第24話 宇宙船

 異世界に来てから三年が経過した。宇宙船建造用の材料となるゴーレム魔石もずいぶん集まっている。魔石にイメージと魔力を流すと形が変わることを利用して、俺はコツコツと宇宙船を作ってきた。

 

 魔石は、魔力を込めると最大で10m3ほどの大きさの部品が作れる。

 

 魔石で、断面がH形をしているH鋼材を何本も作り、船の骨組みにしていく。

 そこに魔石で宇宙船の外壁などを作り貼り付けていくのだが、つなぎ目に魔力を流すと溶接のようにつながるので便利だ。曲げたり形を整えるのも魔法だ。

 

 

 

 宇宙船の建造ドックとして使用している亜空間に、ドーンと宇宙船が係留けいりゅうされているさまは、映画でも見ている気分になる。

 頻繁ひんぱんに、ゴンザや和香もやってきて手伝ってくれた。

 

「この辺は、もう少し出っ張らせたほうが自然だぜ」

「私と麟太郎君の部屋は、こんな感じがいいわ」

「ん、ヘルンも一緒」

 

 宇宙船の外観は、潜水艦のような形にした。今時の葉巻型ではなく、大戦中の潜水艦のように船の形をしている。伊四00やUボートみたいな感じだ。

 

「ずいぶんスッキリした外観ね。麟太郎君のことだから、戦艦大和みたいにコテコテしてるのかと思っていたわ」

 

 元のデザインが潜水艦なので、水の抵抗を無くすために、外側にコテコテした飾りはない。細くツルンとした船である。艦橋なども戦艦に比べると小さい。

 小さいと言っても船体に比べてだ。船体のデザインは大戦中の潜水艦だが、サイズはずいぶん大きくしてあるので、迫力は段違いだろう。

 

 全長350m、排水量6万トンクラスの船だ。

 

「意外とデカイな」

 

 比べるものがないので、これが大きいのか小さいのかもわからない。実際に宇宙に出てから不便な所は直していくつもりだ。

 他の船やドックの状況を見てみないと、どのような船が最適なのか、まったく想像もつかない状況だからだ。

 

 

 

 どのような航海になるのか不明なので、武器もついている。

 宇宙海賊との戦闘や、貴族の宇宙艦隊にからまれる可能性があると、ゴンザや和香が言っているので、いろいろと武器を作ってみた。

 アニメの見すぎだろうと笑われるかもしれないが、何が起こるかわからないので、用意できるものは何でも作っておいた方が良いだろう。

 

 対艦船用の主砲は砲身が3本あって、大出力光線魔法レーザービームを撃つ強力な武器だ。

 副砲も同じく3本の砲身を持つが出力は低い。前後に一門ずつ、下部にも一門付けた。

 

 対空用に短い間隔で連続的にレーザーを撃つ、パルスレーザー砲なども用意した。船の周りにハリネズミのごとく配置された砲門は圧巻だ。

 

 ミサイルのように運用する圧縮炎の弾丸などもある。ただ炎は空気がなければ使えない。

 敵に撃ち込んで爆発までは魔力でやるが、その後は敵艦内部の空気を使って、炎を維持するしかないので、実際使えるのかどうかは微妙な所だ。

 

 武器は全て、普段は船内に隠してある。必要な時にハッチが開き、船外に出てくる仕様だ。

 武器の操作は、魔法で自動的に照準されて撃たれるように魔法陣を組んである。見方の識別信号をキャッチして、それ以外の動くものが標的となる。

 

 手動操作も可能だ。どうせゴンザ辺りが自分で撃ちたいと言い出すに決まっているからだ。

 

「はぁー、武器が出てくると、戦艦って感じでカッコいいわねぇ。大昔のデザインなのにすごくいいわぁ」

「大戦中に実在した船って所が、生々しくて迫力あるぜ」

 

 正直、対艦戦闘などあるのかわからないが、ロマン武器は必要だろうと、和香ほのかもゴンザもノリノリだった。

 

「当然、ゴーレムバトルもあるよな」

「早くゴーレムで、宇宙を飛んでみたいわぁ」

 

 ゴンザが言うまでもなく、ゴーレムをロボットのように運用するつもりだ。発進用のカタパルトも完備している。

 ヘルンクラム達も宇宙用に改造しなければならないが、まだ手を付けていない。と言っても気密を保持する程度だ。移動は加速魔法で、運動エネルギーを作り出すので問題ない。

 攻撃も魔法なのでビームライフルなどの手持ちの武器は作っていない。

 

 

 戦闘は攻撃ばかりではない。防御も重要になる。

 外壁はハニカム構造にして、強度を保ちつつ軽量化している。部品を魔法でイメージ通りに作れるので、知識さえあれば大抵のことは出来てしまうのが面白い。

 

 科学で出来ない事も魔法でなら簡単な場合が多いのだ。

 

