第7話 やきたて・おとどけ

「てんちょー、氷ノ山神社の雪宮さんから、ダブルベジタブルL、二枚入りましたー」

「よし、俺が行くよ」

「……は?」


 ぽかんとしている新人バイトを横目に、和也は手早くピザを焼き上げると、梱包してバイクに積み込んだ。


 二号店に異動になって一ヶ月、彼は今や本物の店長だった。

 でも実際には、あの先輩が店長に内定していた。元々気乗りしていなかった彼は、なんと美貴と取引をしたのだ。

 店長職と兎の護符を――嬉々として。


『ナンパ出来ない人生なんて死んだも同然』と言って。

 直接和也に言わなかったのは、同情で職を譲られたと彼に思わせないための配慮なのだろう。後でバレたが。

 ――やはりあの男の頭の中身は不可解だ。


 ところで、先日和也が美貴に贈った指輪は、和也の母親が倒れる直前、美貴の誕生日プレゼントにと買っておいたものだった。


 ――しかし、あんな形で贈ることになるとはな。近々向こうのお袋さんにも、婚約の挨拶に行かなければ――。



 氷ノ山神社に着き、長い階段を昇ると社殿の前であのガキ、いや、ご祭神様が呑気にアイスを食いながら、和也を待ち構えていた。白い玉砂利からの照り返しが、彼の銀髪をキラキラと輝かせている。


 ご祭神は和也に気付くとニヤリと笑った。

 そう、あの日マンション前で日干しになってた、そして十年前のあの時の神サマだった。


 和也は帽子を取って、深々と頭を下げた。


「毎度、ピザキャットです。……ご注文の品、奉納に参りました」

 ――今日は俺のおごりだ。神サマよ。


(了)

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茅ヶ崎の幼馴染みは元カレで~やきたて・おとどけ~《氷ノ山神社奇譚》 東雲飛鶴 @i_s

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