第23話 コア

 あれから何度かダンジョンに挑戦して、今は10階層までたどり着いた。

 

 10階層は岩場が広がっている。疑似ぎじ太陽なのだろうか。日差しも厳しい。

 俺達は、左右にがけがそびえ立つ広い道を進んでいる。地面も岩のように固い。

 

 和香ほのかとゴンザが前を歩き、肩にはヌフとフクロウさんが乗っている。その後ろを歩く俺の横には、ヘルンクラムが手をつないで歩いている。

 

 ヘルンクラムは、手に持った木の枝を振り回して、なにやら鼻歌を歌っている姿がかわいい身長100㎝ほどの幼女だが、乗り込み型のゴーレムに変形すると迫力がある。

 他にも、ボンネットバスや家に変形できる、多機能ゴーレムだ。

 

 

 

 唐突とうとつに、右のがけが盛り上がって人型を成す。3mほどのゴツい身体が崖から生えてきた。

 

 ゴーレムだ。

 

 ヘルンクラムのような、乗り込み型のゴーレムではなく、生きた魔物だ。太い手足も、ゴツい身体もちょこんと乗った顔も、全て岩でできている。

 

 ゴーレムの腕が持ち上がり、俺達に叩き付けられた。大きな音と共に、砂煙りが上がる。

 

 俺とゴンザは後ろに飛んで避ける。和香は横に飛び退ざまに、ゴーレムの腕に一閃いっせんを浴びせた。

 ズズンとゴーレムの片腕が地面に落ちる。ゴーレムの腕の切り口が、モリモリと盛り上がり、すぐに再生を始めた。

 

 再生のスキをついて俺はゴーレムの胸に剣を突き立てる。空振りだ。ゴーレムの魔石を壊そうとしたが、手応えがなかった。

 ゴーレムによって魔石の位置はマチマチなようだ。だが一突き入れると魔力反応によって、なんとなく位置がわかる。

 

「右胸だ。肩に近い所に魔石がある」

 

 俺はゴーレムから距離を取りながら叫ぶ。その言葉に反応した和香が、ゴーレムの後ろから剣を突き入れる。ゴーレムが魔石を割られ、ズズンと地面に転がった。

 

 

 そしてまた歩き出す。ガウッと吠え声がして、がけの上からライオンが襲いかかってきた。ライオンの立派なたてがみが真っ赤だ。

 

 俺達が飛び退いた場所にライオンの魔物が降り立つ。今度は和香とゴンザが左右から、襲いかかった。

 

 ライオンがジャンプして避けると同時に、ガウッと吠える。ライオンの口から衝撃波が生まれて、和香達をはじき飛ばした。

 

「キャッ!」

 

 和香とゴンザがゴロゴロと転がる。

 

 俺はライオンの着地地点に炎の弾丸を放った。着地したライオンの顔が、ボンッボンッボンッと小爆発する。

 爆発の煙からライオンが飛び出してきた。赤いたてがみと血だらけの顔で、俺に迫ってくる。

 

 その大きな身体に、和香とゴンザが左右から、加速の乗った剣を突き立てる。

 

 俺がヒョイとライオンを交わすと、俺がいた場所にライオンが倒れ落ちた。ズズンと音と砂煙りが上がる。

 

 俺達もだいぶ慣れたものだ。

 

「衝撃波とは驚いたわね」

「ああ、初見しょけんの相手には気を付けねえとな」

「厄介な魔物は多いが、俺達も慣れが出てきたからな。油断しないようにしよう」

 

 

 

 そしてやっと見つけた階段付近に、またデカイ魔物がいた。

 

「うわー、まただぜ」

「硬そうねぇ」

「巨人ゾンビより、大変そうだな」

「5階層ごとにボスがいるにゃ」

 

 それは、5mはあろうかという、銀色に輝くゴーレムだ。先ほどまでは岩でできたゴーレムだったが、こいつは明らかに違う。鉄でできたアイアンゴーレムだ。

 

 ズズー、ズズーと足を引きずりながら、時折、グオオオオッと叫び声を上げている。

 

「じゃあ、私とゴンザさんで魔物を引き付けるわ」

「俺は後ろから魔石の位置を探る。気を付けろよ」

 

 和香ほのかとゴンザがアイアンゴーレムの前に出る。

 アイアンゴーレムは、足の動きはのろいが歩幅が広い。それに腕の振りが速かった。

 

 ドゴォン!

