百冊の魔書と空想魔術師

白鷺雨月

第1話設定

一人の天才がいた。

名を本郷字朗(ホンゴウ・ジロウ)という。

翻訳家にして小説家にして装丁家、書道家。

一種のダヴィンチ的才能の持ち主であった。

本郷が作り出すハンドメイドの本は世界中のコレクターから高値で取引された。

本でありながら、芸術的作品としての価値が認められ、オークションなどで1000万円単位で取引された。

本を制作する過程で彼は出会ってはいけないものに出会ってしまった。


だが、それは彼を否定した。


世界から、社会から、周囲から天才と褒め称えられてきた本郷にとってそれとの出会いは屈辱の始まりだった。


それは魔術であった。


あらゆる才能に秀でた彼であったが、魔術の才能は皆無であった。ロンドンの魔術学園に入学しようとした彼に言い渡されたのは才能のないものは去れという冷酷なる言葉だった。

絶望にうなだれ、学園をさる彼に向けられたのは魔術学園の生徒たちによる嘲笑の声だった。魔術師たちのなかには魔法を使えない人間界を侮蔑し、侮り、差別するものが多くいた。彼らを上位主義者と言った。


絶望のなか屈辱を受け、魔術学園を去った本郷であったが、ここであきらめないのが、彼の天才たる所以である。


彼はつくりあげたのだ。

魔力を持たぬ人間でも使える魔法を。

執念と憎悪と好奇心を糧に後に「魔書」と呼ばれる本を書き上げた。

そのすべてが彼の手書きで手作りであった。

そのすべてに魂をこめた。

そのすべてに彼の血をまぜたインクが使われた。

魔書の数はすべてで百冊。

題材は古今東西の名作や希書を本郷独自の解釈とアレンジを加えて書きあげたのだ。

その魔書たちには彼の思いのすべてがつまっていた。

そのため、彼は五十才という若さで早世することなる。


「親愛なる魔術師の諸君。私は想像力をもって創造した。君らの魔術を越える可能性のあるものを。そして、それを世界に配布した。さあ、面白くなりそうだ。命つきるのは誠に残念であるが、旧態依然とした魔法世界にしがみつく君たちが変わりゆく世界にどのように対応するか、せいぜい頑張りたまえ。」

ロンドン金星魔導術学園校長アーサー・ホーエンハイムに宛てた本郷の手紙の一部より抜粋


『用語』

「魔書」

本郷のつくりあげた物語世界を現実世界に具現化、物質化する能力をもつ。物語の中の登場人物を召喚したり、事件事象を現実のものとできる。

扱える者の条件として、魔力を持たないこと。物語を愛してやまないことがあげられる。また、魔書にみとめられることも条件のひとつである。

たとえば、魔書「三銃士」からは銃士隊長シャルル・ダルタニアンを召喚できる。

ただ、魔書の使い方は本人の自由であるため、中には犯罪に手を染めるものも少なくない。


「六花」

日本の魔法界を取りしきる六つの家系。

朱椿、青蘭、黒桜、紫藤、桔梗、白梅の六つの家をさす。


「暁の図書室」

人類社会、魔法世界との共存を目的とす魔書使いの穏健派によって結成された組織。魔書使いの中には私欲のためにその能力を使用するものがいるため、結成された。

本郷字朗の甥、本宮文彦によってつくられた組織である。


「上位主義者」

魔力をもつ者が、持たぬ者を劣等人種として見下し、差別する魔術師たちのことをいう。別名純血主義者とも言う。

中には、劣った人類を導き、支配しなければならないという危険思想の者たちもいる。

彼らを上位主義者の過激派と呼ぶ。


「六花の守護英霊、守護霊獣、それぞれの家訓」

朱椿

守護英霊鬼一法眼

守護霊獣大天狗

家訓風と雲の友


青蘭

守護英霊役小角

守護霊獣犬神

家訓夢想の旅人


黒桜

守護英霊源頼光

守護霊獣夜叉烏

家訓鉄火を持って駆逐する者


紫藤

守護英霊吉備真備

守護霊獣白虎

家訓法と秩序の守護者


桔梗

守護英霊安倍晴明

守護霊獣九尾の狐

家訓真理の探求者


白梅

守護英霊賀茂保憲

守護霊獣天狼

家訓月と水の子


これらはそれぞれのの家の特徴をあらわすものである。


『人物』

本郷字朗

百冊の魔書を世に残し、この世を去った一代の天才。世が乱れるのを楽しむ奇人でもある。


本宮文彦

本郷の甥。百冊の内五冊を所有する。

「三銃士」「里見八犬伝」「真田十勇士」

「怪人二十面相」「ジェラール軍記」の五つの魔書がそれらである。

「暁の図書室」のリーダーであり、五ツ星の魔書使いの二つ名をもつ。また、形式上朱椿に所属している。


リチャード・アストレイド

ロンドン金星魔術協会の極東支部長。

上位主義者ではあるが、人間は支配するにも足らない愚かな生き物であるというのが、彼の持論である。また、文彦に学生時代に決闘 で敗北した経験があり、彼にだけは一目おいている。

極炎の魔術師の二つ名をもつ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百冊の魔書と空想魔術師 白鷺雨月 @sirasagiugethu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