 この外壁は宇宙放射線を通さないので、家畜や農作物、農業部屋の土中の微生物などにも影響はない。

 魔力を掛ければ掛けるほど硬くなるので、頑張って硬くしたつもりだ。

 

 どこまで通用するかわからないが、今の俺の精一杯を形にした。

 

 しかし外殻だけで勝負しようとは思っていない。空気魔法でエアシールドを展開して防御することもできる。所謂いわゆるバリアだ。

 空気を固めて分厚い盾を作り、敵のレーザーを減衰、屈折、拡散してダメージを減らす。

 

「本当、あんちゃんはすげえなぁ。俺ひとりだったら、一生いっしょう宇宙に出られなかったんじゃねぇかと、つくづく思うぜ」

「本当ねぇ。こんな船が作れるなんて、考えもしなかったわ」

 

 まあ、すごいのは魔法だし、エイメンにヒントをもらえなかったら、こんなもの作ろうとは考えなかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 俺達は、数年掛けてコツコツとダンジョンコアを集めた。ダンジョン討伐、ゴーレムバトルの賞品、オークションの目玉商品など、コアを集める方法はいくつかあった。

 

 今、手元には20個ほどのダンジョンコアがある。これらが宇宙船のエネルギー源となるのだ。

 

 ダンジョンコアは、周囲の魔素を取り込んで、魔力を精製蓄積せいせいちくせきする。この魔力を運動エネルギーや火力などの、他のエネルギーに変換して使うのだ。

 

 コアは、ラグビーボールほどの大きさのものから、砲丸投げの球くらいのものまで、大きさはマチマチだ。

 

 宇宙船には、エンジン用に8個のコアを使用している。

 飛行魔法や加速魔法の魔法陣が組んであり、宇宙船の航行に必要なエネルギーを作り出す。いざとなった時に逃げるのに必要なのは、エンジンのパワーだ。

 かなり高出力なエネルギーが出せるようにコアをたくさん使っている。

 

 武器用には6個のコアを使用した。

 主砲や副砲は、大出力光線魔法レーザービームだ。それにパルスレーザー砲なども多数ある。魔力が潤沢じゅんたくにないと戦闘にならない。

 

 農業用には2個のコアを使用する。

 太陽光を発する疑似太陽照明や、天井から雨を降らせる魔法陣などを組んで食料生産を行う。

 

 生活用には4個のコアを使った。

 船内の照明、キッチンの火、空気の精製、温度調整、自動扉の開閉、トイレや風呂の水など、生活用のエネルギーを供給する。

 

 

 

 娯楽ごらく設備は、最も重要だとみんなの意見が一致している。

 

 ジム、プール、公園、ボーリング、スカッシュ、幻影魔法を使ったジェットコースターやサイクリングコース、卓球台、温泉風の風呂、ゲーム各種、カラオケ、ムービーシアター、酒場、闘技場など、みんなでアイディアを持ち寄って、航海中の退屈を吹き飛ばす施設を作った。

 

 映画などの映像は、脳内から魔法で抽出できるし、船内は亜空間なので部屋の広さは自由自在だ。

 

「展望風呂で、星を見ながら一杯なんてなおつなもんだぜ」

「サイクリングが楽しそうだわぁ」

 

 ヌフがスカッシュにはまってしまった。ショタ少年姿のヌフを見たのは久しぶりだ。フクロウさんは公園が気に入ったようだ。

 

「ヘルン、ボトムズ見る」

「ポテチとポップコーンはお任せ~」

 

 こいつらは、宇宙に出る前に遊び倒すつもりのようだ。異星人の文化にも、楽しい遊具があれば良いのだが、今は想像すらできない。

 

 

 使い魔も、かなり増えた。現在、5000体の魔物が魔導書にストックされている。

 ドガラゴ達、使い魔の初期メンバーは、部屋も与えて出しっ放しにしている。他の使い魔は、ドガラゴなど初期メンバー6人の部下としている。

 毎日300人ほどが魔導書から出て来て、船内の仕事をしてくれる予定だ。

 

 乗り込み型のゴーレムも100機用意した。乗り込み型ゴーレムは、普段は魔石になっているので、格納庫の広さは、さほど必要ない。訓練場の方が広いくらいだ。

 

 意外とヘルンクラムとフクロウさんが、乗り込み型ゴーレムを気に入ったようだ。自分達が乗り込み型ゴーレムなのも忘れて、ゴーレムに乗って訓練に参加している。

 フクロウさんは人型じゃないのに、器用にゴーレムを操っているのには驚いた。

 

 武器もゴーレムも戦闘員も十分用意したので、艦隊戦にも十分対応できるだろう。

 あとは、戦闘機やエアバイクなども必要なんだろうか。おいおい作っていこうと思う。

 

 

 異星人の文化とはどういったものなのか。どんな料理があるのか。どんな話が聞けるのか。どんな戦いが待っているのか。和香ほのかやゴンザと話したが興味がきない。

 

 

 

 さてさて俺達のスペースアドベンチャーとは、どういったものになるのか楽しみだ。

 

 

 

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