓やモニターに映る光景は、夢踊る景色だった。
アニメや映画で見た光景が、実際に繰り広げられているのだ。
興奮しないはずがない。
和香とゴンザチームに別れて、集団戦闘訓練まで始まった。魔法がバンバン放たれて、光が踊っている。
「うわー、迫力あるなぁ」
「こんな光景、見たことないにゃ」
誰か死ぬんじゃないかと、ハラハラしながら見守っていると、数時間でみんな帰ってきた。
どの顔にも満足感がある。興奮したのは、見ている俺だけではなかったようだ。
そして今度は、砲撃訓練が始まった。
主砲にゴンザが乗り込み、マニュアルでドゴンドゴンと撃ち始める。近くの小隕石を爆破して、岩塊を飛び散らしていた。
「どうでい。大当たりだぜ」
「負けないわよう!」
そして「あっしも」とドガラゴ達が対空砲に乗って乱れ撃ちだ。ハリネズミのようにパルスレーザーが、全周囲にばらまかれる。
おいおい、エネルギーは無限じゃあないんだぞ。魔力はたっぷりあるし、すぐに回復するとは言え、いくら何でもやり過ぎだろ。
「お前らやり過ぎだぞ。今晩のメシは抜きだ」
「かてえこと言うなよ、あんちゃん」
「そうよう、練習しないといざというときにマズイでしょ」
「ゴンザは船長だろ。艦橋に座ってドッシリ構えているもんなんじゃないのか?」
「始業前点検は必要だろ?」
人を殺せる武器なのに、こいつらにはただのオモチャにしか見えないようだ。
すると船内に風が巻き上がり、突然エイメンが現れた。
「ようこそ、私の世界に。ずいぶん楽しんでいらしゃるようですね」
「ああ、楽しくて仕方がねぇ」
「こっちの世界に連れて来てくれたエイメンさんには感謝してるわ」
そりゃ、やりたい放題やってれば楽しいだろうさ。その後始末をする俺の苦労も考えろっての。
「こんなに早く、宇宙に出てくるとは思いませんでした。さすがは麟太郎さんですね」
「エイメンには、いろいろヒントをもらったからな。素材集めに苦労した程度で何とかなったよ」
本当素材集めには苦労したよ。それに比べたら宇宙船建造など趣味でしかない。
「これから、宇宙の中心に行くのに情報も無いと大惨事が起きてしまいます。私がナビゲートして差し上げましょう」
まずこれをと機材を渡された。
「これは、3次元レーダーです。船の周囲の宙域を映し出し、行き先までの安全な航路を示すものです。そして情報受信機は、宇宙航行機構が発する情報の受信を行います」
3次元レーダーは航路や周囲の船を映し出してくれる。危険宙域や敵の艦船も
情報受信機は情報の受信の他に、他船とのやり取り、情報の
そして一冊の本を渡された。宇宙航行規則が載っているそうだ。車の運転規則のように、宇宙航行にも規則があり、事故防止のために守らなくてはならない。
本は、俺達がいた星と同じ言語で書かれていた。この宇宙は全て統一言語だと、エイメンは言った。
もらった機器を取り付けて、俺達の宇宙旅行の始まりだ。
「次元転移を行いましょう。むやみやたらに転移してはいけません。転移して良い場所は決まっています。まずはここに転移して下さい」
エイメンが指差す場所に、次元転移してみる。宇宙船の前方に、大きな魔法陣が浮かび上がった。
「ほえー、大きな魔法陣ね。これをくぐると目的地に着くのかしら」
「そうです。目的地の状況は、ある程度安全でないと魔法陣は発動しません。魔法が勝手に判断しますが、絶対ではありません。敵に待ち伏せされる場合もありますので、注意して下さい」
俺はゆっくりと艦を進める。船首が魔法陣に触れると、食われるように消えていく。
艦橋も消え始めた。いよいよ俺達の番だ。
「うわー、身体が消えるー」
「大丈夫なんだろうなぁ。エイメン」
ゴンザのひきつった声に、エイメンが優しく微笑む。悪魔とは思えない優雅さだ。
一瞬視界が暗転した後、景色が変わった。どうやら完全に次元空間に入ったようだ。
「うわ! なんだかモヤが掛かったみたいだぜ」
「うう、なんか気持ち悪い」
「10分ほどの辛抱ですよ」
「どれくらい進むんだ?」
「ほんの2000光年ほどです」
和香とゴンザは首をひねっている。どれほどの距離なのかピンと来ないのであろう。
1光年とは、光が自由空間を1年間に通過する長さを示す天文単位だ。約9.5兆キロメートルと記憶している。
1光年は、約地球2億5000万周分だとテレビで言っていたのを思い出した。新幹線の時速を250kmとして、約456万年掛かる距離だそうだ。
同じ番組でやっていた比較では、光の速さで地球から月まで1.3秒、太陽まで8分、土星まで79分、北極星までは430年掛かると言っていた。つまり地球から北極星までの距離は、430光年ということだと説明してあげた。
「2000光年って……、たった数分で、いきなり遠くに来ちゃったわねぇ」
「この船なら、いつでも帰れますよ」
「ヘルンクラムのためにも、たまには帰らねぇとな」
ヘルンクラムがニパッと笑った。エイメンは嬉しそうだ。ヘルンクラムを作り出した親心なのだろうか。