 

 地面に叩き付けられたゴーレムの腕により、地面がえぐれ土砂が跳ねる。和香達は加速して大きく避けた。

 

 そんな和香に向かって炎のブレスが吐かれた。アイアンゴーレムの口から、叫びと共に大量の炎が吐き出されて和香を襲う。

 これも大きく避けざるを得ない。和香がシールドを使いながら加速で避ける。

 

 和香とゴンザが近づいた所に、今度は鉄のかたまりが飛んできた。なかなか多彩な攻撃をするゴーレムだ。

 和香達が左右に飛び退き、ゴーレムの腕に斬り付けた。

 

 ズズゥンと地面にアイアンゴーレムの腕が落ちる。だが切り口は、すぐにモコモコと盛り上がってくる。

 

 

 俺は、ゴーレムの背中に剣を刺して魔石を探す。魔石の位置はすぐに知れた。

 

 しかし……

 

 魔石が動いている。アイアンゴーレムの体内で常に位置が変わっているのだ。

 分厚い金属にはばまれて攻撃しづらい上に、弱点の魔石がゆっくりだが動いている事実に、俺は気が遠くなった。

 

 一端離れようとした時に、突然足を捕まれた。アイアンゴーレムの背中から、金属の腕が何本も生えてきて足をつかんだのだ。

 ブンッと手がうなり、俺は地面に叩き付けられた。

 

 地面でバウンドして、血を吐きながらゴロゴロと転がる俺。息が出来ず苦しい。

 

麟太郎君りんたろうくん!」

「大丈夫か、あんちゃん!」

 

 和香達が近寄って、治癒魔法を掛けてくれた。胸の苦しさが治まる。

 

「ヤバいぞ。ゴーレムの身体に剣は通るが、分厚いから魔石に届かない。しかも魔石が体内で動いている。狙いが付けにくい。

 どうするか考えていたら、人間くらいの手が生えてきて攻撃されたよ」

 

 和香達に知り得たことを伝えた。和香達も絶句している。

 ドゴンと鉄塊てっかいが飛んできたのを避けながら話している。

 

「厄介ね」

「で? どうするんだ?」

 

 またドゴンと鉄塊が地面に突き刺さる。

 

「足は斬り落とせるか?」

「さっき腕を斬ったから、姉ちゃんと二人なら可能だろう」

「俺が飛行魔法で上空に浮かんで、長い剣を作る。風魔法の高周波振動ブレードだ。

 20本ほど作ったら合図するから、足を斬ってゴーレムを転がしてくれ」

「20本同時に突き刺すのね」

「当たればラッキー作戦だ。何回か繰り返す事になると思う」

「下手に近づけない以上、それしかねえ」

 

 ドゴンと鉄塊が飛んできて、俺は上に飛んでけ、和香達はアイアンゴーレムに向かっていった。

 

 

 

 アイアンゴーレムの上空で、高周波振動ブレードを作る。刃渡り2mの長い両刃の剣だ。それを20本ほど空中に浮かべ、和香達に合図を送る。

 

 合図と共に二人が加速した。ゴンザがアイアンゴーレムの横をすり抜けながら、ゴーレムの太ももを斬り裂く。和香ほのかがゴーレムの股の間を器用にすり抜け、内腿うちももいだ。

 

 ズズンとアイアンゴーレムがバランスを崩して倒れた。

 

 魔力感知で当たりを付けた場所に剣を飛ばす。ゴーレムの背中にガガガガと剣が突き立った。

 起き上がろうと腕を伸ばしたゴーレムの動きが止まる。足のモコモコも停止していた。

 

「どうやら一発で決まったようだな。ラッキーだぜ、あんちゃん」

「さすが麟太郎君ね」

「ああ、ツイてたな」

 

 大量の金属素材を得てウハウハだ。まさにラッキーと言える。

 

 

 

 

 

 数日後、とうとう15階層までやってきた。ヌフの話では、このダンジョンは15~20階層だろうと言っていた。

 この階層でボスを倒せば、ダンジョンコアを得られるかもしれない。

 

 階段を降りて驚いた。広がる草原に高い空、まるで地上のようだ。

 

 そして空を優雅に飛ぶ赤い魔物。

 

 ……ボスの定番、ドラゴンだ。空飛ぶトカゲなんて生やしさはない。空飛ぶ怪獣がそこにいた。体長は50mほどありそうだ。やつから見たら俺達などアリに等しいだろう。

 

「はぁー、大きいわねぇ」

和香ほのか、何を呑気のんきに言ってんだよ。今からあいつと戦うんだぞ」

 

 つのが生えた恐竜の顔、太く長い首、怪獣のような大きな身体、長い尻尾、全身をおおうゴツゴツとしたうろこ、筋肉質な腕と脚、大きな翼、どれを取っても規格外だ。

 

「はぁー、あの爪見ろよ。爪だけでも俺達より大きいぜ」

「3人だけで、あんなのと戦っても勝てる気がしないわね」

「同感だ」

 

