その10 『かえりみる』
お題……「前世」「扉」「希薄なカエル」
ジャンル……「大衆小説」
「この扉の向こうに、前世のお前がいるぜ」
そう言いながら、目の前の自分が笑う。
「はあ」
「気のない返事だなあ。さてはお前、信じてないな?」
「はあ……」
と言っても、これは明らかに夢だ。
自覚しているのだから、明晰夢という事になるのだろうか。
「おいおい、言っておくが夢じゃないぞ? 忘れたか? 今のお前は昏睡状態だ。だからこれは、お前の無意識、化学じゃあ図れない部分……つまり俺が、お前に語りかけている訳だ。分かるか?」
「…………」
はて、昏睡状態? そんな大きな病や事故に遭った覚えは……いや。
「思い当たる事があるだろう。お前は普段の不摂生が祟って、ぶっ倒れたのさ。そして、今ここにいる。思い出したか?」
首を縦に振る。やっと思い出した。自分は寝不足のまま外に出て……
「思い出したようだな。これはチャンスだ。前世の自分を省みて、今をやり直すための。さあ、どうする?」
そういう事ならば、乗らない話は無い。
もしかしたら、前世には今を生きるためのヒントがあるかもしれないし……。
行くと答えると、もう一人の自分はニヤリと不気味に笑った。
「ようし、じゃあ通るといい」
扉がゆっくりと、重々しく開く。真っ白な光が差し込んできて眩しい。思わず目を背けたくなる。
それでも進むと、静かな湖畔へと出た。
「…………?」
キョロキョロと見渡す。人の影は無い。
ただ、蛙の声だけが聞こえる。
ケロケロケロケロ。ケロケロケロケロ。
ケロケロケロケロ。ケロケロケロケロ。
…………うるさいな。少しイラっときて、足元の草を蹴った。
ケロッ
一匹の蛙が飛ぶ。弧を描きながら遠くまで飛んだ蛙は、大きな石に叩きつけられて平らになった。
「あっ」
その蛙と目が合った。気がした。
そいつは、今の自分と同じ目をしていた──
「はっ」
目を覚ました。辺りを見渡す。周りにいる仲間が、心配そうに自分を見つめている。
「どうした?」
気が付いた。ここはあの……
「今すぐ逃げよう! そうじゃないと──」
ザッ
自分の体を、巨大な物が打ち上げた。
押し上げられた肺から、空気が全部漏れていく。
大きく弧を描いた自分の体は、強かに石に叩きつけられた。
「ケロッ」
自分を飛ばした奴と──来世の自分と目が合う。
そいつは、いかにも感情が希薄そうな目をしていた。
完
1ページで読める三題噺SSまとめ 独一焔 @dokuitu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます