第68話
正直話が凄すぎてついていけない。
「………………………その話、今じゃないとだめですか?」
僕は裸で、下にはウィスプ、上にはフレアとしずくが乗っている。
奇跡的に泡のおかげで大事なところは隠れているけど、緊急事態ということには変わりなかった。
ゼファーさんは僕を見下ろしながら煙を吐いた。
「……それもそうだな。じゃあ俺も一緒に風呂入るかねえ」
「…………………え?」
僕が呆けている内にゼファーさんは服を脱ぎだした。
タオルを腰に巻くと、その体には圧倒された。
もう結構な歳に見えるのに、全身は大きな筋肉で覆われている。
大小様々な傷もあり、歴戦の勇者であることを示していた。
僕は今、そんな英雄と湯船に浸かっている。
ウィスプ達は仕切りの向こうでトッテムさんと話していた。
「なるほどー。パートナーの性癖を矯正するためにあんなことを。本末転倒な気がしますが、愛を感じますねー」
どうやらトッテムさんは納得してくれたらしい。
「すいません……。お見苦しいところを見せてしまって……」
「まあ、魔物使いにも色々いますからねー。うちの軍にも事あるごとにイチャイチャしている人達がいますしー」
「そうなんですか? それってとっても素敵ですね」
「独身の身からすれば糞うざいだけですけどねー」
案外口悪いなあの人。
トッテムさんとウィスプの会話を聞いているとゼファーさんがふーと息を吐いた。
ゼファーさんの体に比べると僕の白くて細い体とは雲泥の差だった。
「良い湯だねえ。俺の相棒達もついて来たらよかったのに」
「あ、あの……。将軍閣下……」
僕はガチガチに緊張していた。
「固いのは嫌いだねぇ。ゼファっちでいいよ」
さすがに軽すぎます。
それでも親しみやすい話方に少しずつ緊張が解けていく。
「えっと……。じゃあゼファーさん。どうして僕なんかの元に来られたんですか?」
ゼファーさんはタオルを頭の上に乗せた。
「俺の相棒は目が良くてね。お前さんとフェンリルとの戦いを見ていたんだ。それで面白い奴がいるから会ってこいと言われてはせ参じたわけさ。言うなれば使いっ走りよ」
魔物使いで一番偉いゼファー将軍をパシリにするパートナーってどんな魔物なんだ?
いや、それよりもこの人は僕らがフェンリルを倒したって知ってるってこと?
もしかしたらこれって――――
ゼファーさんはフッと笑った。
「脅しだって考えてるなら心外だねえ。俺はそういうのが嫌いだからわざわざ会いに来たってのによぉ」
完全に心を読まれてる……。
「あのフェンリルは確かに部下達を殺した。だがそれも過去の話だ。俺は過去より未来が好きだ。だからその話をしに来たのさ」
未来と聞いて僕はどきりとした。
言い表せない不安が胸中に過ぎる。
「……それって」
ゼファーさんは頷いた。
「近々でけえ戦争が起きる。そうなった時、お前さんには期待してるってことだよ。なんせ金のドラゴンと銀のグリフォンが使えるんだからな。単純な戦力だけで見れば俺よりも上をいってる。これを使わない手はないってのが相棒の意見だ。だが俺は人を利用するのが嫌いでね。有無を言わせずセントラルに引きずりこむのは難しくないが、主義に反する。だから聞きに来たのさ。お前さん、この国を守る気はあるかい?」
「そ、そんな大それたことが僕なんかにできるでしょうか……?」
いきなりの質問に僕は怖じ気づいてしまった。
情けないけど手足が震える。
するとゼファーさんはニカッと笑った。
「やれるかどうかは聞いてない。やる気があるかを聞いてるんだ。そいつがあれば人は強くなれる。それはもうどこまでもな。俺にはそれがあった。だから片田舎の村人は将軍になったんだ」
それを聞いて、僕の心にあった不安のもやみたいなものが吹き飛んだ気がした。
最強の将軍も昔は村人だったんだ。
なら、僕にだってやれるかもしれない。
それに好機があっちからやって来た。それも千載一遇の大チャンスが。
これを逃したら僕は一生最弱のアルフかもしれない。
一生この小さな村で外の世界に思いを馳せるだけの存在のままだ。
なりたい、やりたいと思うだけで行動しない人間のまま終わるかもしれない。
そんなのはいやだった。
絶対にいやだった。
なら、未来を変える為、好機に手を伸ばすしかない。
それが例え修羅の道だとしても、僕らなら進めるはずだ。
覚悟が、決まった。
僕の顔を見ていたゼファー将軍はまた嬉しそうに歯を見せて笑った。
「もう一度聞く。お前さん、最強の魔物使いになる気はあるかい?」
僕は静かに頷き、決意を言葉に込めた。
「……はい! 僕は誰にも負けない最強の魔物使いになります!」
かくして、僕とそのパートナーは最強への道を歩き出した。
あなたが落としたのは金のドラゴンですか? それとも銀のグリフォンですか? 古城エフ @yubiwasyokunin
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