ソータをください

稲荷 古丹

ソータをください

昔スーパーで接客のバイトをやっていた友人が50代くらいの女性に、

「ソータはどこでしょうか?」

って聞かれた。


ソーダかソーキの聞き間違いかと思ったけど、どう聞いても

ソータとしか言わなくて、商品名にも心当たりなかったから、

店長を呼んだんだけど、店長は、『自分が対応するから』って

その女性をさっさと案内していったんだって。


次に来た時に対応できるように確認しようと追いかけて行ったら、

女性が精肉コーナーでパックの肉を凄い勢いで次々にカゴに詰め込んで、

いっぱいになったらカートに載せて、別のカゴにまた肉のパックを詰めてた。

それにドン引きしてた友人のところに店長がきて、

「次来ても、あそこのコーナーに案内すればいいから」

ってだけ言って、詳細は何も教えてくれなかったそうだ。


それから暫くして例の女性をお店で見かけて、

その日は乳母車を押してたんだって。

けど何だか焦っていて小走りになってたから危ないと思って、

友人は呼び留めた。


「お客様、他の方にぶつかられると。赤ちゃんにも危ないですから」

「お兄さん、ソータがね!ソータが足りないのよ!」

「それでしたら、ご案内いたしますから、どうかゆっくり」

「でもぉ、これ見てちょうだい。」


女性の指さす先、乳母車の赤ちゃんを見たら、


黒い腐った肉の塊に赤ちゃん服を着せた何かがいて。

目も、鼻も、耳も、口も無くて、指も無くて、

色んな肉がぐちゃぐちゃに凝り固まっていて、

腐った肉の酸っぱい臭いが鼻にきて。


友人は腰抜かしちゃったけど、女性は相変わらず『ソータが足りない』って

ぶつぶつ呟いて、また小走りでどっか行っちゃったらしい。


後で店長に聞いたら昔、スーパーの近くで母子が車に轢き逃げされて、お母さんは無事だったんだけど、赤ちゃんはバラバラになって死んだ事故があったらしい。

死体は完全には元に戻せず、お母さんは毎晩狂ったように道路や歩道で、

息子の肉片を探し回っていたという話だ。


気の毒とは思ったけど出禁にした方がいいって友人が言ったら、

店長は、売り上げは伸びるから大目に見てやってよ、と笑ったそうだ。


その日の帰り道。

友人の目の前を白い猫が通り過ぎたんだけど紐のついた小さなビー玉みたいなものを咥えていて、その後ろをあの女性がゆっくりとついていってたんだって。

次のバイトの日に、同僚から近くで猫のバラバラ事件があったことを聞かされた。


暫くして友人はスーパーのバイトを辞めたけど、今でも肉を見ると時々、

変な臭いがして食欲が失せてしまうらしい。


何であんまり肉食べないの?って聞いた時に、この話をしてくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソータをください 稲荷 古丹 @Kotan_Inary

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