魔物の巣窟

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 フルクリント王国のヒノ・ムニエ王から呼び出された怪物カイブツ機関きかんフォルニアの怪物カイブツ駆除部署くじょぶじょコルテン部隊の隊長ハークレイは『フラシル地方を管理するテルモンテ侯爵が混沌期の学者シャホレーに行わせている魔物バブツ調査に加わって欲しい』命じられた。


 コルテン部隊の出発準備を行っていたハークレイはヒノ・ムニエ王から紹介された協力者、トレティ教会の魔法司教バホウシコウアンヒシャスに『調査よりフルクリント王国民の命や生活を守るために加わる』と目的を説明した。

 (トリステン教会の魔法司教バホウシコウアンヒシャスなら魔法バホウ魔術バシュツの知識が有る)と思ったハークレイは現場で判断する際に有益な材料を提供してくれると期待した。


 動かせるコルテン部隊五十名やアンヒシャスと共に王都クリンフィートを出発したハークレイはフラシル地方の都市アルセンへ向かった。



 都市アルセンでテルモンテ侯爵と面会したハークレイは魔物調査を行っているシャホレーの気難しい性格を告げられて『彼の希望を奪わないで欲しい』と頼まれた。

 『可能な限り』という前提を告げながら了解したハークレイは都市アルセンへ送られていたシャホレーの報告書を読んでアンヒシャスと共に状況の整理を行った。


 報告書からは

魔法バホウが無効化される区域〝魔領域バレイヨク〟は球状である』こと。

魔領域バレイヨクの中から魔物バブツは出ず運び出すと消滅する』こと。

魔領域バレイヨクの範囲は広がり魔物バブツの目撃数も増えている』こと。

などが分かった。



 テルモンテ侯爵から援助を受けて物資の補充を終えたハークレイは調査拠点のナイシェ村へ向かいリア山地方面へ馬車を走らせた。


 過去にシャホレーと面識があるアンヒシャスからシャホレーの詳細な人物像を知ったハークレイは協調性に欠ける人物を相手にする良い方法を想像しながら馬車に揺られた。


 ナイシェ村で合流したハークレイたちはネクローネ戦士団長ソリエスから歓迎された。

 ソリエスから現状の説明を受けたハークレイは負傷者が出て戦力が低下したネクローネ戦士団は目撃数が増えて活動領域も広がっている魔物バブツと戦力が逆転されかねない状況だったと知った。

 山を下りた動物たちの対処に追われる影響で調査の進捗も良くはなかった。


 (『怪物カイブツ機関に研究を邪魔される』とシャホレーから思われかねない)と想定していたハークレイは戦力不足で調査が行い難い状況になっていた影響で援助を感謝された事に安堵した。

 シャホレーは冷静な判断が出来ていると分かり安心したハークレイはシャホレー、ソリエス、アンヒシャスと共に調査の計画を立て始めた。



 球状に広がる魔領域バレイヨクの中心に領域を成す核があるかも知れないと語るシャホレーの考察をアンヒシャスが支持した事で知恵者の意見が一致して順調に計画を立てられた。


 ナイシェ村に拠点を置く調査団は魔領域バレイヨクの全体を正確に把握はしていない。

 ここ数日はナイシェ村に魔物バブツが来ることを想定して戦力が増員されるまで防衛的な布陣を敷いている関係でナイシェ村方面のティムラ山麓しか調査できていない。


 昨日、目撃された魔物バブツは十体程であり中心部の調査には魔領域バレイヨク魔物バブツ全てと戦う可能性があると語ったソリエスに同意したシャホレーから『コルテン部隊はどれ程の戦力になるのか?』と問われたハークレイは『四十名ほどの鉄砲隊を連れてきた』と自慢げに答えた。


 ネクローネ戦士団に近接戦闘を任せると想定して鉄砲部隊を動かせる分だけ連れてきたハークレイは小さな怪物カイブツなら容易に殺せる武器が魔物バブツにも通用すると安易な考えを語った。

 荷馬車に積まれた潤沢な弾薬はソリエスたちを驚かせた。


 この日は準備と休憩に使いコルテン部隊が加わる最初の調査は翌日から行われる事になった。



 翌日、調査の為にティムラ山に入ったハークレイは動物の姿が見当たらず気配すら感じない不気味な森林に驚いた。

 ソリエスから告げられていた『調査を始めてからも多くの動物が山を下りている』事を思い出して魔物バブツがティムラ山の生態系で頂点に位置していると少し実感したハークレイは『ソリエス達が殺せたから、と魔物バブツを侮っているかも知れない』と少しだけ魔物バブツを再評価する必要性を考えた。


 急な斜面を避けて緩やかな山道を歩く調査団は木に生い茂る葉の茂みから魔物バブツの気配を感じながら見張られている現状を対処する有効な手段が思いつかず退路を確保しながら慎重に歩み続ける他になかった。


 木々の枝や草の茂みに隠れている魔物バブツたちを一体ずつ倒すには矢や弾薬の数が足りなくなると考えるハークレイは襲撃に備えながら目的地を目指した。


 葉や草に隠れて監視する魔物バブツは増えていた。

 ある方向から威嚇とも思える叫び声が聞こえると存在を誇示するように様々な方向から次々と叫び声が聞こえ始める。

 魔物バブツからの『警告』と考えた調査団は目前に迫る戦闘を覚悟しながら歩みを進めた。


 茂みから飛び出した魔物バブツに襲撃されたネクローネ戦士団員たちは緑色の小鬼ショウキを叩き切った。

 仲間の惨状に脅えて木々の茂みから飛び出さない魔物バブツの様子を視認したハークレイはコルテン鉄砲部隊に指示を出して威嚇射撃を行わせた。


 鉄砲に脅えて逃げ出した魔物バブツたちを視認したハークレイは部下たちに周囲の状況を細かく調べさせた。

 結果、近距離に魔物バブツが居ない事を確認したハークレイは見張りを除いた部下たちを休憩させた。

 ネクローネ戦士団の状況を確認するためにソリエスの下へ向かったハークレイは負傷者は少なく矢の数や武具の状態も問題は無いと知り少しだけ安心できた。


 火薬式の鉄砲で行った威嚇射撃で逃げ出した魔物バブツが相手なら多めに持ってきた弾薬は使い切りそうも無いと考えたハークレイは(魔物バブツを警戒しすぎていたか?)と思ったが(油断は危険だ)と自分に言い聞かせた。



 小休止を終えて登山を再開した調査団は再び襲撃を警戒して緩やかな道を歩み始めた。

 安全を優先して遠回りに歩み続けていたが真上に太陽が昇った頃、目的地の様子を確認する為に少数で丘へ登ったハークレイは推定身長が三メートルを超える巨大な緑色の魔物バブツを見つけた。※比較対象は巨大な魔物バブツの側にいた小鬼ショウキ

 筋肉質ではない小鬼ショウキと異なり全身の筋肉が発達している大きな混沌コントンの伝説に現れる〝大鬼タイキ〟の様だとソリエスが語った。


 リア山地付近の伝説を知らないハークレイは大鬼タイキの説明をソリエスへ求めた。

 『筋肉質な剛腕は根っこごと木を引き抜き、強靭な足腰で深い川を横断した――らしい』と語ったソリエスは『伝説では建築で活躍した描写しかない』と補足した。

 『根を張った木を引っこ抜く腕力や軽々と木を運ぶ脚力』から戦闘力を考えたハークレイは大鬼タイキを表面的な情報から分析しようと観察した。

 皮膚の色や顔つきなどが小鬼ショウキと似ている事から(小鬼ショウキは幼子で大鬼タイキは大人の様な関係か?)と考察した。

 皮膚が分厚くて人間を超越した重厚な筋肉[予想]を相手に生半可な刃物で致命傷を与える事は難しいと考えたハークレイは『大鬼タイキに接近戦を挑むのは危険』と判断した。


 身体に見合った大きな顔には露出した目があり正確な射撃が出来るなら狙う価値はあると思ったハークレイは『ネクローネ戦士団に弓の名手は居るか?』とソリエスに聞いた。

 『いるぞ』と肯定されて紹介された数名の弓兵の腕前を見たハークレイは目を狙う方針を固めた。


 

 調査団の本隊は小鬼から監視されている事から全軍で奇襲する方策は行い難く正面から戦う方法に決まった。


 大鬼タイキへ向かい本隊が進行すると葉の茂みから見張っていた小鬼ショウキたちが仲間へ知らせる様に叫びだした。

 