 何を言ってんだよ。確かに倒せるビジョンは浮かばないけど、あれを倒さないとダンジョンコアが手に入らないんだぞ。しかもあれが雑魚敵で、別にボスがいる可能性もある。

 

 とは言え、どうするか。ブレス一発で瞬時に消滅させられる未来しか、思い浮かばないな。

 

「飛行魔法で近づいて攻撃するしかねぇな」

「翼を攻撃して地上に落としましょう」

「みんな、ブレスには気を付けろよ」

 

 俺達が飛行魔法で空を飛んで近づくと、赤いドラゴンが、グオオオと吠えた。威嚇いかくであろう。

 無視して近づくと、口がパカリと開いてブレスが吐かれる。大量の炎が俺の下を走る。すごい熱量だ。

 結構離れているのに熱い。まともに食らったらヤバそうだ。

 

 周囲の空気が熱せられて、風が吹き荒れる。飛行を維持するのも大変だ。

 

 和香が上から加速してドラゴンに突っ込んだ。ドラゴンの肩あたりをすり抜けざまに、翼の付け根に斬り込んだが、はじかれてクルクルと飛ばされている。まったくダメージが無いようだ。

 

 今度はゴンザが上から、同じ場所に剣を立てるが、やはり弾かれてしまう。

 

「3人同時に雷撃だ。肩口を狙うぞ」

「「わかった!」」

 

 ドラゴンは常に動いている。俺達もブレスを避けながらの攻撃だ。同時に同じ場所を狙うのは、難しいかもしれない。

 だが、前にエイメンに聞いたことがある。魔力で身体を強化している魔物に、ダメージを与えるには、それ以上の魔力を込めた魔法が、手っ取り早いと。結界とかもこの方法で破れるらしい。

 

「3、2、1」

 

 俺は、魔力をかなり込めた雷撃を放った。ドラゴンの肩口にカミナリが3方向から集中する。

 

 ドドドーンッと轟音が鳴り響き、閃光せんこうが駆け抜ける。

 ドラゴンは、シュウシュウと肩から煙を上げているが空中にとどまっている。

 

 落ちない。……ちくしょう、失敗かよ!

 

 と思った所にブレスが飛んできた。俺は加速で横へと逃げた。

 煙が晴れたドラゴンの肩口は、大きくえぐれていた。翼もダランと垂れ下がっている。ドラゴンの飛行に翼は関係ないらしい。俺達と同じ飛行魔法のようだ。

 

 うわー、無駄な攻撃しちまった。

 

 でも俺達でもダメージは与えられると分かった。と言っても、あんな攻撃は何度もできない。かなり魔力を込めたから、あと一発が限度だ。

 

 ドラゴンのブレスがゴンザに向かって吐き出された。

 

 どうするか? 

 

 と考えているとドラゴンに向かって何かが飛んできた。

 

 下からヘルンクラムが弾丸のように飛んできて、ドラゴンの下顎したあごにぶち当たる。ブレス中に、ガチンと閉じられた口から、くすぶった黒い煙がれ出てきた。

 

 上からはフクロウさんだ。ゴーレム形態で、ドラゴンの背中に突っ込んだ。ドラゴンが悲鳴を上げて、バランスを崩す。

 

 ヘルンクラムもゴーレム形態でドラゴンの頭に飛び乗った。つのをつかんで首をギリギリとねじっている。

 

 飛行魔法に集中できないのか、ドラゴンが真っ逆さまに落下している。ドオオオンと大きな音を立てて、ドラゴンが地面に突っ込んだ。

 

「今にゃ」

 

 いつの間にかヌフが肩にいた。俺はドラゴンの真上で、大きな空気の剣を作り出す。もちろん高周波振動ブレードだ。

 

 和香ほのかとゴンザが再び雷撃を放つ。ドラゴンがビクンビクンと跳ねて煙を上げている。かなりのダメージだったのか動きが遅い。

 

 そして真上から俺の剣がドラゴンの心臓を狙う。長く分厚ぶあつい剣がドスンと赤竜に突き立った。ビクンと跳ねたドラゴンが動きを止めた。

 

「やったぜ、あんちゃん」

「意外とあっさり倒せちゃったわね。使い魔の強さにあきれるわ」

「ああ、助かったな」

 

 俺達は、ヘルンクラムとフクロウさんをでまくった。

 

 その後、祭壇が出現して、ダンジョンコアを得た。あの赤竜がラスボスだったようだ。初めてのコアを手に入れて、俺達の顔がほころぶ。

 

 

 

 こうして目標の一部が達成されて、意気揚々いきようようと村に帰る俺達であった。

 

 

 

 

 

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