第67話
重い空気から逃げるように僕はお風呂へやってきた。
なにか豪華になってるような気がする 広くなったし、周りに壁もできた。
貧乏なのにお風呂だけは毎日入れる。
いっそのこと温泉旅館でも始めようかな?
お客さんがくれば二人のお肉代くらい稼げるかもしれない。
そんなことを思いながら広い湯船に浸かると疲れが溶けていく。
「はあぁ……。良い湯だ……」
しばらくぶりのお風呂は気持ち良かった。
だけど心身共に疲れていて、あまり頭が回らない。
それでもこのままじゃだめということは分かる。
「どうにかしないとなー」
僕はゆったりと息を吐いた。
それにしてもやけにあっちが静かだ。
女子風呂というか仕切りがあるだけなんだけど。あっちからはいつも聞こえる話し声が聞こえない。
不思議に思った僕が仕切りに耳をつけると、ひそひそとなにかを話していた。
「やっぱり責任ということなら私達にもあると思うんです」
「あの犬っころに目移りするってことはそうとも言えるかもしれないわね」
「あたし、またアルフが捕まるのはやだなー」
「ですからまたそういうことがないように、その……私達で満足させればいいんじゃないでしょうか?」
「たしかにこのままならわたし達全員がロリコンマスターと契りを結んだって汚名を着せられかねないわ」
「だけどアルフはロリ巨乳ってのだけが好きな変態なんでしょ? 大丈夫かな?」
「でもフレアちゃんはロリですし、しずくさんは胸が大きいですからなんとかカバーできるかもしれません。私は足りないですけど、愛の力でなんとかしてみせます」
「決まりね」
なにかとんでもないことが決まった気がする。
それにしてもパートナー達まで僕をロリコンだと思っているとは……。
するとこっちへ向う足音が聞こえてくる。
僕が慌てて風呂場から逃げようとした時、後ろでガチャリと音がして仕切りが開いた。
そんなギミックがあったの? いつ作ったんだよ?
そこからタオルを撒いただけの姿をした三人が立っている。
「失礼します……」
ウィスプは顔を赤らめながら近づいてくる。
「ちょ、ちょっとまって! さすがに色々とまずいって!」
そう思った僕が逃走を謀ろうにも水が体に絡みついて動けない。
どうやらしずくが魔法を使ってるらしく、僕はまんまと捕まってしまった。
僕は椅子に座らされ、背中をウィスプに、右足をフレアに、左腕をしずくに洗われていた。
全身がモコモコと泡立っていく。
気持ちはいいけど、これじゃあまりに……。
「あ……、あの、これは……?」
恥ずかしくてたまらない僕はタオルを腰に巻いて俯くしかできなかった。
「アルフ様の隠していた本にこんな感じのことが書いてあったので、お好きなのかなと思いまして」
好きか嫌いかと聞かれたら好きと答えてしまうけど、まさか三人にされるなんて。
それよりさっきから柔らかい感触が背中に……。
「……その、さっきから当たってるんだけど……」
「……私だって恥ずかしいんですから言わせないで下さい…………」
耳元でウィスプが甘く囁く。
出所早々どうにかなってしまいそうだ。
するとフレアが僕の足の裏を撫でる。
くすぐったくて体がびくんと跳ねた。
「フ、フレア……。くすぐったいよ……」
「でもこういうのもあれに載ってたよ?」
みんな僕のお宝を熟読しすぎじゃない?
足下に気を取られていると左腕が柔らかい感触に包まれる。
見ると僕の腕がしずくの胸に埋もれていた。
「ちょっと……。さすがにそれは……」
「あの子みたいに大きなのが好きなんでしょう? 言っておくけどわたしの方が大きいのよ」
しずくは張り合うようにして僕の腕に抱き付くみたいにする。
やばい。やばい! やばいっ!
もう色々とやばかった。どうしてこんなことになったの?
天国だった。
胸が、お尻が、ふとももが。
肌色の天国だ。
それは認めるよ? でもこの先には地獄が待ってる予感しかないんです。
僕は知ってる。
良いことが長く続くなんてことがないってことを。
この三日間牢の中で嫌と言うほど味あわされた。
「ごめんくださーい」
ほら来た。
知らない女の人の声が聞こえてきた。
「あれ? いないのかな? アルフさーん。いるんですか? わたくし、中央軍から来たトッテム・ケインという者なのですけどー」
最悪のタイミングで最悪の人が最悪の場所から来てしまった。
「ちょ、ちょっと待って下さい! ほらみんな離れて! 早くあっちの仕切りに行くんだ!」
僕は慌てて声を出す。
どんな人かは知らないけど、さすがに中央軍の人に居留守は使えない。
「あ、急に動かないでくだ――きゃあっ!」
僕が立ち上がると体重を預けていたウィスプが足下に零れた泡で足を滑らせた。
「大丈夫っておわっ!」
振り向いた僕の足をフレアが掴んでいてバランスを崩す。
「ちょっと! いきなり倒れないでよ」
「もー。頭打ったー」
するとフレアとしずくも姿勢を保っていられず僕らは折り重なるように床に倒れた。
全身が柔らかな感触で支配される。
「は、早くどいてよ! こんなの見られたらまずいって!」
「ひゃんっ! そこは本当にダメなとこです!」
「どうでもいいけど胸を掴まないでくれる?」
「わー。みんなにゅるにゅるであわあわだねー♪」
だけど僕らは動けば動くほど絡み合っていった。
もう! なんでこうなるんだ!?
僕らの悲鳴を聞いたトッテムさんは慌てた様子で壁に作ったドアを開けた。
「大丈夫ですか? なにかあっ……た…………」
おさげにメガネをかけた真面目そうなトッテムさんは泡だらけで絡み合う僕らを見て固まった。
真面目そうな顔を真っ赤にして口をパクパクする。
「どうしたんだい?」
するとトッテムさんの後ろから低い声が聞こえ、大柄な男の人が現われた。
白髪をオールバックにした格好いいおじさんは右目に眼帯をつけていた。
身に付けてる服は憲兵のものだけど、一部の上級指揮官だけが着られる特注品で、肩には勲章がコレクションされている。
どこからどう見ても偉い人だ。
おじさんは僕を見て目を見開くとほほうと感心して顎に手をあてた。
「三人をいっぺんにとはやるねえ。若いの」
おじさんはニヤリと笑った。葉巻をケースから取り出して魔法で火を付けるとそれを咥える。
おじさんは煙を吐いてからこう告げた。
「俺はゼファー・リンカーン。親愛なる公国軍で将軍なんかをやらせてもらってる」
ゼファー……? 将軍……?
これって本当に現実なの?
頭の中が混乱する中、ゼファーさんは続けた。
「お前さんの話を聞いてはるばるセントラルからやって来たんだ。どうだい? お前さん、うちで最強の魔物使いにならないかい?」
ゼファーさんは歯を見せて笑い、僕にそう告げた。
「………………………………へ?」
僕は裸になって女の子の下敷きになりながら、間抜けな声をあげた。
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