 近づいてくる魔物バブツたちと距離があるコルテン射撃部隊は前線に布陣した。

 近すぎない程度に当たる距離まで大鬼タイキを引き付けたコルテン射撃部隊は大鬼タイキへ向かって射撃した。

 肉をえぐった弾丸は大鬼タイキに痛みを与えて傷口へ意識を向けさせた隙にネクローネ戦士団の弓兵が目を射抜き視界を絶った。


 痛みに悶える大鬼タイキは怒りから手を振り回し脚で地面を踏み鳴らした。

 揺れた地面で怯んでしまった調査団は同じ理由で動けなかった小鬼ショウキたちの様子を見て安堵した。


 視界を失う前に視認した敵の方向へ走り出した大鬼タイキの動きを想定していたコルテン鉄砲部隊は射撃地点を離れて散開していた。

 身体と衝突した木々をなぎ倒そうと腕を振り回しながら動き回る大鬼タイキに様々な方向から時間差で射撃を行ったコルテン射撃部隊は混乱させて移動を制限した。

 身体の彼方此方が痛み苦しむ大鬼へ向かって部下たちに投げさせた爆弾を起爆したハークレイは大鬼タイキを無力化した。


 大きな爆発音に驚いたネクローネ戦士団は『目の前に集中しろ!』と叫んだソリエスの言葉を聞いて小鬼ショウキに意識を戻した。

 ネクローネ戦士団は作戦通り深追いしない程度に小鬼ショウキを排除していた。


 『テルモンテ侯爵から爆弾の使用は許可されている』とソリエスに告げていたハークレイは(必要性を理解しても守るはずの森林を壊す行為に抵抗感を抱くのは当然だ)と理解を示した。



 到着した目的地で調査団は三十センチほどの緑色に濁った球体を見つけた。


 調査団と球体の間に群がり道を塞ぐ小鬼ショウキたちの様子から重要な何かであると考えたハークレイは流れ弾が当たらない様に鉄砲は使用せずネクローネ戦士団へ対処をまかせた。


 邪魔な小鬼ショウキを叩き潰していると何処かから現れた緑色の粒子が空中に集まり始めた。


 コルテン鉄砲部隊へ射撃準備を命じたハークレイは徐々に何かを形成する緑色の粒子を観察していると大鬼タイキが形作られている様に感じた。


 ハークレイはシャホレーやアンヒシャスへ説明を求めた。

 『混沌期を研究した限り、魔物は自然の循環に存在しない。から動物の様に生まれ育たず、何かに作られていたと考えられる』と語るシャホレーは『あれは作っている所だと思う』と分析した状況を説明された。


 目的の物を前に小鬼ショウキで時間を稼がれて大鬼タイキが作られている現状は危機的な状況と言える。

 (再び大鬼タイキと戦い勝てる可能性はあるが弾薬などを消費し続けたら帰還するまで戦い続けられるのか?)と不安を抱いたハークレイは大鬼タイキが二体で終わらない可能性を恐れた。


 シャホレーに大鬼タイキを対処する方法を聞いたハークレイは『それは……』と答えを濁す様子を見て焦らされている気分になり不満を抱いた。

 アンヒシャスから『球体が魔領域バレイヨクの中心にある核で領域を形成していると仮定するなら、領域を出たら形を保てない魔物バブツを全滅される方法はあります』と告げられたハークレイは理屈より解決策が欲しくて『如何すれば良いんだ!』と力がこもってしまった。


 『核を壊せば魔領域バレイヨク魔物バブツごと消滅する可能性があります』と聞かされたハークレイは魔領域バレイヨクが拡大を続ければナイシェ村やフラシル地方の全域――に留まらずフラシリア大陸全てが呑まれる可能性を考えて『破壊すべき』と判断した。


 『研究する為に壊すべきではない』と主張するシャホレーに『戦士たちを殺す気か』と怒鳴ったハークレイは『今までは知らないが今回の調査は一人で行っているわけではない。壊さず続けたいなら皆を説得してみろ』と語った。


 シャホレーから反論はなく諦めたと認識したハークレイは球体に近づくためにコルテン鉄砲部隊の一斉射撃で小鬼ショウキを排除した。

 排除しきれなかった小鬼ショウキへ突撃したネクローネ戦士団は球体にたどり着いて剣や鎚で叩き壊そうと試みたが傷つける程度で有効とは言い難かった。

 人力では壊せない球体を壊す為に爆弾を投げさせたハークレイはネクローネ戦士団にその場から離れる様に指示を出した。

 安全を確認したハークレイは爆弾を起爆させた。


 球体が壊れると魔物バブツが粒子に成って空気中に散布した。

 シャホレーが持ってきていた人工遺物ジンコウイブツも止まり魔法バホウが適切に機能していると判断できた。

 魔法バホウ秩序を揺るがす球体を『研究する為に壊すべきではない』と主張したシャホレーの言い分も理解できるが『次がないかも知れない』のは研究する機会に限らず人々の生活かも知れない。

 フルクリント王国を守るために調査に参加していたハークレイは正しい判断を行ったと自分の決断を肯定した。

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断片的、魔法物語 ネミ @nemirura

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