さよなら旧バージョンの地球へ

ちびまるフォイ

地球の記念すべき日

「みなさんに大切なお知らせがあります。

 これから1年後に地球が再起動されるのでそれまでの準備をしてください」


「ふざけんな! 急にそんなこと聞いてないぞ!」

「なんで地球を再起動する必要があるんだ!」

「今から別の惑星に移住しろってのか!?」


「みなさん落ち着いて下さい。どうか落ち着いて。

 地球は今宇宙からの未知の脅威にさらされているのです。


 地球に住まわれるパンピーのみなさんにはわからないかもしれませんが、

 偉い人たちがこっそり地球にバリアをほどこしていたのです」


「バリア……!?」


「地球に有害なものを退けるバリアです。

 これを適用するには一度地球を再起動しなくてはなりません」


「再起動なんかしなくていい!」

「そうだ! 今でも十分に平和じゃないか!」

「陰謀だ! これはなんらかの陰謀に違いない!」


「それじゃみなさん、このまま放置して地球をずたずたにする

 危険な敵対宇宙人が襲ってきてみなさんをぶっ殺してもいいんですね。

 きっと宇宙の科学力は地球以上だとしても? 戦争待った無しでも?

 映画のような生易しいものじゃないですよ。わかっていますか?」


「……そんなの来てみないとわからないじゃないか」


「まあ、みなさんがどーのこーのいっても再起動は実行します。

 というか予約しちゃいました。

 これは提案ではなく伝達です。文句を言うのは結構ですが

 さっさと再起動の準備をしたほうが懸命ですよ?」


「「「 それを先に言えーー! 」」」


デモ用のプラカードを作っていた市民だったが

すぐさまやめて近所のコンビニに走って大量の食料を買い占めた。


「地球が再起動するまでの間の食料はもうないのか!?」


「こんな急に補給できませんよ。

 それに地球の再起動中は生物活動も止まりますから

 食料を買いだめしたところで、食べることはできませんよ」


「えっ? 転売しようと思ったのに!!」


食料買い占める勢の動きは勘違いに気づくやものの数日で収束した。

次にシェルターが急ピッチで作られた。


「わしは再起動直前にこのシェルターに入ることにする。

 もしものときがあっても身の安全は自分で保証できるぞ」


「大富豪さん、入っても入らなくても同じですよ」


「やかましい! わしは安全な場所にいるという

 精神的な安心感がほしいんじゃ! この貧乏人どもめっ!」


億万長者たちは自分の財力を存分に振り回してシェルターを作った。

いつしか「どれだけ安全なシェルターができるか」の技術合戦になり、

一般の人達はその様相を白い目で見ていた。


地球再起動にともなった問題はそれだけではなかった。


「えらい人から続報が入りました。

 どうやら地球再起動が行われると記憶が消失することがわかりました!」


いったん地球上の生物が再起動により消失。

その後に再度生物の再生成が行われるために、

それぞれが持っている記憶などもごっそりリセットされるらしい。


「この記憶が失ったら自分じゃいられなくなる!」


慌てた人たちは自分の素性がわかるように「自分ノート」をまとめたり、

記録媒体に自分のこれまでの歴史を残したりで躍起になった。


自分のことに躍起になっていた人たちだったが、

その一方で外交などを行っていた人たちはふと気づいてしまった。


「あれ……もしかして私の年収低すぎ……?」


年収の低さをきっかけに、再起動により外交関係もリセットされることに気がついた。

どれだけ険悪な関係でもどれだけ親密な関係でも記録がなければ国民感情もろとも総理セット。


肌の色などで生まれていた差別感情もすべてゼロからのスタートになる。


「これはむしろ好機じゃないか!」


外交官たちは一斉に記録に「みんななかよし」と小学生の作文のような内容を書きなぐり、

再起動後にもう不要な戦争がそもそも起きないように準備した。


地球再起動に驚いたのは人間だけではなかった。


『おい、大変だぞ! 地球が再起動するらしい!』


『再起動たってなにすりゃいいんだ!』


『オレたち動物はなにもできやしないさ』


『それより、再起動により絶滅動物も再生されるらしいぞ!』


動物たちもなんやかんやでコミュニケーションをとって、

慌てふためく人間たちから地球再起動を類推した。


これまで絶滅した動物も数百年前のものまでは復活する。

失われた自然も取り戻され、水没した都市も浮上する。


再起動によりふたたび地球はフレッシュな状態へと生まれ変わる。


「再起動も悪いもんじゃないな」

「汚される前のキレイな海に戻るんだ!」

「きっと地球再起動は神の啓示だ!」


地球再起動が近くなると、人間の準備はほぼ終わり

さながら新年をお祝いするような祝賀ムードへと包まれた。


「みんな! 再起動の準備はいいか~~!?

 カウントダウンはじめるぞーー!」


「5!」


「4!」


「3!」


「2!」



「1!」



「 再起動ーーッ!! 」



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地球は予約どおりに再起動された。


かつて失われた自然はもとにもどり、絶滅した動物も復元された。


地球セキュリティシステムが適用されると、

地球に害をなす生物は地球にもう入れなくなった。




これはかつていた人間という生物が絶滅するまでの歴史である……。

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