次元空間のモヤを静かに進みながら、エイメンが少し説明してくれた。
これから会う生物は、進化した種族ばかりらしい。魔法を捨てた種族もいるそうだ。
進化していない宇宙に出られない種族は、エイメンによって隠されていると言う。ナナウさん達の星もそのひとつだ。
俺達と同じ人類もいるが、大抵は環境に順応するために、魔物の肉を取り込んで姿形を変えているらしい。中には気の荒い種族もいるそうだ。
全宇宙で言語は統一されており、言葉の心配は必要ないとのこと。
まずは、とある星にいって、宇宙航行規則を学ぶ講習に参加して、免許証を取らないといけないらしい。
その星でエイメンとはお別れだ。
新たな魔法陣が出現して、宇宙船が吸い込まれていく。目的地に到着したようだ。
次元空間から現実世界へと実体化する。景色に変わりはなかった。
ただ遠くにウヨウヨとうごめいているものがいる。宇宙空間にだ。
「なんだあれ?」
「でっかい、蛇玉みたい」
「敵かもしれない。ドガラゴ、一応臨戦体制だ。お前は下部の副砲につけ」
「わかりやした。野郎ども行くぞ!」
エイメンの顔を見たがニヤニヤしている。イタズラっ子の顔だ。なんか
まさかエイメンが敵をぶつけてくるとも思えないが、嫌な予感がする。
「
「「わかった!」」
そうしている間にも船は、ウヨウヨに近づいていく。このまま進むと、ウヨウヨの横を通る形になる。
俺達が事態を見守っていると、ウヨウヨがほぐれて、こちらに向かってきた。
なんとウヨウヨの正体はサメであった。宇宙空間に生息する生物がいるとは思わなかった。
俺が
前部副砲がうなる。3本の砲身から撃ち出された太いビームがサメに当たる。
2匹のサメが、レーザーに身体をえぐられて動きを止めた。
よし! 武器が通用する。
モニターを見ると、後部でも下部でも副砲が撃ち出されて、次々にサメを肉塊に変えている。パルスレーザーも全砲門乱れ撃ちだ。練習しておいて良かった。
本当は、全砲門自動制御可能なんだけど、なんとなく自分達で撃ってしまった。まあ、敵が倒せればどちらでも良い。
ゴガン!
サメが側面にぶち当たってきた。いくつかの砲がやられたようだ。警告灯が点滅している。死人がでなければいいけど。
「衛生班、現場に急げ! 残りの戦闘員は白兵戦用意。サメが顔を突っ込んできたら、魔法で迎撃しろ!」
装甲に穴が開いても、ガムのようなものが内部から発射されて、穴をふさぐようになっている。
しかし、バリアを出すの忘れていたな。まだまだ訓練が足りないようだ。
30分もするとサメをあらかた片付けた。残りのサメは逃げていった。
和香達が帰ってきた。戦闘員に死亡者はいないと、衛生班からの連絡もあった。船体に穴もないらしい。
なんとか切り抜けたようだ。俺達が集まった所でエイメンが口を開く。
「合格です。最終試験も問題ありません。これで安心して送り出せます」
「おい悪魔。いきなりたぁ、ひでえじゃねぇか」
「そうよう、一言言って欲しいわ」
「それでは試験になりません」
やれやれ、3人共にニヤニヤと楽しそうだ。まったく勘弁してくれ。こっちは心臓飛び出すかと思ったぞ。
それからサメの死体を回収した。素材や食料として高値がつく代物らしい。
そして、とある星の大気圏に突入する。ゴウと炎に包まれたように視界が赤い。
エイメンの話では、ゴーレムの外壁は熱にも強いらしい。「これだけ魔力を込めれば十分でしょう」と言っていた。内部の温度はさして上がらない。大丈夫だと信じよう。
俺達は、ヒヤヒヤしながら窓の外を
辺りが暗くなり、段々と日の光が感じられるようになると雲に突入した。
白い視界がすぐに開けて、明るい世界が顔を見せる。
「きれい。空がすごく久しぶりに感じるわ」
「下は草原だな。あの星を思い出すぜ」
「一度降りてみましょう。街に行く前に、この星の景色を楽しむのも良いかもしれません」
宇宙船を地面に停泊させる。初めての作業にドキドキしたが上手くいった。操船はなかなか簡単である。
船外に出ると風に乗って土の匂いがした。なつかしいような感じに、一同言葉もない。
見渡す限りの草原、どこまでも続く青い空、髪を巻き上げる風、ポカポカと優しい日差し、地上は安心するなぁ
動物の群れが、すぐ近くをドドドと通り過ぎる。
「ファンタジーじゃねぇか」
「いいわね。この景色」
俺達が最初に異世界に来たのも、見渡す限りの草原であった。それを考えると
ここから俺達の第二章が始まるのだ。ワクワク感が自然とこみ上げてくる。
「では皆さん。楽しい旅をなさって下さい」
「冒険しまくってやるぜ!」
「エイメンさん、ありがとう。私やるから!」
「俺も頑張ってサポートするよ!」
「にゃ」
ツンツン
ホー
━完━
悪党の輪舞~悪党が銃弾をばらまき、やがてファンタジーに至る物語~ 百福安人 @antmomo
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